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【特集記事】立ち上げから3年、 “あきらめないがん治療”の今後の展望
目次
「再発・転移がん治療情報‘あきらめないがん治療’」のWEBサイトを立ち上げてから3年が経ちました。
今回はサイト設立のひとつの節目として、その活動に関する思いや、WEB無料相談でよく寄せられる悩み、あきらめないがん治療ネットワークの今後の活動などについて、代表理事である田口 淳一先生に話を伺いました。
「再発・転移がん治療情報‘あきらめないがん治療’」のWEBサイトの立ち上げから3年が経ちました。振り返ってみていかがでしょうか。
当サイトでは、再発・転移のがん患者さんやそのご家族の方たちにとって、あきらめないで治療を続けて頂くために必要な情報を提供してきました。特にドクターインタビューでは、専門医の先生方に治療に関することや患者さんとのコミュニケーションにおいて感じたことなどを語っていただいています。これまでに30名を超える先生に登場いただいていますので、情報もかなり蓄積されてきました。今では多くの方にご覧いただいているコンテンツのひとつとなっています。
また、患者さんからの相談に対して専門医が回答する、医療相談のコーナーには多くの相談が寄せられていますが、我々のネットワークに新しく専門医の先生方が加わったこともあり、標準治療も含めた、より幅広い情報提供が可能になりました。
新しく加わった医師として、元国立がん研究センターがん予防・検診研究センターにてセンター長を務められ、現在では東京ミッドタウンクリニック健診センター長をなさっている森山紀之先生と、東京女子医科大学非常勤講師を務められ、現在は浜松町ハマサイトクリニック院長をなさっている吉形玲美先生がいらっしゃいます。
森山先生には診断医としての立場、吉形先生には婦人科医としての立場から、患者さんの相談に回答していただいています。これで、総合内科、外科、放射線科などの今までいらっしゃった先生方を含めて、総合的な情報提供ができるようになったと思っています。
その他、医師向けではありますが、昨年は中野隆史先生(群馬大学重粒子線医学研究センター長)や辻谷俊一先生(国立国際医療研究センター 細胞治療研究開発室長)を演者として先進的癌セミナーを開催しました。内容については当サイトにもUPしています。
→ 先進的癌治療セミナー開催報告
こうした活動は、医師同士のつながりを広げていくと同時に、患者さんに対するより充実した情報提供につながっていると思います。
■ 母を看取った経験から、あきらめない治療への思いが強くなりました。
私の母はリウマチを患っていました。約10年に及ぶ闘病生活を送っていたのですが、亡くなる前の数年間は骨破壊(こつはかい)になってしまい寝たきりになってしまいました。母の死後から3年後のことですが、リウマチの分野に画期的な薬が登場しました。それは母を寝たきりにした骨破壊を阻止する効果もあったのです。母の発病が少しでも遅かったなら、この薬で痛みを和らげられたし、寝たきりにならなかったかもしれない。医学の進歩は本当に日進月歩で、医師たちは常に、少しでもより良い医療を提供しようと研究を進めています。「あきらめない治療」を追究するようになったのは、母を看取った経験が大きいと思っています。
医療相談で多く寄せられるものを教えてください。
医療相談の内容は、時と共に変化がみられるようになりました。設立当初は、「標準治療を受けているが、医師に十分な説明をしてもらえていない」「主治医から提示された治療法の内容を詳しく教えて欲しい」といった解説を求めるような質問が多く寄せられました。
最近では一歩踏み込んだ内容のものが多く見受けらます。「医師の立場は理解できるのだが、『打つ手がない』と言われて、どうしても納得ができない」「医師に勧められた治療法以外の選択肢はないのでしょうか」というようなご相談です。 今は様々な治療法が出てきていますので、以前に比べて患者さんの選択肢も増えてきています。
インターネットには情報があふれていますが、必ずしも全てが信頼できる情報とは限りませんし、医療技術も日進月歩で患者さんが最新情報を正確に理解するのもそう簡単なことではありません。そういった意味では、このサイトは患者さんが情報の取捨選択する上での水先案内人となるような役割も担ってきていると思います。サイト立ち上げ当初、我々が考えていたWebサイトの役割にだんだんと近づいてきていると感じています。
ここで少し、相談事例として多かった「標準治療を拒否したい」、「病院選びをどうしたらよいか」という問い合わせについて具体的にお話したいと思います。
■ 医療相談事例【標準治療を拒否したい】
医療相談の中には、「標準治療を拒否したい」といった内容も見受けらました。標準治療は、長年の研究結果から一定の効果が証明されている治療です。この治療を否定してしまうのは、後悔につながってしまうことがあると思います。
患者さんが標準治療を拒否する理由には、主治医に対する不安や時間をかけて説明されていないことによる不満感があるのだと思います。多くの医師は時間がなく日々追われています。医師側も一生懸命に治療や説明を行っているつもりなのですが、患者さんにしてみると、やはり説明の時間が足りず、納得できるところまで到達していないのでしょう。
また、医師と話を進めていくうちに、自分の内にある疑問や不安が見えてくる患者さんもいらっしゃいます。このサイトを通して、私たちがその相談に応えていくことで、標準治療に関する理解を深めていくことにもつながっていると思います。
どうしても主治医の先生に納得できないのであれば、セカンドオピニオンなどを通じて時には別の医師を探すということも必要かもしれません。いずれにせよ、受けてしかるべき標準治療を拒否するのは、がんとの賢い闘い方とはいえませんので、視野を狭めないでいただきたいと思います。
■ 医療相談事例【病院選びについて】
医療相談には病院選びに関する相談も多く寄せられます。例えば、私の妻の父が入院していた有名病院は、院内は清潔、急性期の病気の治療については最良の治療が行える病院でした。しかし、手術などを主にして急性期の患者さんにとってはとても良いのですが、慢性期の患者さんの対応には向いていないように感じました。
義父は外科系の病気で入院したのですが、実は心不全を起こしていて定期的に低酸素状態になり苦しくて暴れるようになっていました。それでも、外科系の病気の治療は終わったからと、心不全には気づくことなく、退院させられてしまったのです。義父は心不全を抱えたままですから、すぐに他の病院に再入院することになりました。
そして、次のその病院はお年寄りの入院患者が多く、看護師は慣れた対応で義父にも優しく接してくれました。そのような病状を診ることに長けている病院で、ようやく義父の状態は快方に向かいました。
患者さんの病状によって、向いている病院とそうでない病院があると思います。大きい病院で設備が整っているからといって、そこが必ずどの患者さんにとっても良い病院とは限りません。
また、がんの手術件数で病院を選ばれる方がいらっしゃいますが、手術数が多いから良い病院とも限りません。最終的には、患者さん自身またはそのご家族が、実際に病院を訪れた際に、治療をしっかり行ってもらえる設備や体制があるのか、雰囲気や居心地が良いかを確かめて見極めることが大切だと思います。当たり前のことかもしれませんが、病院や主治医の先生を心から信頼できるかどうかを自分の感触で確かめることがポイントではないでしょうか。
「再発・転移がん治療情報‘あきらめないがん治療’」の今後の展望を教えてください。
これまでのネットワークを活用し、患者さんの幅広いニーズに応えていきたいと考えています。私が所長を務める東京ミッドタウン先端医療研究所では、「あきらめないがん治療外来」を設け、患者さんのニーズに合わせてそれぞれの専門医たちがあらゆる角度から治療の選択肢をご提案できる体制を整備していますが、そのWEB版のようなかたちで情報提供などを行っていけるようにしていきたいと思っています。
例えば、患者さんから寄せられた専門的な質問に対して、これまで築いてきた先生方とのネットワークを活用してメーリングリストなどで回答を募り、当サイトが代表して返答していくような仕組みを構築したらよいのではないかと思っています。また、医療相談にあるようなQ&Aを掲載するというだけでなく、今月のトピックという形で代表的な質問に応えられるシステムの構築なども今後検討していきたいです。
昨年は、前述のとおり医師向けのセミナーも実施しています。「樹状細胞ワクチン療法」や「重粒子線治療」についての講演と、専門医によるパネルディスカッションを行い、とても充実した内容となりました。今後も、このようなリアルな場での情報提供もできればと考えています。
また、情報提供のひとつの手段として、先月26日に「名医に聞く あきらめないがん治療」という書籍を出版しました。この本ではドクターインタビューに登場していただいた方を含め、8名の専門医に、「あきらめないがん治療」をテーマとして、最新のがん治療の動向や、がんと闘っていく上で患者さんに知っておいていただきたいことなどを、広く語っていただきました。がんと闘っていく中で不安や疑問を感じた時、当サイトと共に、本書も役立てていただけたらと思っています。
本書を読んでいただくことで、次の治療につながるヒントが見つかるかもしれません。当サイトや本書が、がんと闘っておられる方々の一助となれば幸いです。決してあきらめることなく、たじろぐこともなく、ご自身に合った治療法をぜひ見つけていただきたいと切に願っています。
取材にご協力いただいたドクター
田口 淳一 (たぐち じゅんいち) 先生
一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク 代表理事
東京ミッドタウンクリニック院長
日本橋室町三井タワー ミッドタウンクリニック 総院長
東京ミッドタウン先端医療研究所 所長
- 日本内科学会総合内科専門医
日本循環器学会循環器専門医
日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
日本人間ドック学会 遺伝子検査に関わる検討委員会 委員長
東京医科大学 客員教授
日中医学交流センター 理事 他
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