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放射線治療による「緩和照射」とは?
がんによる痛みなどの症状を緩和。
放射線治療による「緩和照射」とは?
がんの三大治療の一つ、「放射線治療」。放射線治療の治療目的は、大きく「がんを治すために行う“根治照射(根治的放射線治療)”」と「痛みなどのがんによる症状を和らげるために行う“緩和照射(緩和的放射線治療)”」の二つがあります。放射線治療は緩和治療としても用いられることから、「緩和ケアの段階=終末期に行う治療」といった印象を持たれている方も少なくありませんが、終末期に限らず様々な段階で治療が行われています。その中で「緩和照射」は患者様のQOL(生活の質)向上に効果が期待できますが、一般の認知度はあまり高くないのが現状です。
ここでは、QOL向上に重要な「緩和照射」について詳しくご紹介します。
目次
根治照射と緩和照射の違いとは?
放射線治療は、手術、抗がん剤に並び、ほとんどすべてのがんに使用される、がんの三大治療の一つです。放射線治療をその目的で分類すると、「根治照射」と「緩和照射」の大きく二つに分けられます。
根治照射:がんを死滅させることで完全な治癒を目指す
根治照射とは、がんを死滅させることで根治(完全な治癒)を目指した放射線治療です。主に、他の部位に転移のないがんが対象となることが多く、肺がん、前立腺がん、頭頸部がん、子宮がん、食道がんなど、ほとんどすべてのがんで根治照射が行なわれています。
放射線治療単体で治療を行うことはもちろん、手術や抗がん剤と併用して行う治療も根治照射に含まれます。
緩和照射:がんによる苦痛を伴う症状を緩和する
緩和照射とは、がんの進行によって引き起こされる、苦痛を伴うさまざまな症状を緩和する目的で行われる放射線治療です。進行したがんやほかの部位に転移したがんが対象となります。
たとえば、骨にがんが転移したことによる痛みを和らげることや、肺がんなどによる呼吸困難を改善することを目的に、放射線治療による緩和照射が行われることがあります。
特に、骨にがんが転移した場合は強い痛みを伴うため、原因となっているがんに放射線治療を行うことで、痛みを抑えることができます。
また、ほとんどのがんで保険診療にて治療を行うことができます。※
【特徴まとめ】
照射方法 | 特徴 | 保険適用 |
---|---|---|
根治照射 | 完全な治癒を目的とした放射線治療 | ほとんどのがんで適用※ |
緩和照射 | がんの進行による痛み等の症状を緩和させる放射線治療 |
※がんの種類や放射線治療の種類により、保険適用の条件は異なります。
緩和照射の目的・メリットを知る
緩和照射の主な目的は、がんによる症状を抑え、患者さんの生活の質(QOL)を向上させることにあります。
がんは、それ自体が大きくなることで、神経の圧迫による痛みや骨折などの症状をもたらすことがあります。特に全身にがんが転移している場合は、がんによる症状に加えて治療による副作用も強く出る場合があり、治療期間も長期にわたります。
そのため、がん治療を続けるためには、生活の質(QOL)を保つことが非常に重要となります。その中で緩和照射は、さまざまな症状の緩和が期待でき、大きな役割を果たしています。
たとえば、緩和照射の目的の一つに『止血』があります。肺がんでは「血痰(痰に血が混じること)」、胃・大腸がんでは「下血(排便時出血)」などの症状が出ることがありますが、そのような出血を伴う症状を止める場合にも緩和照射が用いられます。出血を止めることで貧血などの症状を抑えることはもちろん、出血が止まることで気持ちが安心することにもつながります。
また、食道がんの場合は『飲み込み困難の改善』を目的に緩和照射を用います。食道にがんできることで食道が狭まり食事を摂ることが困難な場合に、原因となっているがんに放射線治療(緩和照射)を行うことで、食事を今まで通りに摂れるようにすることができます。
このように、緩和照射により苦痛や日常生活の支障となるがんを治療することで、副作用の軽減や生活の質(QOL)を向上させ、治療を続けられるようにすることが、緩和照射の大きな役割といえます。
緩和照射により、改善が期待できる症状
緩和照射で改善が期待できる症状として、主に以下のようなものがあります。
- 脳転移による頭痛や嘔気・嘔吐などの神経障害の緩和
- 骨転移による疼痛の緩和
- がんによる出血の止血
- がんによる麻痺・痺れなどの神経障害の緩和
- がんによる気道の狭窄・閉塞(呼吸困難等)の緩和
- がんによる消化管の狭窄・閉塞(飲み込み困難等)の緩和
脳転移による頭痛や嘔気・嘔吐などの神経障害の緩和
脳にがんが転移すると、頭痛やめまい、嘔気・嘔吐などさまざまな神経障害を引き起こすことがあります。放射線治療により緩和的照射を行うことで、これらの症状の改善が期待できます。
骨転移による疼痛の緩和
骨にがんが転移すると、骨折や脊髄圧迫などさまざまな症状を引き起こします。中でも疼痛の頻度は高く、再発進行期のがん患者さんの7~8割が強い痛みを経験する※といわれています。放射線治療により緩和的照射を行うことで、骨転移による痛み・苦痛の改善が期待できます。
※ 日本臨床腫瘍学会 骨転移診療ガイドラインより
http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/bone_metastasis/bone_metastasis.pdf
がんによる出血の止血
がんが近くの血管に拡がることで、出血を伴う症状が出ることがあります。肺がんでは血痰、胃がん・大腸がんでは下血などの症状があります。放射線治療により緩和的照射を行うことで、止血効果が期待できます。
がんによる麻痺・痺れなどの神経障害の緩和
がんが近くの神経を圧迫すると、麻痺や痺れなどの神経障害を引き起こすことがあります。「何かに触れただけで痛みが走る」「手足に力が入りにくくなる」など、大小さまざまな症状があります。放射線治療により緩和的照射を行うことで、神経障害の緩和が期待できます。
がんによる気道の狭窄・閉塞(呼吸困難等)の緩和
がんが気道を圧迫することで、呼吸がしづらくなり、息切れなどの症状が出ることがあります。特に肺がんなどでみられる症状の一つです。放射線治療により緩和的照射を行うことで、呼吸困難の緩和が期待できます。
がんによる消化管の狭窄・閉塞(飲み込み困難等)の緩和
がんが消化器官を圧迫することで、食事が困難になることがあります。食道がんなどでみられる症状の一つです。放射線治療により緩和的照射を行うことで、飲み込み困難の緩和が期待できます。
このように、緩和照射は日常生活や治療に影響を与えるさまざまな症状を緩和することができます。患者様のQOL(生活の質)向上のために、ぜひ知っておいていただいてほしい治療法の一つです。
ポイントまとめ
- 緩和照射とは、苦痛を伴うさまざまな症状を緩和する目的で行われる放射線治療で、ほとんどのがんで保険診療による治療が行える
- 副作用の軽減や生活の質(QOL)を向上させ、治療を続けられるようにすることが、緩和照射の大きな役割
- 神経障害・骨転移の疼痛・出血・呼吸困難・飲み込み困難などの、日常生活やがん治療に影響する症状を緩和照射で軽減することができる
当ページ監修ドクター
柏原 賢一 (かしはら けんいち) 先生
一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク 理事
- 医学博士
日本医学放射線学会 放射線治療専門医
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