がんの診断と専門医 セカンド・オピニオン

公開日:2012年03月01日
がんの診断と専門医 セカンド・オピニオン

日本人の2人に1人が罹患するともいわれるがん。早期発見には「がん検診」が有用ですが、検査や病院選びで迷われる方も少なくありません。今回のドクターインタビューでは、がん検診で行われる主な検査内容や病院の選び方、セカンド・オピニオンのメリットなどについて、医療法人社団ミッドタウンクリニック 理事 森山紀之 先生にお話しを伺いました。

目次

患者さんのメリットを考えて検査を選択する(検査の種類と目的)

歩いている人を見て男性か女性か判断するのは、ぱっと見た感じで髪の毛が長くてスカートを着ている場合は多くの人は女性だろうと判断します。しかし近くまで寄ってみるとヒゲが生えていたり、筋肉質だったりすると、もしかしたら男性が女性の恰好をしているかもしれないと判断が変わってくるわけです。そうなってくると、これは遺伝子の検査が必要かなとなってきます。例えばスポーツ観戦のためにスタジアムの観客席へ入場します。観戦する場合には男女どちらでも関係ないし、遺伝子検査までしていては、入場料よりも検査費用の方が高くなってしまいます。

しかし、オリンピックなどの選手になる場合には遺伝子検査をして、セクシャルチェックをするわけです。これは男女を分けることが非常に大切なことだからです。医療の診断の場合にも検査の目的が何なのかによって決まっています。たとえば、PETは全体がみれて、後腹膜にある悪性リンパ腫や小腸のがんや、副鼻腔のがんなどが分かります。内視鏡の場合には、どんなに優秀な医師がいても目的とする胃や腸の中しか分かりませんが5mmや10mm程度のものが詳しく映ります。これはPETではできないことです。目的の中には患者さんの身体への負担の問題も含まれています。開腹・開胸などをして組織を取っていくような検査は一番負担がかかります。

あとは血管造影などを行う場合も体の大きな血管、たとえば足の付け根や手首などからカテーテル(医療用の細い管)を入れて造影剤を流してX線を用いた画像処理を行っていきますので、負担が大きいです。医療被曝というリスクも存在しています。医療者は年間20mSV程度を浴びているといわれていますが、患者さんの方は検査機器によって被ばく量は異なってきます。一般的な検査では胸部レントゲンが0.1mSV、CT検査が6.5mSVといわれています。20mSVのような低線量の被ばくというのは人体への悪影響があるかどうかわかっていません。

ただし、できるだけ浴びないほうが良いとはいえると思います。ここで考えなければいけないのは、低線量の被ばく(デメリット)と、検査や治療などで得られるメリットです。何の目的もないのにCT検査をしても意味がないわけですが、6.5mSVの被爆をすることで、CT検査が受けられるわけです。この検査によってがんなどが発見できる可能性があるわけです。これは低線量を被ばくしたとしても、患者さんにとってメリットがあるといえるでしょう。

例えば糖尿病も症状が進んでくると、血管が詰まって足の壊死が始まります。これを放置しておくと菌が増殖して死に至ってしまいます。そこで足を切断するという判断をするわけです。足の切断というのはデメリットなわけですが、命との比較はできないわけです。物事には閾値(※いきち・しきいち ある刺激によってある反応が起こる時、刺激がある値以上に強くなければ、その反応は起こらない。その限界値のこと。個人差もあります。)がというものがあます。食べ物もそうですが、バランスが大切で、ある一つの物(例えばお醤油など)を摂取しすぎると偏りすぎて身体に悪い影響がでてきます。

図1 主ながん検診の内容(国立がんセンターのHPより)

MRI (エムアールアイ) MRIとは、Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴像)の略です。MRIは磁場と電波を使って、体内に豊富に存在するプロトン(水素原子核)に共鳴現象をおこさせて体内を画像化して観察する方法です。放射線を用いずに、X線では分かりづらい組織の描出に優れた画像を得ることが可能です。国立がんセンターでは、子宮がんや卵巣がんの検診に 用いています。MRI検診は大きな磁石の中に入って検診が行われるため、体内金属の有無などにより検診ができないことがあります。治療を行った医療機関で確認してください。
PET/CT (ペット/シーティー) PETとは、Positron Emission Tomography(陽電子放射断層撮影)の略で、ポジトロン(プラスに帯電した電子)を放出する放射性同位元素(RI)が付加された薬剤を静脈注射し、薬剤の体内分布を専用の機器で画像化する検診です。
PETを用いたがん検診では、がん細胞が正常細胞に比べて3~8倍のブドウ糖を取り込むという”性質”を利用し、ブドウ糖に似た物質にRIをつけて (FDGと呼ぶ)体内に静脈注射し、1時間ほど経ってから撮影します。FDGの集積状態によりがんを見つける手がかりとなります。従来のレントゲン(X 線)やCT、MRIなどの広く普及した検診方法では”形態(かたち)”からがんを見つけますが、PETは細胞の代謝機能を画像化することでがんを検出します。
近年、PETとCTの画像を一度に撮影することができる機器(PET/CT装置と呼ばれる)が急速に普及し、がん患者を対象とした検診手法としての有用性 が報告されています。PETの画像のみでは、体内の”かたち”が分かりにくいため、薬剤の集まった場所の特定が困難であるのに対し、CT画像は体内の形の 細部が鮮明にわかるため、両者を融合(フュージョン)することで、疑わしい場所をより精度良く特定することが可能となりました。 国立がんセンターでは、PET/CTの検診方法や、診断方法の最適化をはじめ、がん検診におけるPET/CT検診の有用性を明らかにする研究を進めております。
腫瘍マーカー 国立がんセンターの総合検診では、男性にはPSA、CA19-9、CEA、女性には、CA125、CA19-9、CEAの検診を行っています。PSAは前立腺が ん、CA125は卵巣がん、CA19-9は膵臓がんや胆嚢がん・胆管がん、CEAは全身を対象とした非特定部位の腫瘍マーカーです。
腫瘍マーカーとは、がん細胞の目印(マーカー)になる物質の総称です。いいかえると「がん細胞がつくる物質、またはがん細胞と反応して体内の正常細胞がつくる物質のうちで、それらを血液や組織、排泄物(尿、便)などで検診することが、がんの診断または治療の目印として役立つもの」と定義することもできます。人にできるがんのすべてをカバーする腫瘍マーカーはありません。また、適当な腫瘍マーカーのないがんも少なくありません。血液の腫瘍マーカー検診だけ で早期がんを診断することはできません。そのため、国立がんセンターでは画像診断との組み合わせによるがん検診を行っています。
腹部超音波 腹部超音波は、主として腹部の肝臓・胆嚢・膵臓・腎臓・脾臓などを観察する検診です。これらの臓器以外にも大動脈・子宮・卵巣・前立腺などの臓器は一通り 観察できます。検診は、男性は上半身のみ裸、女性は検診着に着替えていただき、ゼリーを塗り、体にプローブと呼ばれるものを当てて検診します。ゼリーを塗 るのは、超音波が空気中を伝わりにくい性質があるため、空気を避けるためです。息を吸ったり吐いたりして検診します。超音波検診は放射線のような身体に対する影響は全くなく、診断能力の高い、安全かつ有用な検診です。
主に見つかるものは?
肝臓:肝臓がん、肝のう胞、脂肪肝、肝血管腫
胆嚢:胆嚢がん、胆石、胆嚢ポリープ
膵臓:膵臓がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
腎臓:腎臓がん、腎のう胞、腎結石、腎血管筋脂肪腫などがあります。
ただ、体の外側から検診を行うために肥満の方は超音波が目的の臓器に十分届かないため、見えにくいことがあります。また、検診の前は食事をとらないようにします。(少なくとも6時間程度の絶食が必要です。)食後は、胆嚢が消化のために胆汁を出してしまい、胆嚢が小さく なってしまうため、胆嚢の細かな病変が見えにくくなるためです。また、食事を取ってしまうと胃の中に食事と一緒に飲み込んだ空気と食事された内容物が入ってしまいます。そのため、腹部全体が見えにくくなってしまいます。また、検診当日には検診着に着替えてから検査室にはいるまでの間は出来るだけ水分の摂取 はお控えください。検診直前に水分を摂取すると腸の動きが活発になり検診に支障を来す場合があります。 国立がんセンターでは、毎回検診の最後に300~400ml程麦茶を飲んで頂いております。その理由は、空気は超音波を通さないので、胃の中の空気を少しでも追 い出し、超音波の通りをよくするためです。(ただし、飲んで頂いても見えにくい場合があります。また、胃、十二指腸、膵頭部などの手術後の方は飲んでいただいておりません。)

どうやって病院を選んだらよい?

画像診断を行う場合、これは視力の良い人が読影(読影とは、CT、MRI、超音波検査などの画像を判断して治療に役立つ資料を作ることです。)できるというわけではなく、画像の違いについて分かる感性が必要です。カメラマンなどの人は非常にこの感性に優れています。もちろん医療の知識をあるわけではないので、全部が当たるわけではないですが、形に関しての感性がすぐれているのでしょう。カメラマンの人に聞くと周りと違うと認識しているようです。

この違いをしっかりと把握することが診断のスタートになります。そこからは医療の知識や経験が必要になってきます。ホクロというものがありますが、これは良性の場合にはただちに身体に悪さをするようなことはありません。これとは異なりますが体内に良性の腫瘍ができる場合がありますが、これを画像で発見した時に悪性の腫瘍と判断をしてしまうケースが多くみられます。また膵臓に嚢胞(のうほう:水の入った袋のようなもの)が見えると悪性化する可能性があるのですぐに手術と診断するケースがありますが、膵臓の手術というのは患者さんにとって非常にリスクが高いです。

手術には再建(元の通りに戻すこと)と取りっぱなしのものがありますが、たとえば、膵臓の頭の部分の手術というのは、胆管と膵管が通っていて、十二指腸ともつながっています。再建が非常に難しいケースなのです。診断医が手術のリスクまで考えて診断をしているかが重要になってきます。全摘になってしまったらインシュリンがでなくなってしまうので、糖尿の治療が必要になってきます。専門的な治療が必要な場合には、専門病院や経験豊富な診断医に診察してもらうのが良いでしょう。専門医はその領域の経験値が高いです。専門病院に行かれる場合は、科を間違えないようにして下さい。たとえば乳がんの場合には婦人科などに行かれるのではなく、乳腺外科になるでしょう。

医師や病院の順位にこだわりすぎないで!

患者さんによくみられるのは、医師の順位にこだわり過ぎることです。野球に例えると、打率1位の選手と打率2位の選手どちらも3割5分を超えているような選手がいたら、どちらが優れているとは言えないわけです。打率が2割を切るようなバッターはさすがに悪いとはいえると思いますが、3割を超えているようであれば、任せた方が良いわけです。一番症例数をこなしている病院が一番良いと思ってしまう患者さんがたまにいらっしゃいますが、この場合は順位で判断をするのではなくて、診断や治療ができるレベルで決めるべきです。こだわりすぎることで、治療が遅れてしまう場合もあります。

大腸癌で直腸の方にできてしまって、それが尿管や膀胱・子宮などにもくい込んでしまっている場合などでは、大腸のみの専門の方では難しい診断・治療ということになってきます。国立がんセンターには、骨盤外科グループというグループがあります。この科では、大腸だけでなく、骨盤全体を診断・治療する体制が整っていますので、紹介をしてもらうのも良いと思います。

診断患者さんに向けて一言

専門病院や専門家へのセカンド・オピニオンを行う時に、主治医に相談をしない方がいらっしゃいます。そうしないと、診療情報提供書という最初の診断資料がないためにセカンド・オピニオンを行う病院でも判断ができなくなってしまいます。主治医に相談をすれば対応をしてくれるはずです。(対応しない医師がいる場合は、その医師に問題があると思いますので、違う病院に相談されても良いかもしれません)主治医から診断や治療方針の説明(複数の選択があるなど)に悩んでいたり、他に治療法はないかと考えている場合は、納得がいくようにセカンド・オピニオンを選択してもよいでしょう。主治医の診断や方針に対する確認ができ、納得して治療を進めることができますし、場合によっては違う治療法を提示されることもあり、メリットは大きいと思います。

ポイントまとめ

  • 検査には負担の大きいものやリスクがあるものも存在するが、検査によりがんが発見できるなど得られるものがあれば患者さんにとってメリットとなる。
  • 専門医はその領域の経験値が高いので、専門の治療が必要な場合は、専門病院や経験豊富な診断医に診察してもらうのが良い。
  • 病院を選ぶ際は、医師の順位や症例の数などではなく、診断や治療のレベルで判断する。
  • 主治医の診断や治療方針に納得がいかない場合や、他の治療法を考えているときは、セカンド・オピニオンを選択することで、納得して治療を進めることができ、メリットも大きい。

取材にご協力いただいたドクター

森山 紀之先生

森山 紀之 (もりやま のりゆき) 先生

一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク 理事
医療法人社団ミッドタウンクリニック 理事

医療法人社団進興会 理事長
グランドハイメディック倶楽部 理事


主な資格など
■略歴
1973年 千葉大学医学部卒業
1986年 米国Mayo Clinic 客員医師
1987年 国立がんセンター放射線診断部 医長
1992年 国立がんセンター東病院放射線部 部長
1998年 国立がんセンター中央病院放射線診断部 部長
2004年 国立がんセンターがん予防・検診研究センター センター長
2010年 独立行政法人国立がん研究センター がん予防・検診研究センター センター長
2013年 医療法人社団ミッドタウンクリニック常務理事 兼 健診センター長 医療法人社団勁草会理事
一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク理事に就任
2016年4月 医療法人社団進興会 理事長に就任
2016年8月 グランドハイメディック倶楽部 理事に就任

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