放射線治療を知る

公開日:2019年05月20日
放射線治療を知る

がん患者さんの中で放射線治療を受けている割合は、厚生労働省の「がん対策基本法」の資料によると、アメリカで66%、ドイツで60%、英国で56%にも及びますが、日本では25%程度と言われています。

米国では、がん患者の半数以上が放射線治療を受けているのに対し、日本では、放射線治療における対応がまだまだ行き届いておらず、日本では「がんは切るもの」との意識が強いことが影響の1つとして考えられています。患者さんだけでなく医療者についても放射線治療に関してしっかりと理解されていない現状です。

近年、放射線による治療は大きく進歩してきており、がん細胞にだけ集中的に放射線を照射し、周囲の正常細胞への影響を極力抑えた治療も登場してきています。

当ページでは、放射線治療の基礎知識として、治療の特徴や種類、主な副作用や、放射線治療に関するQ&Aなどをご紹介します。

※厚生労働省「がん対策基本法」より

目次

副作用を少なくがんを治療。放射線治療の特徴

放射線治療は、手術・化学療法と並び、がん治療の3本柱の1つで、部位や症状によっては手術と同等以上といわれ、身体への負担を抑え、治療後の副作用も少ないことが特徴です。
また、体の機能を保ちながら治療ができるため、身体的、精神的な負担を軽減できます。特に体力的に手術の難しい高齢の患者さんや他の病気などで治療が行えない患者さんにとって有効な選択肢の1つです。

放射線治療の種類

放射線治療の種類は、大きく分けて2つです。1つは、「外部照射」と呼ばれ、体の外側から放射線を当てる治療法です。
IMRT(強度変調放射線治療)やSRT(定位放射線治療)、陽子線治療や重粒子線治療などがこれにあたります。

もう1つは、「内部照射」と呼ばれ、体の内部からがんやその周辺に放射線をあてる治療法です。小線源治療などがこれにあたります。 どちらが優位ということはなく、患者さんの病状や状況に応じて治療方法が選択されます。外部照射と内部照射を組み合わせて治療を行うことも少なくありません。また、放射線治療では、放射線だけを使用する治療方法と、化学療法(抗がん剤)や手術、温熱療法などを併用して治療する方法もあります。

高精度放射線治療(IMRT/SRT)

放射線治療では、放射線が当たった部分に大きな影響を与えます。そのため、放射線はがんだけに当てるのが理想ですが、現実にはがんの形状が複雑であったり、他の部位と隣接してしまっている場合など、周囲の正常な組織にも放射線が当たるため、放射線があたった部分に副作用が起きてしまいます。

高精度放射線治療と呼ばれる放射線治療では、がんの形状に合わせて放射線に強弱をつけること(IMRT)や、三次元的に多方向から放射線を照射する(SRT)ことで、従来の放射線治療に比べて正常組織にあたる放射線量を少なくし、がんだけに集中して放射線を照射することが可能です。

また、IGRT (画像誘導放射線治療)と呼ばれる位置合わせを行う補助技術を用いることで、治療直前の患者さんの腫瘍位置を正確に捉えることが可能となり、より精度の高い照射をことができます。副作用を少なく大きな治療効果が期待できる治療法の1つです。
IMRT(強度変調放射線治療)の場合、がんが限局(他の部位に転移がない)している場合であれば、大多数のがんで保険診療による治療が可能※で、特に前立腺がんや膵臓がんの治療で利用されることが多いです。

※保険適用範囲(2018年9月時点)
・IMRT(強度変調放射線治療)…限局性の固形腫瘍(転移がない固形がん全て)
・SRT(定位放射線治療)
頭頸部の場合 …頭頸部腫瘍や転移性脳腫瘍など
体幹部の場合…リンパ節や他臓器に転移がなく、大きさが5㎝以下、数が3個以内の原発性・転移性肺がん・肝臓がんに限る

粒子線治療(陽子線治療・重粒子線治療)

がん治療に利用されている放射線は、大きく分けて光子線と粒子線の2つがあります。光子線とは、光の仲間で波長の短い高エネルギー電磁波の一種です。そのうちX線やガンマ線などが放射線治療に利用されています。従来の放射線治療や高精度放射線治療は、X線を使用した放射線治療です。 素の原子核(陽子)や炭素の原子核などの粒子を光速に加速した放射線(陽子線、重イオン線)粒子線といい、粒子線を利用した放射線治療を「粒子線治療(陽子線治療・重粒子線治療)」といいます。

粒子線は、ある深さにおいて最も強く作用し、また一定の深さ以上には進まないという特性があり、体の深いところにあるがんに集中的に多くの放射線を当てることができるため、体の浅いところにあるの正常な組織の損傷を低く抑えられることが特徴の1つです。X線では、放射線のエネルギーは体表面から1~2cm下の皮下組織で最も強くなり、その後次第に減衰していきますが、粒子線では放射線のエネルギーのピークを体の10cm以上深いところへ調整することで、正常組織にあたるエネルギーを小さくし、がんに対して多くの放射線を当てることができます。

粒子線治療も従来の放射線よりもより多くの放射線を当てることができ、副作用を少なく大きな治療効果が期待できる治療法の1つですが、治療施設数が少ないこと、保険の適用範囲が限られていることも特徴です。

※保険適用範囲(2018年9月時点)
・陽子線治療 … 小児がん、骨軟部腫瘍、前立腺がん、頭頸部がん
・重粒子線治療 … 骨軟部腫瘍、前立腺がん、頭頸部がん

小線源治療

光子線や粒子線を用いた放射線治療では、体の外部から放射線を腫瘍に照射するのに対して、小線源治療は、放射線を出す物質(小線源)を組織内に直接植え込んだり、組織に針を直接刺して、これを通して放射線をがん細胞に当てる治療法で、体の内部から 病変に極めて近い位置から放射線治療を行うものです。

従来の放射線治療に比べ、病変に近い 内部から放射線を照射するため、周囲組織への影響も少なく、がんへ多くの放射線を当てることができます。

治療は、放射線源の強さによって、24時間から7、8日にわたって治療する場合と、数分の治療を数回繰り返す場合があります。また、針などを使って小さな線源を永久的に刺入する場合もあり、治療の進め方はがんの性質や場所によって異なります。

例えば前立腺がんの治療では、放射線を放出する小さなカプセル(線源)を50-100個程度前立腺に挿入し、全身または下半身麻酔をかけ治療が行われます。治療後は微量の放射線が体外に放出されるため、周辺への影響が軽微であることが確認されるまで数日の入院が必要となることがあります。

治療方法は部位によって異なり、子宮腔、気管支、食道、胆管などの管腔臓器では、体腔内に線源を挿入する腔内照射、膣、舌、前立腺、乳腺などの部位では、がんに直接線源を挿入する組織内照射が行われます。外部照射と併用して治療が行われることも少なくありません。

※保険適用範囲(2018年9月時点)
・組織内照射 … 前立腺がん、舌その他の口腔がん、皮膚がん、乳がんなど
・腔内照射 … 子宮腔、腟腔、口腔、食道、気管支、直腸などのがん

各放射線治療まとめ

  従来のエックス線治療 高精度放射線治療
(IMRT/SRT等)
粒子線治療
(陽子線/重粒子線)
小線源治療
線量の集中性 低い 高い 高い 高い
不整形な腫瘍への照射
(複雑な線量分布の形成)
困難 可能 可能 可能
保険適用範囲 大多数のがんに適用
<IMRT(強度変調放射線治療)>
限局性の固形腫瘍(転移がない固形がん全て)
<SRT(定位放射線治療)>
○頭頸部の場合
頭頸部腫瘍や転移性脳腫瘍など

○体幹部の場合
リンパ節や他臓器に転移がなく、大きさが5㎝以下、数が3個以内の原発性・転移性肺がん・肝臓がんに限る
※2018年9月時点
<陽子線治療>
小児がん、骨軟部腫瘍、前立腺がん、頭頸部がん

<重粒子線治療>
骨軟部腫瘍、前立腺がん、頭頸部がん

※2018年9月時点
<組織内照射>
前立腺がん、舌その他の口腔がん、皮膚がん、乳がんなど

<腔内照射>
子宮腔、腟腔、口腔、食道、気管支、直腸などのがん

※2018年9月時点
入院の有無
費用(患者負担額) 前立腺がんで多門照射の場合
保険1割負担:約7万
保険3割負担:約20万円
前立腺がんの場合
保険1割負担:約15万円
保険3割負担:約45万円
前立腺がんの場合
保険1割負担:約16万円
保険3割負担:約48万円
前立腺がんの場合
保険1割負担:約12万円
保険3割負担:約40万円

放射線治療の主な副作用

放射線治療の副作用は、主に放射線を当てた場所に起こります。治療中や治療直後(急性期)に現れるものと、半年から数年たってから(晩期)現れるものがあります。照射部位や範囲、放射線の量などにより症状が異なり、起こり方や時期には個人差があります。
放射線治療は副作用が強いイメージをもたれる方もいますが、近年の技術進歩により、正常組織へあたる放射線量を極力少なくし、より精度の高い照射が可能になってきており、治療自体の負担や治療による副作用の少ない「身体にやさしい」がん治療の1つです。

放射線は局所療法なので、放射線を当てていない場所に副作用が起こることはありません
例えば、消化管への照射では、下痢や吐き気、食欲不振など、頭部への照射では、頭皮の荒れや脱毛が見られることがありますが、日々のケアや投薬などで解消できる一時的なものが多く、重篤な副作用が起こることはほとんどありません

放射線治療に関するQ&A

Q.一度放射線治療を受けると、同じ部位に再度放射線治療はできない?

放射線治療では、がん周辺の正常細胞にも放射線が当たり、影響が出ることがあります。
各臓器に当てられる放射線量は限度があり、許容範囲を超えると正常細胞も弱ってしまいます。一度目の治療で正常組織に当てられる放射線量の限度いっぱいに照射しているが多いため、同じ部位に再発した場合に、二度目の放射線治療を行うことが難しい場合が多いです。
ただし、がんの種類や部位、初回の照射量が少ない場合など、再度治療が行える場合もあります。
また、放射線が当たっていない部分への影響はないので、照射する場所(部位)が違えば、何度目であろうと問題なく治療することができます

Q.放射線治療は入院が必要?

外部照射である高精度放射線治療や粒子線治療では、通院での治療が可能なため入院の必要はありませんが、内部照射である小線源治療の場合、麻酔の有無や体内の放射線量の関係で入院が必要な場合があります。

Q.痛みや苦痛の緩和にも放射線治療が有効?

がんによる呼吸困難や飲みこみの阻害、骨転移による痛みやその他出血など、がんの進行によりさまざまな苦痛をともなう症状が出ることがあります。放射線治療により、痛みや苦痛の元となる腫瘍を治療することで、それらの苦痛を和らげることもできます

Q.高齢で体力的に手術も抗がん剤も難しい。放射線治療もできない?

手術では、近年、治療機器やロボット手術の発達に伴い、ご高齢者にも負担の少ない治療ができるようになってきています。
抗がん剤も、投薬量を調整や副作用の少ない新薬を使用するなど、ご高齢者に合わせた方法が選択されることもあります。放射線治療では、負担や副作用を抑えた治療を行うことができるため、ご高齢者でも比較的治療ができる可能性の高い治療の1つです。

ポイントまとめ

  • 放射線治療は、がん治療の3本柱の1つで、部位や症状によっては手術と同等以上といわれ、身体への負担を抑え、治療後の副作用も少ないことが特徴
  • 放射線治療は大きく分けると、体の外側から放射線を当てる「外部照射」と体の内部からがんやその周辺に放射線をあてる「内部照射」の2種類がある
  • 放射線治療の副作用は放射線を当てていない箇所で起こることはなく、治療中や治療直後に現れるものと、半年から数年たってから現れるものがあり、起こり方や時期は個人差が大きい

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