【特集記事】がん専門病院の専門性を支えるのは総合病院との連携

公開日:2017年12月28日

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がん患者の1割に心血管疾患が併存

内閣府の「がん対策に関する世論調査」(2016年11月)によると、患者さんががんの治療を受ける病院として重視することは、「専門的な治療を提供する機器や施設の有無」(60%)、「医師や看護師の技術の優秀さ」(57%)、「自宅からの距離」(51%)、「受診にかかる経済的負担(交通費や差額ベッド代)」(32%)、「医師や看護師の親切さ」(27%)、「他の医療機関との連携の状況」(24%)、などでした。

専門病院には、特定の疾患を対象にしたあらゆる設備、機器が整い、その疾患の専門家も多くいます。がん専門病院では診療科が肺がん、大腸がん、乳がんなど臓器別に分かれていて、さらに外科治療(手術)、薬物治療、放射線治療とそれぞれが専門分化されています。

各部門は有機的に連携して、患者さんに最も適した治療が提供されるようになっています。がんを治療するうえでは理想的な診療が行われているのががん専門病院です。

日本人の平均寿命(2016年)は男性80.98歳、女性87.14歳で、男女とも香港に次いで世界第2位です。日本人の疾病構造は高齢化に伴って変化し、医療も団塊の世代が後期高齢者になる2025年に向けて大きく変わろうとしています。

がんの発症率も上昇し、2人に1人が生涯のうちにがんになる時代になっています。また、がん以外の疾患を併せ持つ患者さんの数も増えています。がん患者・経験者の心血管疾患の有病率は高血圧を除外しても1割程度であるという調査結果(新潟県立がんセンター新潟病院)が、昨年開かれた第65回日本心臓病学会学術集会で報告され、各メディアによって報じられました。

がんの治療自体に支障が生じることも

次の中から、持病(併存疾患)のあるがん患者さんの治療で望ましくない、あるいは正しくないものを選んでください。

  • 1. 併存疾患の予後は明らかでなくても、がんの手術を優先する
  • 2. 手術中に予期しないことが起こるのは手術であるから当然である
  • 3. がん患者の併存疾患はその疾患の専門病院と連携することが最良である
  • 4. あらゆる診療科のある大学病院に任せれば安心である

答えは、1から4まで全部です。

がんの診療に特化したがん専門病院では、がん以外の疾患領域の専門家も診療機器も少ないため、がん患者さんががん以外の疾患を抱えながらがんの治療を受けたり、がんの治療中に心筋梗塞や脳卒中などが起こったりした時、すぐに対応するのが難しいのが現状です。

併存疾患の状態によってはがんの治療自体に支障が生じることにもなりかねません。また、がんの治療で体力が落ちて発症する疾患を潜在的に持っている患者さんも多くいます。

循環器疾患を持っている患者さんにがんの手術を行う際、その併存疾患が悪化しないかどうかを判断するには、手術が身体に及ぼす影響を正確に把握する必要があります。その検査や治療を受ける医療機関として循環器の専門病院を思いつく人は少なくないでしょう。

しかし、循環器の専門病院に協力してもらっても、今度はがんの治療経験が乏しければ正しく判断することは容易ではありません。それでは大学病院はどうでしょう。確かに大学病院にはほとんどの診療科がありますが、診療科ごとの縦割りの組織になっているため、複数の診療科が連携して患者さん1人の治療に関わることは難しくなっています。これからの日本の医療において専門病院の専門性を支えるうえで重要な役割を果たすのは総合病院です。

循環器疾患と糖尿病の専門医を週4日派遣

当院は総合病院として診療科の枠を越えてさまざまな疾患の治療に取り組む土壌を育んできました。この特徴を生かす道を探っていたところに、がん研有明病院(以下、有明病院)から患者さんの術前検査などの協力要請が相次ぎました。

そこで私は有明病院の中川健院長(現名誉院長)に病病連携を提案しました。中川院長からは「まずは時間をかけてお互いに顔が見える関係づくりを」と前向きの返事が返ってきました。そんな経緯で、2009年以降、2つの病院は合同のセミナーを開くなど連携の地盤づくりを進めていきました。

ある夜、外出していたところ、有明病院の手術室から当院の事務当直を経由して緊急支援を求める電話が入りました。私はすぐ有明病院に駆けつけました。手術室に入って患者さんの状態を診ると、手術中に広汎心筋梗塞を発症した可能性があることがわかりました。

そこで、有明病院の医師5、6人を連れて患者さんを当院に救急搬送することにしました。受け入れ側の当院では医師、看護師、臨床検査技師ら10数人が患者さんを迎え入れ緊急処置にあたりました。この一件がきっかけとなって、2013年9月、当院と有明病院は正式に協定を結び、総合病院と専門病院の病病連携がスタートしました。

現在、当院の循環器疾患の専門医が週3日、糖尿病の専門医が週1日、有明病院の外来で診療にあたっています。そこでは一日に10~15人のがん患者さんを診ています。併存疾患がある患者さんの手術に関する相談がほぼ9割を占め、化学療法施行前の相談もあります。

さらに有明病院からこれまで約4年の間に3,500人以上のがん患者さんが追加の検査や治療を受けるために当院を外来受診しています。有明病院との連携は年々強くなっており、2016年度には674人のがん患者さんが当院を受診し、そのうち178人が当院に精密検査や治療・手術のために入院しました。

がん患者さんの併存疾患(心疾患)のコントロールでは、がんの手術、化学療法が患者さんの体にどの程度の侵襲、負担を加えることになるかを判断したうえで、適切に対応する必要があります。がん手術前の心疾患の検査・治療としては、心臓カテーテル検査に加えて冠動脈形成術(PCI)や冠動脈バイパス術が多く、月に5件程度あります。

医師同士が顔の見える信頼関係が大切

有明病院、国立がん研究センターとの連携の窓口は当院の患者支援センターが担っています。手術まで時間的に余裕がないような緊急時には医師同士が直接連絡を取り合うこともあります。急を要する患者さんの搬入には当院の専用救急車を使います。日常よく見かける、消防庁の救急車と同じ車両で、元救急隊の隊長経験がある職員(救命救急士)が運転し、当院の医師が必ず同乗します。

患者さんが当院に到着すると、状態に応じてさまざまな診療科の医師が集まってきて診療にあたります。手術直後に合併症が起こったような場合には外科医も加わります。また、当院ではがん診療の底上げを図る目的で3年前にがん診療統括センターを設置しました。同センターはがん情報管理室、がん相談支援センター、緩和ケア推進室を統括しています。

2015年4月に国立がん研究センター中央病院とも連携協定を結び、要請があればいつでもすぐに駆け付ける体制が整っています。患者さんの数はいまのところ有明病院の半分程度ですが、連携は急速に進んでいます。すでに当院とがん研究センターの消化器疾患に関わる外科医師同士が懇親会を開くなど、診療科単位での交流が深まっています。

専門病院と総合病院が連携を深めていくためには高い診療技術が求められるだけでなく、より重要なことは医師同士の信頼関係です。職種ごとの勉強会や研修会を開くなど、お互いの顔が見える関係づくりが大切です。

がん患者さんに知っておいてほしいこと

がんの手術や化学療法を受ける患者さんのなかには、循環器内科医が常駐し、豊富な設備を備えた総合病院のほうが安全と考えられる場合があります。そうした患者さんのなかにも、がん専門病院の医師に介入することを強く希望する人がいます。

そのために当院では、従来7室だった手術室を12室に増設し、オープンOR(operating room:手術室)システムを導入しています。がん手術のための最新の装備も整え、当院で行うがん手術にがん専門病院の医師も参画できるように便宜を図っています。

このシステムを積極的に利用することで、患者さんは安心して治療を受けていただけると思います。

災害時の対処について

併存疾患のあるがん患者さんが被災した場合、自分の健康を守るためにすべきことは、落ち着いて行動し、まず身の安全を確保することです。災害時には、災害拠点病院、災害拠点支援病院、災害拠点連携病院などの施設内または近傍に緊急救護所が設置されます。

けがをした場合には、まずそこへ行き、トリアージ(傷病の緊急度や重症度に応じた治療優先度の決定)にしたがってください。その際に、併存疾患がある場合はそのことも伝えてください。災害時には、自分の身は自分で守ることが基本になります。日常から服用している薬などはいつでも持ち出せるようにしておいてください。多少余分に貰っておいて、緊急袋に入れておいてもよいかもしれません。

取材にご協力いただいたドクター

廣谷 隆 先生

東京都済生会中央病院 副院長

カテゴリードクターコラム

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