【QOL(生活の質) I 】医療用ウィッグの正しい選び方

公開日:2014年08月29日

目次

 今回は抗がん剤の副作用における脱毛と、そのケアで使われるウィッグについてご紹介します。ウィッグ選びのポイントや外観ケアに関して、医療向けウィッグを取り扱っている株式会社スヴェンソンの根岸様と坂口様にお話しをお伺いしました。

スヴェンソン様

株式会社スヴェンソン
(左)東日本エリアマネージャー 根岸ゆきえ様
(右)販促・マーケティンググループ  坂口雄人様

抗がん剤治療における、ウィッグ選びのポイント

 ウィッグを初めて選ばれる方は多くの疑問や不安があると思います。まず、ウィッグ選びのポイントで一番注意して頂きたい点は、皆さまが思われているよりもウィッグを必要とする期間は長く、1年~2年に及ぶということです。

抗がん剤を投与し始めると、個人差はありますが、投与開始からおよそ2週間~3週間かけて徐々に抜けていきます。そして抗がん剤治療が終わった後は、髪が1ヶ月に1cm程度のペースで伸びますが、伸び始めは白髪やくせ毛になることもあり、その間は整えながら髪を伸ばしていきますので、ロングヘアだった方が元の髪の長さに戻すためには、治療開始から約2年程度、場合によってはそれ以上かかってしまう場合があるのです。

髪の毛が抜ける時、それからまた元に戻ってくる時には髪の量にともなって頭のサイズが日々変化していきます。そのため、サイズの固定されたウィッグを買ってしまうと髪の変化に対応することができません。

また、医療用ウィッグは地肌に直接つけるため、頭皮を優しく包み、患者さんの頭にフィットすることが大切です。サイズの合っていないウィッグは外見に影響がでてきますが、患者さんによっては髪のことを誰にも相談することができず、実物を見ずに通信販売でウィッグを購入して後悔する方もいらっしゃるようです。

価格が安いことは大切な選択基準なのですが、サイズが合わずに買いなおすことになっては逆に高くつくこともあります。サイズ調整の可否を含めて、長期使用できる品質かを確認することが重要です。

その他、患者さんの悩みをお聞きすると、治療開始後はいつもの美容室に通えなくなったという声が多くあります。ウィッグメーカーによっては治療中の頭皮ケアやヘアカットができる個室のサロンを運営しています。がん治療のことを理解している美容師がいることは、患者さんにとって大きな安心になるでしょう。一人で悩まずに、まずはこのような施設を訪れて、専門のスタッフに相談してみると良いと思います。

弊社でも、治療から自毛回復まで患者さんを支えるために、美容師のいるヘアサロンを開設しています。ヘアサロンでは、脱毛がはじまった時や、髪が伸びている途中でも、周りを気にすることなく利用できる、個室の機能が付いています。

■ウィッグ販売店の比較表
通信販売のみを行うところ、店舗での販売のみを行うところ、販売後のケアに応じてもらえるサロン(美容室)を持っているところの比較です。サロンを利用する場合には費用がかかりますが、通常の美容室とそれほど変わらない料金で利用可能なところもあります。ウィッグは1年~2年にわたって長期に使用するものです。それぞれの利点をよく考えて比較検討しましょう。

※図表1【ウィッグ販売店の比較 国際毛髪科学研究会監修「脱毛ケアマニュアル」より】

ウィッグ販売店の比較

治療開始から自分の毛髪が回復するまで

【抗がん剤治療をはじめてから自毛回復までのフロー 国際毛髪科学研究会監修「脱毛ケアマニュアル」より】

化学療法前~治療終了までの経過

 

■治療日の決定:
治療内容が決定する頃には、ウィッグに関する情報を集めておきましょう。治療前の髪の状態を、ウィッグサロンなどに見せて、相談しておくと、治療後に調整してもらうヘアイメージを共有しやすくなります。

■抗がん剤投与開始:
抗がん剤治療が始まり、副作用による脱毛が始まる前に髪を短くカットする方もいます。脱毛前に髪をカットすることで、シャンプーやブラッシングなどの頭皮ケアをしやすくするためです。一度に短くカットしてしまうと、心の準備が追い付かない場合もありますので、段階的に短くする方もいます。

■脱毛:
脱毛が始まると、ウィッグの着け心地に変化が現れます。ヘアサロンなどで、頭皮の状態を確認しながら、ウィッグのサイズ調整をしていくことで、頭皮への負担を考慮しながら自然な外見を維持できるでしょう。脱毛時には、使い捨てタイプのヘアキャップなどを使うと、生活中や、就寝時に髪の毛が落ちるのを防ぐことができます。

■抗がん剤終了 ~ 発毛:
抗がん剤の治療が終わると、発毛が始まります。治療終了後の生え始めの髪は、治療の影響もあり髪質が変わります。ヘアサロンのスタッフと相談しながら、状況に応じてカットして様子をみていきます。

ウィッグをつけることの意義について

 当社にご相談頂く方の割合は、乳がん患者さんが約4割です。次に多いのが子宮体がん、子宮頸がんなどの婦人科系のがんが2割~3割、続いて消化器系がん、血液系のがんとなっています。最近の抗がん剤治療は、入院期間は短縮されていますし、外来だけで行えるものが多くなってきました。

また、厚生労働省などの行政もがん患者さんへの就労支援に意識を向け始めており、仕事を辞めずにがん治療をしながら働いている方が増えています。そのため、ウィッグへのご要望も増えているのが現状です。 患者さんにとっては、周囲の人に治療のことを話すことはとても心の負担になります。

しかし、ウィッグを着けることで、周りからのイメージを崩すことなく、お付き合いすることが可能となります。会う人、会う人に自分の治療の説明をしなくて済むことは、かなりの心の負担軽減になっているようです。周りからのイメージもそうなのですが、自分自身が思っている外見のイメージ(セルフイメージ)を損なわないことも、治療へのエネルギー、生きることへのエネルギーに繋がっていくと私たちは考えています。

相談される方の中には、脱毛を気にして抗がん剤治療を断ってきたと話す方もいらっしゃいます。ウィッグの存在を知り、自分自身のイメージと周りからのイメージを崩さずに治療を受けられることが分かると、最後にはご納得されて、抗がん剤治療を受けるようになったケースもありました。治療中だからこそ、病気のこと以外で心配ごとを増やさないで欲しいと願っています。

ウィッグだけのサポートということではなく、外見の変化に対する全般のお困りの事に対してお答えしていくことが我々の役割だと思っています。

スヴェンソン様_02

がん哲学外来(メディカルカフェ)へのサポート

 私たちスヴェンソンは、ウィッグを通して、様々な医療者、患者さんとのお付き合いを重ねてきました。その中でもっと患者さんを支援できることがあるのではないかとの思いから、順天堂大学の樋野先生が中心になって立ち上げられた「一般社団法人 がん哲学外来」に共感し、その活動をサポートさせていただいております。

樋野先生は、「医療現場は患者の病状や治療の説明をすることに手一杯で、がん患者やその家族の精神的苦痛までを軽減させることができないのが現状。医療者と患者さんの「隙間」を埋めるためには、病院や医療機関という場所に限らず、地域や街中などの集まりやすい場所で、立場を越えて集う交流の場が必要。」とおっしゃっています。

具体的にはメディカルカフェという形で、全国に対話ができる場所をお作りになっておられ、我々のお店も、そのひとつとして場所と飲み物を提供して開催をサポートしています。ここで語られることは、常に死生観といったことではありません。外見をキレイにしたいという純粋な思いを持っている方もいます。なかなか打ち明けられる場所がなかった方にとっては、例えば、私たちに打ち明けて下さることで、気を少しでも楽にして頂きたいと思っています。

ネット上には情報が溢れていますが、ネットだけの情報では正しくご自身の脱毛、頭皮ケア、ウィッグのことを理解することが難しい場合があるかもしれません。是非カフェに訪れて、さまざまな方と対話することで納得のいく情報を得て頂きたいと思っています。心の安心は正しく知ることから始まります。我々は正しい情報をお伝えしたいと心から願っています。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。