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【最新医療】膵臓がん早期診断のバイオマーカー、実用化視野に研究進む
国立がん研究センターは、血液中のタンパク質であるアポリポプロテインA2(apoA2)アイソフォームが早期膵臓がんや膵臓がんのリスク疾患で低下することを発見し、バイオマーカーの実用化に向け研究を進めています。
健常人で一定量のapoA2アイソフォームが早期膵がんでは低下
膵臓は、胃・十二指腸、小腸、大腸、肝臓、胆のう、脾臓などに囲まれ、がんが発生しても見つけにくいような位置にあります。また、初期の膵臓がんは特徴的な症状がほとんどないため、早期発見が難しいとされてきました。さらに、これまで有効とされる膵臓がん検診がなかったことも発見を遅らせる要因となっていました。
膵臓がんは、早期から周囲に広がりやすい性質を持っています。肝臓などに転移しやすく、ほかのがん種と比べて予後は不良です。日本では毎年30,000人以上が膵臓がんで亡くなっており、早期発見のための研究が続けられてきました。膵臓がんのバイオマーカーとして、これまでCA19-9が補助診断的に使われてきましたが、早期膵臓がんの検出率が低いため、いまのところ検診での使用は奨励されていません。
国立がん研究センター研究所、創薬臨床研究分野の本田一文ユニット長の研究グループは、健常人の血液中に一定量存在するアポリポプロテインA2(apoA2)アイソフォームが早期膵臓がんや、膵臓がんのリスク疾患(膵管内乳頭粘液性腫瘍、慢性膵炎など)で低下することを突き止めており、早期膵がんのバイオマーカーとしての可能性を探っていました。apoA2アイソフォームは善玉コレステロールを形成するタンパク質です。
一方、米国国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)では、米国政府の支援を受けて早期診断バイオマーカーの開発が進められていました。そこで、国立がん研研究所とNCIは共同研究を行い、米国の早期膵臓がん患者(I期、II期膵臓がん98例)を含む252例の血液を用いてapoA2アイソフォームを測定しました。その結果、健常者に比べて、早期膵臓がん患者ではapoA2アイソフォームが低下していることが確認されました。
また、apoA2アイソフォームは既存の膵臓がんバイオマーカーであるCA19-9と比べて高い精度でI期、II期膵臓がんを検出できることも明らかになりました。この結果から、「apoA2アイソフォームが膵臓がんにおける信頼性の高い血液バイオマーカーになる可能性がある」とNCIが評価していると報告されました。
新たな膵臓がん検査キットの開発に成功
これまで血液中のapoA2アイソフォーム濃度を調べるためには質量分析を用いた検査法しかありませんでした。しかしこうした検査法は高価な機器を必要とし、一般の臨床検査としては現実的ではありません。そこで、研究グループは、apoA2アイソフォーム検査を実用化するために、簡便な検査法の開発に取り組み、検査キットの開発に成功しました。
この検査キットを使って、国内多施設共同研究に参加した膵臓がんなどの消化器疾患患者と健常者904例(このうち膵臓がん286例)の血液を測定したところ、CA19-9よりも高い精度で早期膵臓がんを検出することができました。また、膵臓がんリスク疾患も高い精度で検出することができたといいます。さらに、CA19-9とapoA2アイソフォームの組み合わせにより、早期膵臓がんの検出率はさらに向上しました。
今後はCA19-9とapoA2アイソフォームを組み合わせた検診を実施することで、早期膵臓がんや膵臓がんリスク疾患の危険率が高い集団をスクリーニングし、さらに精密な画像検査などを行ってそれらの疾患が診断できれば、膵臓がんによる死亡率の低下につながる可能性もあります。
国立がん研究センターは、「検査キットは研究用の試薬ですが、今後は体外診断薬としての承認も目指している」としています。
(出典:国立がん研究センター)
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