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正しく知ってほしい放射線治療 [Part-2]
放射線治療で免疫力が下がる?
正しく知ってほしい放射線治療 [Part-2]

中川 恵一(なかがわ けいいち)先生
Part-1の記事では、主に放射線治療のメリットについてお伝えしました。Part-2では、放射線治療と免疫機能の関係について改めて検証し、具体的に放射線が免疫機能に何らかの損害を与えうる個別のケースについて考えていきます。その上で、今、がん患者さんはどう行動すべきか、ご家族の方々はどのような配慮をすればいいのかを放射線治療の第一人者・中川 恵一(なかがわ けいいち)先生に語っていただきます。
目次
放射線治療と免疫機能の低下の因果関係について
免疫をつかさどる器官への障害リスクは?

放射線によって免疫機能が低下する原因として一つ想定されるのは、放射線が免疫をつかさどる器官に障害を与えてしまうケースです。
代表的なのは、放射線による「骨髄抑制」でしょう。骨の中にある骨髄には血液細胞を作り出すという重要な働きがあり、免疫の主役ともいえる「白血球」も骨髄で生まれます。
とりわけ成人では、背骨の骨髄が造血機能の中心を担っています。ところが、放射線は骨髄にダメージを与え、血液細胞の生産を妨害してしまうのです。それによって白血球の生産も減り、免疫機能が低下してしまうことがあるわけです。
例えばがんが背骨に転移した場合、放射線を背骨に当てる治療を行うことがあります。また白血病で「造血幹細胞移植」を行う場合にも、事前に全身に放射線を照射し、がん細胞を死滅させる治療を行うことがあります。
そうした治療では免疫機能が大きく低下します。とはいえ患者さんに入院してもらい万全の感染症対策を施すので、新型コロナウイルスに感染する確率は、高くはないのです。
胸部などへの放射線照射による障害リスクは?

では胸部の放射線治療についてはどうでしょうか?
たとえば乳がん、食道がんといったケースでは、治療で胸部に放射線を照射することがよくあります。中にはそれによって軽い痛みや違和感といった副作用が現われることもありますが、放射線が当たった部位の一部が炎症を起こしたことによるもので、免疫機能の低下が原因とは考えられていません。
しかも放射線を照射する部位が広範囲であればともかく、現在の一般的な放射線治療では放射線を当てる部位をごく限定しています。このため放射線治療によって肺の働きが悪くなったり、それによって免疫機能が低下したりする可能性は極めて小さいと考えていいでしょう。
それに放射線がたまたま胸骨の一部などに当たることはあるかもしれませんが、背骨に当たることはありません。すなわち骨髄抑制を引き起こす可能性は限りなくゼロに近いわけです。
胸部には免疫にとって重要な「胸腺」という器官もあります。しかし胸腺が担うのは、リンパ球の分化といった免疫の一部の役割であり、しかも高齢者では胸腺の働きが衰えているので、運悪く放射線が胸腺に当たってしまったとしても、全身の免疫機能にはほとんど影響がないといえるでしょう。
このようにがんの放射線治療と免疫機能の低下には、何ら因果関係がないことがおわかりいただけたかと思います。
一つ付け加えるなら、がんで放射線と抗がん剤を併用する「化学放射線療法」を受けている場合、免疫機能が低下するケースはよくあります。ただしこれは主として全身に回る抗がん剤が、白血球などの免疫機能にダメージを与えるからです。
がん患者さんにメッセージ。
「治療の中断は避けて、できるだけ早く治療を」
がん患者さんの中には、「新型コロナウイルスの騒動が落ち着くまでは放射線治療は見合わせよう」と考えている人がいるかもしれません。
しかしそうしている間にがんが進行し、取り返しのつかないことになることもあるのです。悪性度の低い前立腺がんなど放射線治療を急がなくていいケースも一部にはありますが、一般的にはできるだけ早く治療を受けたほうがいいと私は考えます。
とりわけ放射線治療をすでに受けている場合、治療を途中で中断するのは避けてください。
新型コロナウイルスの蔓延はなかなか終息する気配を見せません。そうした中でがん患者さんやご家族にとっては、放射線治療を受けることに抵抗もあるかもしれません。
しかしうがいや手洗いを徹底する、「三つの密」を避ける、喫煙を控える――といった新型コロナウイルスの感染予防対策をしっかり行えば、がんの放射線治療は今でも受けられますので、自身の命を守るためにも、主治医に早めに相談してみましょう。
ポイントまとめ
- がんが転移した場合や白血病で「造血幹細胞移植」を行う場合、事前に全身への放射線照射治療を行う場合があり、そうした治療では免疫は低下しやすい
- 上記の場合は、入院して万全の感染症対策を行うので、新型コロナウイルスに感染する確率は、一般の健康な人よりむしろ低い
- 放射線治療と免疫機能の低下に因果関係はない。ただし放射線と抗がん剤を併用する「化学放射線療法」を受けている場合は、抗がん剤の作用によって白血球などの免疫機能に影響を及ぼすケースは考えられる
- 新型コロナウイルスの感染予防を行いながらできるだけ早く治療を受け、自分の命を守るべき。まずは主治医と相談を
- 【当記事の参考】
日本放射線腫瘍学会 がん医療および放射線治療に関するFAQ
https://jastro-covid19.net/patient/
取材にご協力いただいたドクター

中川 恵一 (なかがわ けいいち) 先生
東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授/放射線治療部門長
元がん対策推進協議会委員、がん対策推進企業アクション議長(厚生労働省)、がん教育検討委員会委員(文部科学省)
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