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【トピックス】早期の肺がんなら、切らずに手術と同等の治療効果も
日本ではがん治療法としてまず手術を検討することが多いのですが、早期の肺がんの治療では、手術ではなく放射線治療のみでも手術と同等の効果が得られています。
患者さんの身体の負担が少ない放射線照射のみで行う肺がん治療を選択する意義について、東京放射線クリニック院長、柏原賢一先生にお話を伺いました。
目次
中村獅童さんの肺腺がんの報道を受け、肺がん治療に関する注目が高まり、私のクリニックにも、テレビや新聞、雑誌など、報道各社から取材申し込みや問い合わせがありました。
治療の症例数や患者様の傾向、早期発見・早期治療のために必要な検診など、肺がんに関するありとあらゆるご質問にお答えしお話しした中で、皆様が一様にとても驚かれるのが、「早期の肺がんであれば、身体にメスを入れなくても、放射線治療で手術と同等の効果が得られる」という点です。
元国立がん研究センター がん予防・検診研究センター長 森山紀之先生も、ご著書「幸せながん患者」の中で述べられているこの事実は、日本では医療従事者の間でもまだまだ十分に知られていません。
この記事をお読みいただいている方の中にも、「放射線=手術ができない場合の治療法」、または、「放射線=一度受けると、もう同じところには受けられない」といったイメージを持たれている方がいらっしゃることと思います。しかしここ10年ほどの間に、放射線治療の技術は大きな進化を遂げています。
従来の放射線治療ではがん周辺に広めに放射線を当てるため、周辺の正常な肺まで傷つけ、身体への負担が生じていましたが、SBRT(体幹部定位放射線治療)の登場で、正常な細胞をほとんど傷つけることなく、がんをピンポイントで高い量の放射線で狙い撃ちすることが可能になったのです。
一般的に通常の放射線治療では1日の照射量が2Gy※ですが、周囲への影響が少ないためSBRTでは5倍以上の約12Gyをがんに対して集中的に照射できます。治療効果の高いSBRTのピンポイント照射により、例えば早期の肺がんでは、手術と比較しても同等といえる良好な生存率、治療効果が得られているのです。
※ Gy(グレイ):放射線の量を表す単位
日本の医療においては、治療法の選択肢としてまず手術が検討される習慣があるため、早期の肺がんの患者様に対し、このような高精度な放射線治療の選択肢が知らされる機会は、まだ限られているといえるでしょう。
ですが、私が院長を務める東京放射線クリニックでも、早期の肺がんの患者様が放射線治療を受けられることが確実に増えてきていますので、勉強熱心な患者様の中で、この事実は徐々に知られてきているのかもしれません。
そして、治療を受けられる皆様が何より喜ばれているのは、身体への負担がほとんどないこと。たとえばステージIaの肺がんであれば、治療回数は4回程度。会社を休むこともなく普段と変わりない日常生活が送れ、仕事帰りの通院で手術と同等の治療効果を得られるということで、この治療法を選択される方が増えています。
治療法を選択するのは、あくまでも患者様です。そして患者様の選択をサポートするため、治療法の選択肢の存在や、それぞれのメリットやデメリットをきちんとお伝えするのは医師の役目であると考えています。私は放射線治療専門医ですが、患者様のご病状を踏まえ、別の治療法が最善と思う場合は、正直にそうお伝えするようにしています。
患者様お一人お一人にとってベストな選択ができるよう、有効な治療法の選択肢がきちんと患者様に伝わっていくようにと、願ってやみません。早期の肺がんへの高精度放射線治療は、まさにその一つです。
【参考】東京放射線クリニックの肺がん治療(https://www.troc.jp/cancer/lung.html)
ポイントまとめ
- 放射線治療はこの数年で飛躍的に進化し、そのひとつSBRT(体幹部定位放射線治療)の登場によって、正常な細胞をほとんど傷つけることなく、高い量の放射線でがんのみを狙い撃ちすることが可能になったと言われている。
例えば早期の肺がんでは手術と比較しても同等の生存率、治療効果が得られている。
取材にご協力いただいたドクター

柏原 賢一 (かしはら けんいち) 先生
一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク 理事
- 医学博士
日本医学放射線学会 放射線治療専門医
放射線治療の基礎知識 SBRT(体幹部定位放射線治療)とは?
SBRT(体幹部定位放射線治療)とは、腫瘍に対して三次元的に多方向から放射線を当てる高精度放射線治療の一つです。主な適応疾患は腫瘍のサイズが5cm以内、3個以下の肺がん(転移性肺がん)、肝臓がん(転移性肝臓がん)などで、特に早期の肺がんでは、良好な治療効果が期待できます。肺がんには小細胞肺がんと非小細胞肺がんの2つがあり、非小細胞肺がんのうち、孤立性の肺がんに対しては、SBRTは手術と同等の治療成績が望めることもあります。身体への負担が少なく、治療期間が短く済むことが多いのも特徴です。
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