【QOL(生活の質)】がん患者さんの療養生活とペット

公開日:2015年12月30日

目次

 がんになってもこれまで通りに愛するペットと暮らしたい。でも、療養生活への影響が気になる……。そんなケースも少なくないでしょう。今回は、療養生活や健康に気をつけながら上手にペットと暮らすポイントをご紹介します。

動物がもたらす心身の安らぎ

 動物と触れ合うことで心の癒し効果を引き出すのが「アニマルセラピー」です。このアニマルセラピーを、2015年秋から、愛知県がんセンター愛知病院の地域緩和ケアセンターが導入しました。がん患者さんが動物と触れ合うことで、闘病のストレス解消や癒しによる症状の緩和を目指しています。

アニマルセラピーでは高度に訓練された犬などの動物が人を癒してくれますが、家族の一員として共に生活しているペットにも同様の効果があることは、近年の研究でも明らかになってきました。また、人とペットの関係やペットへの認識も変化しています。最近では、ペットを、昔のようにただ一方的に可愛がるだけの愛玩動物ではなく、人と共に生きるコンパニオンアニマル(伴侶動物)と呼ぶことも多くなりました。

がんになってもこれまで通りに愛するペットと暮らしたい。それは当然の気持ちであり、がんになったからといってペットとの共生を諦める必要はありません。ただし、がんの治療中には、以前よりもペットの世話に注意を払う必要があります。

QOL

ペットとの共生でがん治療中に注意が必要な理由

 動物と人の間で共通して感染する病気のことをズーノーシス(人獣共通感染症)といいます(動物から人へ感染する以外にも、人から動物へ感染させる場合もあります)。  動物から人へ感染するとはいえ、ごく稀なので、いたずらに恐れる必要はありません。

しかし、感染すると、診断までに多くの時間を要することが多く、重篤な状態に陥るケースもあります。そのため普段からペットの生活環境を清潔にすることに加え、動物との触れ合い後の手洗いを習慣にしなければなりません。

また、抗がん剤治療を受けた方などは、人の体が本来備え持っている病原体と戦う力「免疫力」が一時的に低下することが一般的に知られています。つまり、感染しやすい状態にあります。特に造血幹細胞移植を受けた後など、厳しい免疫抑制状態にある場合には特に注意が必要で、なるべくペットに接触しない努力も必要です。

ペットを飼っている場合には、さまざまな感染症にかかる可能性があることを忘れずに、以下のようなことに気をつけながら対策をとることが重要です。犬、猫、小鳥、兎などを飼っている方(もしくはこのような動物に触れる機会が多い方)は、下記の項目をチェックしてみてください。

  • □狂犬病のワクチン注射は面倒なので打っていない
  • □室内で飼育しているのでフィラリア予防やノミ、ダニの予防・駆除はしていない
  • □猫を外飼いにして自由にさせている
  • □飼い猫に爪を立てられたり、引っかかれたりする
  • □散歩から帰ったペットの足を拭かない
  • □散歩中の排泄物をそのままにしている
  • □トイレシートがもったいないので、排泄してもシートをすぐに取り替えない
  • □ペットに触れた後、手を洗わない
  • □自分の箸や口移しで食べ物を食べさせている
  • □ペットは可愛いからキスも当たり前
  • □ペットと一緒に寝ることが何より幸せ

 当てはまる項目が多ければ多いほど、ズーノーシスの危険度が高いといえます。ペットの世話やペットとの暮らしを見直してみましょう。

健康被害が生じないようにするための注意点

 免疫抑制状態の患者さんがペットと暮らす際には、家族の協力を得て、次のことを心がけましょう。

*ペットの排泄物に直接触れないようにする
飼い猫は特に注意が必要です。猫の糞からトキソプラズマという寄生虫が感染する可能性があるので、免疫抑制状態の患者さんが猫と一緒に暮らす場合は、ペットシートやトイレの砂を毎日交換します。この場合、家族が交換することが望ましいでしょう。止むを得ず患者さん自身が行う場合は、使い捨ての手袋を使用し、処理後は石けんと水でしっかりと手洗いしましょう。

*ペットの小屋やベッド、かご、水槽、トイレの掃除は家族に頼む
ペットの環境を清潔にすることも大事です。しかし、これらも排泄物の処理と同様に、患者さんの免疫が低下している間は家族の協力が必要です。これらを患者さん自身で行わなければならない場合には、使い捨ての手袋を使用し、処理後は石けんと水でしっかり手洗いをしましょう。

*新たなペットの飼育は避ける
どのような病原体に感染しているかわからないので、生後6ヵ月以内のペットや、捨て猫、捨て犬などを飼育することは避けたほうがよいでしょう。ペットを迎えるのは体調が落ち着いてからでも遅くありません。ペットも命ある生き物。幸せにしてあげるためにも、まずは自分の体調管理をしっかりすることに専念しましょう。

*過剰な接触を避け、手洗いとうがいを習慣に
ペットからの感染症の多くは、動物では無症状の病原体が人の体内でやっかいな病気を引き起こします。したがって、療養中は次のような過剰な接触は避けましょう。

  • ・愛犬とキスしない
  • ・顔を舐めさせない
  • ・自分の箸や食器、口移しで食べ物を与えない
  • ・一緒に寝ない

また、手洗いは感染予防の基本です。喉からの感染予防にはうがいも必須です。万が一、健康被害が生じた場合には、ズーノーシスに詳しい病院または感染症科のある病院にすぐに受診しましょう。その際にはがんの療養中であることと、ペットの飼育状況についても医師に説明してください。

ペットの健康を守る

 ペットと人が健やかに共生するには、ペットの健康を守ることも重要です。ペットは自分の体に異変を感じても、飼い主に上手く伝えることができません。だからこそペットの健康を守るには、病気になる前の「予防」と悪化する前の「早期発見」が大切です。家族や周囲の協力を得て、以下の早期発見や予防に努めましょう。

*早期発見のための注意点
ペットの健康を守るための指針は次の3つが挙げられます。

  • ・日頃からボディーチェックを行い、ペットの健康状態を把握する
  • ・行動や様子、また排泄物に異変がないかよく観察する
  • ・異変があれば、すぐに動物病院を受診する

*予防のための注意点
年に一度の狂犬病の予防接種は法律で定められています。飼い主としての義務と責任を果たしましょう。また、薬で予防できる病気はきちんとケアすることが大切です。ノミ、マダニ、フィラリア、おなかの虫など、ペットに病害をもたらす寄生虫を薬で定期的に駆除しましょう。

*ペットの医療費にも備えておこう
がんに罹る犬や猫も少なくありません。人と違って動物には健康保険制度がありません。高額な治療費の補填に備えてペット専門の保険などに加入しておくのも一考です。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。