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【特集記事】膵臓がん ~先生のご家族ががんになったらどうしますか?~
目次
Q再発・転移膵臓がんの治療法を教えてください。
膵臓がんにおける治療選択では、まず手術で切除できるかを判断するところから始まります。膵臓にがんがとどまっていて、転移がない場合が手術の良い適応です。膵臓がんは早期発見が難しいため、切除可能な患者さんは10人に2人程度です。膵臓にのみにがんが留まっているにもかかわらず、周囲の血管を巻き込んでいるために切除できないと判断された場合は、抗がん剤や放射線治療が選択肢となります。
手術後に再発した場合や転移のある患者さんは、抗がん剤によって治療をしていきます。外科以外の治療では膵臓がんを完全に治すことは難しいのですが、抗がん剤や放射線治療を受けることにより、元気でQOL(生活の質)が保たれた生活を長く送っていただける可能性が高まります。
注目される多剤併用「ゲムシタビン+ナブパクリタキセル」と「FOLFIRINOX」
膵臓がんに対して有効な抗がん剤がわが国で使用できるようになったのは2001年です。ゲムシタビン(商品名 ジェムザール)の有効性が海外の臨床試験で示され、臨床の現場でも使われるようになりました。その後にS-1(商品名 ティーエスワン)と呼ばれる内服の抗がん剤が登場して、ゲムシタビンと比較しても劣らない成績が確認されました。
また、ゲムシタビンをベースにして違う抗がん剤を上乗せする投与方法も効果が確認されています。ゲムシタビンにエルロチニブ(商品名 タルセバ)という分子標的薬をプラスして投与する方法や、ゲムシタビンにナブパクリタキセル(商品名 アブラキサン)を追加する方法です。ゲムシタビンとナブパクリタキセルの併用療法は、日本では膵臓がんに対しては保険未承認ですが、7月に行われた日本臨床腫瘍学会でよい成績が報告されていましたので、近い将来に、日本でも保険適用になると期待されています。
もうひとつ、最近注目されている治療法に、※FOLFIRINOX療法(フォルフィリノックス)という、4剤を併用した投与方法があります。(※FOLFIRINOX療法はオキサリプラチン(L-OHP:商品名エルプラット)、イリノテカン(CPT-11:商品名カンプト、トポテシン)、レボホリナートカルシウム(l-LV:商品名アイソボリン他)、フルオロウラシル(5-FU:商品名5-FU)の4剤併用療法)フランスで行われた臨床試験によって良い結果が報告されまして、日本でも昨年の12月から膵臓がんに使用できるようになりました。
整理しますと、ゲムシタビン、S-1、ゲムシタビン+エルロチニブ、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル、FOLFIRINOXといった治療法がファーストライン(最初に投与する抗がん剤)で提示できる選択肢ということになります。
Q膵臓がんの治療選択はどのように決定されるのでしょうか。
ファーストラインでは、5つの選択肢があるとお話ししましたが、それぞれの治療の特徴を患者さんに十分ご理解頂いた上で、がんの状態や全身状態を考慮して治療方針を決めていきます。また、全身状態が良い方であれば、ファーストラインで選択した薬剤の効き目が弱まった後、セカンドラインとして違う成分の薬で治療を受けることが可能です。
基本的に全身状態が良い方(年齢でいうと75歳以下の方が多い)の場合ですと、ファーストラインでFOLFIRINOXやゲムシタビン+ナブパクリタキセルなどの多剤併用療法を選択して、セカンドラインにてゲムシタビンやS-1などの単剤療法を選択することが多いでしょう。
FOLFIRINOXやゲムシタビン+ナブパクリタキセルのように多剤を使用する投与法ですと、ゲムシタビンやS-1などの単剤療法よりも、副作用が強くでやすいため、体力のあるファーストラインの時期に使用され易いのです。一方、75歳を超えて体力が衰えてきた方や、全身状態がよくない方、重い合併症ある方などは、ファーストラインでも、副作用が比較的少ないゲムシタビン、S-1の単独療法を選択することになると思います。
我々医師は、それぞれの治療法の期待される効果や副作用をしっかりお伝えし、患者さんが納得いく選択をして頂けるように心がけています。
Q抗がん剤の副作用を教えてください。
膵臓がんで使用される抗がん剤の主な副作用は2つあります。骨髄抑制と、消化器症状と呼ばれる副作用です。骨髄抑制とは,白血球や血小板などの血球成分が減少してしまうことをいいます。骨髄抑制が起きると感染症や出血のリスクが高まりますが、これらの合併症が起きなければ患者さんにはほとんど自覚症状がありません。
一方で、消化器症状とは、吐き気、食欲低下、下痢、口内炎などのことをいいます。血球と同様に消化器の粘膜は抗がん剤に弱いのです。この2つ以外には、全身倦怠感や湿疹などが比較的良くみられます。
FOLFIRINOXやゲムシタビン+ナブパクリタキセルなどの併用療法では、骨髄抑制や消化器症状などの副作用が強くでる傾向にあります。特にFOLFIRINOXでは発熱性好中球減少と呼ばれる感染をともなった骨髄抑制が、日本人では5人に1人程度起きたことが報告されており、注意が必要です。悪寒を伴う発熱や強い下痢など、重篤な副作用を疑う症状が出たときには、がまんせずに病院に連絡して下さい。
また、FOLFIRINOXやゲムシタビン+ナブパクリタキセルでは、末梢神経障害という副作用が出やすいことが知られています。末梢神経障害とは手足の痛みや痺れ(しびれ)が主な症状です。FOLFIRINOXに入っているオキサリプラチンやナブパクリタキセルという薬剤が末梢神経障害の主な原因です。末梢神経障害は一般に、治療が長く続けば続くほど、現れやすくなります。
末梢神経障害に関しては、残念ながら良い治療方法がないため、副作用が強くなってきた場合には、オキサリプラチンやナブパクリタキセルを減量したり休薬して対応します。副作用の症状が改善したら、また再開するなどコントロール方法をとっています。
先生のご家族やご友人が、がんになってしまった場合、どのような病院をご紹介しますか?病院選びのポイントがあれば教えてください。
ここ数年で、膵臓がんにおける抗がん剤治療の選択肢は広がってきました。ファーストラインで選択する治療法は、後の治療法にも影響を及ぼすので、最初の選択はとても大切です。膵臓がんと診断された場合には、最初の治療法を決める前にセカンドオピニオンを検討されることをお勧めします。複数の医師の意見を聞き、可能性の幅を広げてから、本当に自分に必要な治療を見極めて頂きたいです。
病院選びのポイントですが、ご自宅の近くに治療経験が豊富な、専門性の高い病院があれば、まずはそこに聞いてみるのが良いでしょう。日本のがん治療の現場は、地域格差をなくして全国どこでも同じ高度な医療を受けられるようになりつつあり、地域ごとに専門性の高い病院が増えてきました。抗がん剤治療は基本的に外来に通院して治療をします。
手術のように何日か入院して家に戻れるといったものではありません。1週間~2週間に1回程度は病院に通う必要がでてきます。副作用が強くでたら、必要に応じて入院することもあるでしょう。このようなことを考慮すると、家から無理なく通える範囲内が良いと思います。遠方から、がんセンターの外来に通院される方もいらっしゃるのですが、通常は1時間くらいで通える範囲を目安にアドバイスさせて頂いております。
膵臓がんは、非常に厳しいがんなのですが、多くの方に抗がん剤の効果が期待できますし、副作用をコントロールしてQOLを保ちながら延命することができます。副作用を心配されていらっしゃる方も多いと思いますが、今は副作用を抑える治療(支持療法)も進歩しており、ほとんどの方が外来で安全に治療を続けることができるようになっています。
また、稀ではありますが、中には手術で切除できないと診断された後に、抗がん剤が効いて、手術で切除できるようになった方もいらっしゃいます。厳しいということを認識して頂きながらも、希望持って頂きたいと思っています。
【治験に参加するという選択肢】TIPS
承認されていない新薬を使う場合には、治験に参加するといった選択肢があります。国立がん研究センターでは、膵臓がんの方を対象にさまざまな治験を行っています。現在進行中の治験の一つに、低酸素活性化プロドラッグ の「TH-302」といった薬剤とゲムシタビン併用の効果を確かめる国際共同治験があります。海外の第Ⅱ相試験で良い結果がでたために、第Ⅲ相試験に進んだもので、その結果が注目されています。
また、FOLFIRINOXに関しては、発熱性好中球減少の副作用が日本人では比較的高頻度に出現するため、用量を少なく調整した医師主導の臨床試験(modified FOLFIRINOX)が、多施設共同試験として行われています。
取材にご協力いただいたドクター

上野 秀樹 先生
国立がん研究センター 中央病院
肝胆膵内科 外来・病棟医長
カテゴリードクターコラム
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