治療期間を5分の1に!膵臓がんにも適した放射線治療「IM-SBRT」とは?

公開日:2019年06月24日

国立がん研究センターの調べによると、2017年にがんで死亡した人は、およそ37万人、そのうち肺がん、大腸がん、胃がんに続いて死亡者数第4位となっているのが膵臓がんです。膵臓がんは早期の状態では自覚症状がほとんどないため、進行した状態で見つかることが多く、早期発見・治療が非常に難しいがんのひとつです。膵臓がんの治療として、治療期間を大幅に短縮できるという高精度放射線治療「IM-SBRT」を行っている、東京放射線クリニック院長の柏原賢一先生に、この治療の特徴やメリットについてお話を伺いました。

※国立がん研究センター がん情報サービスより

目次

テクノロジーの進歩で、副作用を抑えてより効果的な治療が可能になった放射線治療

東京放射線クリニックは、一般的ながんの放射線治療に加えて、「IMRT(強度変調放射線治療)」や「SBRT(体幹部定位放射線治療)」といった「高精度放射線治療」を提供する、放射線治療専門のクリニックです。

2008年の開院以来、患者様に最適な治療を提供することをモットーに、保険診療の枠にこだわらず自由診療にも対応し、大きすぎる・多すぎるがんへの放射線治療や、“日本ではまだ浸透していない”放射線治療も取り入れ治療法を提案するなど、放射線治療の可能性を追求した診療を行っています。

東京放射線クリニック外観

放射線治療とは、患部に放射線をあてて、がん細胞を消滅させたり、縮小させたりする治療方法です。がん三大療法のひとつで、開腹を行わないという点で身体への負担を抑えられるという特徴があります。がんと根気よく闘うためには、QOL(生活の質)を下げることなく治療を続けられることが大切ですが、この点でも放射線治療は効果的な治療法です。

近年はテクノロジーの進歩によって、病巣を三次元で立体的に捉え、正常組織へのダメージを抑えながら病巣部分に集中的に放射線を照射する、高精度放射線治療などが登場し、ますます効果的な治療が行えるようになってきました。

放射線治療と抗がん剤の併用による膵臓がん治療の課題

放射線治療と抗がん剤の併用による膵臓がん治療の課題

「膵臓がんは早期の状態では自覚症状がほとんどなく、見つかった時点で進行していることも多い、早期発見が非常に難しいがんのひとつです。手術での治療を基本としますが、他の重要な臓器や血管と接していることから、がんの広がり具合によっては手術での切除が困難なケースも少なからずあり、その場合は、一般的に放射線治療と抗がん剤治療の併用で治療を行います。当クリニックでも以前はそういった方法を用いて治療を行っていました。」

「ところが、放射線治療と抗がん剤を併用する場合、相乗効果が期待できる一方で、それぞれの治療で生じる副作用も重なって大きくなってしまいます。それを避けようとすると抗がん剤の投与量を減らす必要があり、薬の効果が減弱することもありました。通常の放射線治療は5~6週間の時間を要し、その期間抗がん剤の量を減らすと、他部位への転移のリスクも高まります。この問題を解決するために行き着いたのが、海外で先行実績があり、治療効果がある程度確かめられている「IM-SBRT」という治療方法でした。」

高精度放射線治療「IMRT」と「SBRT」とは

放射線治療装置(リニアック)

「IM-SBRT」の特長を解説する前に、まず「IMRT(強度変調放射線治療)」と「SBRT(体幹部定位放射線治療)」について述べたいと思います。

近年、放射線治療の分野はテクノロジーの進歩もあり、以前よりも正常細胞への影響を抑えて効果的な治療が期待できるようになっています。陽子線治療や重粒子線治療も知られていますが、保険で治療が行える範囲(部位)も、治療が受けられる施設数も限られているのが現状です。

高精度放射線治療とよばれる放射線治療のひとつ「SBRT(stereotactic body radiotherapy)」は、多方向から放射線を集中的に照射することができる治療法です。正常な組織に当たる放射線量を抑えながら、がんに対してピンポイントで多くの放射線を照射することができ、少ない回数で高い治療効果が期待できます。主な適用疾患は肺がん(肺転移含む)、肝がん(肝転移含む)、及び脊椎(せきつい)および傍脊椎(ぼうせきつい)領域です。

「IMRT(Intensity Modulated Radiation Therapy)」は、様々な方向から放射線を照射するSBRTに、さらに照射ごとに線量に強弱がつけられる治療法です。がんの形が複雑であったり、がんの近くに正常な組織が隣接したりしているとき、正常組織にあたる放射線量を抑えながら、がんに多くの放射線をあてることができます。

限局している(部位内にとどまり、他に転移がない状態)がんには保険適用になり、膵臓がんも保険適用範囲に含まれます。「マルチリーフコリメータ」という、葉っぱの形に似た照射範囲を調整できる装置が登場し、照射量を計算するコンピュータ技術が発展したおかげで可能になった治療法です。

そして、この「IMRT」と「SBRT」を組み合わせた放射線治療が「IM-SBRT」です。

ふたつの高精度放射線治療の長所を組み合わせた画期的な治療法

ふたつの高精度放射線治療の長所を組み合わせた画期的な治療法

「IM-SBRTでは、複雑な線量調節を行えるので、十二指腸など他の臓器と隣接する膵臓がんの治療にも適しており、1回の放射線量を上げることにより短期間で治療を終わらせることができます。

治療の流れとしては、患者さんのご来院時に撮影済みのCTやMRI画像があって診断がつけば、その場で治療方法などをご提案し、ご承諾いただいたらその日のうちに治療計画作成に着手します。そこから1週間かけて放射線腫瘍医、診療放射線技師、医学物理士が専用のコンピュータを使い治療の計画を立て、治療が問題なく行えるかどうかの検証も行います。」

「準備が整ったら治療を開始。治療期間は約1週間ですので、ご来院いただいてからトータルの期間は2週間ほどで済むこととなります。治療中の1週間は毎日ご来院いただきますが、入室から退室までに要する時間は30〜40分程度。放射線の照射時間自体は数分程度です。」

「通常5週間程度かかる放射線治療が1週間と短期間で完了できることから、減量した抗がん剤との併用という方法をとらなくても、放射線治療が終了してから抗がん剤治療にスピーディーに移行でき、特に治療を急ぐ膵臓がんの患者さんにとっては、大きなメリットになります。

また、通院の頻度、治療時間が短くて済むことは、患者さんの身体的・精神的な負担を軽減することにも繋がっています。」

今後期待される免疫療法との組み合わせ

今後期待される免疫療法との組み合わせ

「また、免疫チェックポイント阻害剤(薬)に代表される免疫療法との組み合わせは、放射線治療にとってこれから期待されている分野でしょう。

放射線治療は、腫瘍を切って取り去ってしまうわけではないため、照射によって壊されたがん細胞が体内に残ることが特徴です。死んだがん細胞は時間と共に体内で吸収されますが、がん細胞が破壊されたときに細胞内から「抗原」というがんの目印となる物質がこぼれ出てきます。これを体内の免疫細胞が認識し、がんに対する免疫の働きが活性化することがあります。」

「近年登場した免疫チェックポイント阻害剤(薬)は、単独での効果は2〜3割程度ですが、放射線治療との併用で体内の免疫誘導が高まり、有効率が向上するのではと期待されています。現在、こうした併用効果を調べる臨床試験も国内外で始まっており、治療の順序やどういった使い方が治療効果を引き出すのかなど、検討・検証が進められています。

免疫チェックポイント阻害剤(薬)は非常に高額な薬ですから、比較的安価な放射線治療を併用することで治療効果が高まれば、薬の投与量や使う頻度を下げられる可能性もあり、医療費の抑制にもつながるでしょう。」

「これまでは、局所治療のひとつとして、手術の代わりに見られていた放射線治療ですが、技術の進歩によって患者さんの負担軽減が大きく進んできたことや、理論的に免疫療法との相性がよいという性質などもわかってきています。米国では、がん患者さんのおよそ6割が放射線治療を選ぶとも言われていますが、日本でも積極的に放射線治療が検討される時代に入ってきたと思います。」

ポイントまとめ

  • 放射線治療は、高精度放射線治療などの登場で、正常細胞への影響を抑えQOLを維持した治療が可能となっている。
  • 高精度放射線治療「SBRT」は、多方向からの照射で、正常細胞のダメージを抑えながらがんに放射線をピンポイントで集中させる治療法。「IMRT」は、多方向からの照射に加え、照射ごとの線量の強弱を調整し、さらに正常細胞へのダメージを抑えられるようにした治療法。
  • IMRTとSBRTのメリットを併せ持つ「IM-SBRT」は、高い線量の放射線をピンポイントで照射することで、通常の5分の1程度の短期間での治療を実現。スピーディーな治療が求められる膵臓がんの治療として大きなメリットがある。
  • 今後は放射線治療と免疫療法の組み合わせがカギ。放射線治療によって免疫療法の効果向上も期待できる。

取材にご協力いただいたドクター

柏原 賢一先生

柏原 賢一 (かしはら けんいち) 先生


一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク 理事


主な資格など
医学博士
日本医学放射線学会 放射線治療専門医

早期発見が難しい膵臓がんの基礎知識

膵臓がんは、がんの中でも早期発見が非常に困難ながんのひとつで、5年生存率も8%程度と全がん種の中で最も低いです。

膵臓は、胃や十二指腸、大腸、肝臓、胆のう、脾臓などの後ろに隠れており、「沈黙の臓器」とも呼ばれています。体の深いところにあり、超音波も届きにくく内視鏡の挿入も困難であるため、がんが出来た場合にも見つかりにくいです。また、早期には自覚症状がほとんど現れず、膵臓がんの多くは見つかったときにはかなり進行している場合がほとんどです。

日本での膵臓がん死亡数は増加傾向にあり、女性では大腸・肺に続いて3番目、男性では肺・胃・大腸・肝臓に続いて5番目※に多くなっています。どのがんにもいえますが、特に膵臓がんは進行も早いことから、定期的な検診や検査を受け、出来る限り早期発見することが大切です。

国立がん研究センター がん情報サービスより

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