【トピックス】超高齢社会のがんの医療・介護を展望する

公開日:2017年12月28日

国は2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもと、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制の構築を推進しています。

2025年はゴールではなく、これまで誰も経験したことがない未知の時代・社会への通過地点にすぎません。2042年には65歳以上の人口は約3900万人でピークになり、75歳以上の後期高齢者も増え続けることが予測されています。それに伴ってがんの患者数も増え、医療、介護の需要はさらに高まっていくことが容易に想像できます。

2017年10月に開催された第55回日本がん治療学会学術集会のシンポジウム「超高齢社会のがん治療――理想と現実」での臨床腫瘍医と在宅・総合診療医の講演から、超高齢社会のがん診療・介護のあり方が見えてきます。

高齢者人口及び割合の推移 ※1950年~2040年まで (総務省報道資料より)

超高齢社会のがん治療――精神腫瘍医の立場からみた理想と現実

新しい治療法が開発され、予後が改善し生存率が上がっても、がんという病気にはあきらめのイメージがつきまといます。がんを抱え社会生活を営みながら治療を受け続ける患者さんの数は増えています。がん自体が心身に及ぼす影響、仕事の負荷、家庭の問題など、患者さんはさまざまなストレスにさらされています。ストレスの1つ1つが精神疾患の原因になります。

埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科の大西秀樹教授によると、精神科医ががん患者100人を診察したら、50人に精神科疾患の診断がつくといいます。その内訳は、適応障害が3割、うつ病が4割、その他が3割を占めます。精神科医の介入が必要な患者さんがそれぐらい多いということが、がんに関わる医療従事者にもあまり認識されていないのではないかと大西教授は指摘しています。

がん患者さんにとって精神症状は苦痛を伴います。うつ病を合併するがん患者さんの多くが化学療法の最も苦しい時やがん性疼痛よりうつ病のほうがつらいと感じているといいます。

せん妄もがん患者さんに多く見られる精神症状の1つです。大西教授は精神科医として緩和ケアにもかかわった経験があり、終末期の患者さんの約6割にせん妄が現れるといいます。若年者には影響のない疾患や薬剤でも、高齢者ではせん妄が起こりやすいことが知られています。

似た症状を示すことから、せん妄は間違って認知症と判断されることがあります。せん妄と認知症は同じ脳の障害ですが、せん妄は急性の脳障害、認知症は慢性の脳障害です。自宅では異常がなかった患者さんが入院して急におかしなことを言うようになったらせん妄の可能性があるといいます。

また、過活動型せん妄は幻覚、妄想、見当識障害など、比較的わかりやすいのに対して、注意力が低下したり、動作が緩慢になったりする低活動型せん妄は見逃されることが少なくありません。

「医療従事者は高齢者の精神疾患、特にせん妄、抑うつに関する知識を持つことが重要です。がんに携わる診療科と精神科が連携することで高齢者のがん治療は向上していくと思います」と、大西教授は話しています。

高齢社会の現状とこれから――がんの介護と緩和医療の諸問題

みその生活支援クリニック(神奈川県相模原市)の小野沢滋院長は大学病院や民間の総合病院で退院支援、在宅医療に長年関わってきた経験があり、独自に収集したデータの解析から、超高齢社会のがん医療と介護の提供体制を緊急に整備する必要があると指摘しています。

東京‐横浜圏は世界的にも人口が密集した地域であり、日本の人口のおよそ3分の1を占める3700万人が生活しています。高齢者人口も増加しており、高齢化率は現在20%台の半ばになろうとしています。高齢化は2040年ごろまで急激に進み、ピーク時には約35%前後の高齢化率になるといいます。

一方、横浜市の要介護者数は、団塊ジュニアの世代が寿命を終える2060年ごろには現在の倍近くに達し、これに対して、要介護者を支える労働人口は、2060年には半数近くまで減少すると、小野沢院長は試算しています。

高齢者人口が増加すれば、がんの患者数も増えます。小野沢院長は、「がん患者は、いまは75歳から80歳の男性が最も多いですが、これからは85歳以上の女性が増えていくことが予想されます。今後、がん治療を行う大規模医療機関や急性期病院は役割を変えていく必要があります」としています。

また、「化学療法が終了した患者さんは、がん専門医に代わって、在宅では往診医や総合医の診察を受けることになります。在宅に移行した患者さんの中には、抗がん剤の副作用や痛みで困っている方もいます。そういう例を見ると、元の病院でもう少し継続して診てもらえなかったのかと疑問を感じることもあります」と本音を漏らしています。

小野沢院長が北里大学病院でがん治療中の患者さんの外来受診の頻度を調査したところ、治療効果が十分に得られていない患者さんのおよそ4人に1人、治療が困難な進行がんの患者さんのおよそ3人に1人は2週間超に一度しか受診せず、病状の急変に対応できない状態で生活していることがわかりました。

こうした患者さんが入院中から、退院後の在宅でも途切れることなく医療、介護が受けられるようにする必要があります。しかしたとえば、相模原市(人口72万人、高齢化率21%)のように、ホームヘルパーの数が少ないために在宅のがん患者さんの療養生活を十分に支えられないという課題もあります。

病病・病診連携の重要性は以前から指摘されていますが、「専門医と総合医が相互にがん患者さんを診るような体制づくりが必要であり、そのための介護を含めたシステム(制度)を整備することが重要です」と小野沢院長は述べています。

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