日本の放射線治療を展望する。「体幹部定位放射線治療(SBRT)への期待」

公開日:2017年01月31日
体幹部定位放射線治療(SBRT)への期待

東京放射線クリニック 院長
柏原 賢一(かしはら けんいち)先生

技術進歩により、放射線治療の分野でも新しい治療法が登場しています。ピンポイントでがんを照射する『SBRT(体幹部定位放射線治療)』など、高精度放射線治療と呼ばれる放射線治療や、再発転移がんに対する放射線治療など、患者さんの選択肢も増えています。今回のドクターインタビューでは、高精度放射線治療「SBRT」のお話を中心に、放射線治療の展望について、東京放射線クリニック院長 柏原 賢一先生にお話しをお伺いしました。

目次

国内・外で報告続く放射線療法のエビデンス

 先端医療に携わる医師の一人として私は、医学の進歩の恩恵を患者さんが等しく受けているのかどうか、ふと考えることがあります。例えば私の専門領域である放射線治療を例にお話します。

放射線治療の分野も技術進歩が目覚ましく、当クリニックでは現在、体幹部定位放射線治療(SBRT)や強度変調放射線治療(IMRT)などの高精度放射線治療を中心に行っています。SBRTは高線量を狭い範囲にピンポイントで照射できる治療法で、正常細胞への影響が少ない分、従来の放射線療法に比べて副作用が少なく、短期間での治療が可能です。

IMRTは放射線量を変化させる(放射線の強さに強弱をつける)ことで正常組織の損傷を抑え、がんに集中的に照射することが可能であり、複雑な形状の病巣や近くに重要臓器がある場合にも対応できます。

科学的根拠(エビデンス)は治療法を選択する上での拠り所となっており、放射線療法に関するエビデンスも集積されています。SBRTに関する国内・外の研究報告などをいくつかピックアップしてみます。

  • 昨年9月に行われた米国放射線腫瘍学会(ASTRO)年次集会では米国退役軍人局のデータから、肺がん患者(ステージI)約1,700人(平均年齢72歳)を抽出して放射線療法の治療効果を調査した結果が報告されました。

    それによると、2001年から2011年までにSBRTの利用は5%から60%に増加したといいます。また、SBRTを受けた患者の死亡リスクが従来の放射線療法に比べて約30%低いことがわかりました。調査を行ったヒューストン・メソジスト病院の研究グループは「SBRTは、従来の放射線療法に比べて治療回数も副作用も少ない。

    今回の研究結果は、年齢や健康状態が理由で手術ができない早期肺がん患者には放射線療法を検討すべきであることを強く示している」などと評価しています。(2016年9月26日にボストンで開かれたAmerican Society for Radiation Oncologyの総会で発表された研究発表から)

  • 国内での多施設共同研究で、1995年から2000年までの早期肺癌87人にSBRTを施行した結果を評価しました。経過観察中央値55か月で、5年局所制御率は大きさ3㎝までが92%、3㎝を超えると73%でした。それらの5年生存率はそれぞれ72%、62%で、治療を必要とした放射線肺炎は1人だけでした。安全で有効な治療法であると結論されています。
    (Hiroshi Onishi, et al. Stereotactic Body Radiotherapy (SBRT) For Operable StageⅠ Non-small-cell Lung Cancer : Can SBRT Be Comparable To Surgery? Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys. Vol.81, No.5, pp1352-8, 2011)

    肺がんのほかにもSBRTの治療効果が期待できるがんはいくつもあります。日本では肺のほかに肝に対するSBRTが保険診療で認められています。

  • 海外で行われた、大腸がんの肝転移に対するSBRTの有効性などを検討した第Ⅱ相試験では、手術ができない大腸がん肝転移患者42例(52病変)に対してSBRTを3回(合計75Gyを照射)行った結果、24カ月局所制御率(治療後24カ月間再発がない割合)は91%で、副作用の重症度を示すスケールがグレード3以上の放射線誘発肝疾患は認められませんでした。

    研究グループは「大腸がんの肝転移に関しては、SBRTは手術ができない場合の代替療法であり、局所制御および生存性も良好」と評価しています。
    (Scorsetti M, et al.: Final results of a phase II trial for stereotactic body radiation therapy for patients with inoperable liver metastases from colorectal cancer. J Cancer Res Clin Oncol. 2015 Mar;141(3):543-53)

    前立腺は膀胱、直腸、恥骨、尿道括約筋などに囲まれ、周辺には重要な血管や、性機能、排尿に関わる神経が通っているため、前立腺がんの治療はそれなりに合併症のリスクがありますが、放射線治療の方が手術に比べて尿漏れなどのリスクは低いと言われています。

  • 放射線療法の後、前立腺特異抗原(PSA)の上昇が発見された場合、 生化学的再発と呼ばれます。局所再発前立腺がん患者29例を対象にSBRTの効果を新たに生じる事象について(前向きに)検証した海外の研究では、2年生化学的非再発生存率は82%でした。また、グレード2の尿路関連有害事象が18%に、グレード3の同じく有害事象が7%に見られましたが、グレード1以上の胃腸毒性は認められず、比較的安全な治療法と評価されました。
    (Fuller DB, et al.: High-dose-rate stereotactic body radiation therapy for postradiation therapy locally recurrent prostatic carcinoma: Preliminary prostate-specific antigen response, disease-free survival, and toxicity assessment. Pract Radiat Oncol. 2015 Nov-Dec;5(6):e615-23)

    腎がんは通常の放射線療法の効果が期待できない代表格とされています。

  • 手術ができない腎細胞がんに対してSBRTを施行した16例を対象に、腎細胞がん原発病変に対するSBRTの治療効果を検討した海外の研究によると、局所制御率は100%でした。治療前に原病変による症状(疼痛、血尿)が見られた患者では、全例で治療後に症状の緩和が得られました。研究グループは「腎細胞がんに対するSBRTは安全で、有害事象は最小限に抑えられる。短期の局所制御は良好」としています。
    (Chang JH, et al.: Stereotactic Ablative Body Radiotherapy for Primary Renal Cell Carcinoma in Non-surgical Candidates: Initial Clinical Experience. Clin Oncol (R Coll Radiol). 2016 Sep;28(9):e109-14)

日常生活への影響が少ない体幹部定位放射線治療(SBRT)

 SBRTは、脳腫瘍など頭部の病変で開発された定位放射線治療(SRT)を体幹部のがんにも応用した治療法です。2004年に保険適用になりました。

SBRTでは三次元的に多方向から高線量(1回あたり10~12Gy)をがん組織に集中的に照射します。正常組織を避け、なおかつ呼吸の動きを4D-CT撮影により確認することで精度の高い照射ができるのがSBRTの特徴です。そのため、従来の放射線治療では1.8~2.0 Gyを30~35回照射する場合、SBRTは4~5回の照射ですみます。欧米では病状によっては1回の治療で完了することもあります。

Gy(グレイ)は、放射線が生体に与えるエネルギーの量(吸収線量)を表す単位で、1Gyは1kgの物体に1ジュール(J)の熱量を与えることを意味します(1Gy=1J/kgは約0.24calに相当)。

SBRT治療の流れはシンプルです。まず、初診時にCT(ほかにMRI、PET-CTなど)による画像診断で患者さんに最適な治療法を検討します。治療方針が決まれば、まず固定具を作成し、照射する場所を計測します。治療ごとに放射線が正確に患部に照射されるように位置を合わせます。

高精度放射線治療で最も重要なことは毎回同じ部位に放射線を当てることです。位置が少しでもずれると、がん細胞を的確に狙うことができず、放射線は正常細胞に照射されるリスクがあります。そのために画像誘導放射線治療(IGRT)などを使って治療の精度を高めています。

1回の治療(照射)時間は30分ほど。初回診察から治療準備期間(約1週間)も含めて約10日程度で治療は終了します(照射方法、照射部位によっては治療時間・期間は異なります)。入院の必要がなく、治療中に痛みなどの苦痛もありません。患者さんの日常生活を大きく変えることなく治療ができるのも高精度放射線治療の特徴です。

SBRTは肺がんと肝がんの一部で保険が適用されます。保険適用になるのは肺がんの場合は、腫瘍の大きさが直径5cm以内、かつ(1)転移のない原発性肺がん、(2)3個以内で他に病巣のない転移性肺がん、肝がんの場合は、腫瘍の大きさが直径5cm以内、かつ(1)転移のない原発性肝がん、(2)3個以内で他病巣のない転移性肝がんです。

オリゴメタスタシスへの放射線治療で再発がんに対抗

日本では医療関係者の間でもあまりなじみがない治療法についてご紹介しましょう。

最初の転移からしばらくすると、また1〜2個の転移が別の場所に出てくることがあります。日本では転移がんには抗がん剤による全身治療が適応になることが一般的ですが、再発・転移がんを高精度放射線療法で部分根治し、また転移を見つけたら同じように部分根治を繰り返す局所放射線治療(オリゴ〈少ない〉メタスタシス〈転移〉に対する放射線治療)が有効です。

当クリニックでは5個以内の転移がんに対して放射線治療を行っています。転移が見つかったら、その都度、がんがあまり大きくならないうちに積極的に治療することで、QOL(生活の質)を維持することができます。

欧米では、オリゴメタスタシスに対する放射線治療の有効性が高いとされ、肺がん、乳がん、前立腺がんで臨床試験が行われています。

さまざまな工夫で放射線療法の効果を増強

 放射線治療の効果を上げる目的で、事前に副作用の心配がない低用量の抗がん剤を投与することがあります。あまり知られていませんが、過酸化水素(オキシドール)とヒアルロン酸を併用する「酵素標的・増感放射線療法KORTUC(コータック)」も乳がんなどに対して有効です。

通常、がんは成長するほど細胞が変性して酸素不足の状態を招き、ペルオシキダーゼと呼ばれる抗酸化酵素を細胞内に多量に含むようになります。ペルオキシダーゼは、放射線の効果を減弱することが知られています。

そこで抗酸化酵素を分解する過酸化水素と、過酸化水素を患部にとどまらせるヒアルロン酸を腫瘍内に注入し、その後放射線を照射するコータック治療が考案されました。過酸化水素の働きで、がんの放射線に対する感受性が高まり、治療効果が上がると考えられています。

また、がんが複数ある場合、そのうちの1つに放射線治療を行うと、放射線を照射していないがんまで縮小することがあります。これはアブスコパル(遠くに狙いを定める)効果と言われ、米国では放射線治療と免疫療法を併用することでアブスコパル効果が起きやすいという研究結果も発表されています。

当クリニックでは、このアブスコパル効果を意図的に高めることを狙った「アブスコパル増強療法」を、同じグループで免疫療法を提供している東京ミッドタウン先端医療研究所と連携して提供しています。

アブスコパル増強療法は、放射線治療によりがん細胞が破壊され、がんの目印が体内で放出されたタイミングを狙って免疫療法を行います。すると免疫細胞の1つである樹状細胞などの抗原提示細胞ががんの目印を手に入れ、がんの情報をリンパ球に伝達。免疫療法により活性化したリンパ球が全身を巡ってがん細胞を攻撃します。

進歩し続ける放射線療法

 重要臓器から比較的離れたがんにはSBRTが適しているのに対して、強度変調放射線治療(IMRT)は重要臓器と近接した場所のがんを叩く強力な武器です。前立腺がん、膀胱がん、膵臓がん、頭頸部がんなどは近くに重要な臓器や器官が集まっていて放射線を当てにくいといわれます。

IMRTは照射装置から放射線が出る部分の形状を特殊な方法で段階的に変化させながら照射することができる治療法です。臓器の近くにある複雑な形状のがんでも放射線の線量を変えて最適な照射ができるのがIMRTの大きな特徴です。

最近注目されているホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、放射線の一種である中性子線を体外から照射する治療法で、従来の放射線療法とはメカニズムが異なります。BNCTではあらかじめホウ素化合物を患者さんに点滴します。ホウ素化合物はがん細胞には選択的に大量に取り込まれますが、正常細胞に取り込まれるのは少量です。

そして、がん細胞を狙って中性子線を照射すると、ホウ素化合物からアルファ線とリチウム線が放出されます。アルファ線とリチウム線は、がん細胞の内部で高エネルギーを発生し、がん細胞を死滅させます。

また、これらは細胞1個分ほどの距離を移動すると消えてしまい、周囲の健康な細胞に影響が及ぶ可能性は低いと考えられます。BNCTが実用化されるようになれば、将来はSBRTとの組み合わせでさらに強力な放射線治療の選択肢が増えることも期待されます。

信頼できる医療者の助言やセカンドオピニオンの活用を

信頼できる医療者の助言やセカンドオピニオンの活用を

 放射線治療の利点は、手術に比べて侵襲も少なく、治療後のQOLが高いことです。治療期間中は入院の必要がなく、日常生活を続けながら外来で治療を受けることが可能です。治療効果もがんの種類や進行度によっては手術と同等のケースもあり、抗がん剤治療のような副作用に苦しめられることもほとんどありません。

合理的な思考が好まれる米国では患者の半数以上が放射線治療を選択するといわれています。

主治医が示した治療法を患者さんが素直に受け入れるのが日本のがん診療の現状です。手術しか勧められなかったり、抗がん剤しか治療法はないなどといわれたりして、疑いや不安を感じている患者さんも多くおられます。

私はセカンドオピニオンを求められることが多く、患者さんの話を聞くと、SBRTやIMRTの適応があるにもかかわらず、その機会を逃している人が意外に多いことに驚いています。

当クリニックを受診される患者さんは、SBRTの設備や体制がない医療機関からの紹介もあれば、患者さん自身がインターネットで調べて「つらい思いをしない治療」に漕ぎつけたという例も少なくありません。

信頼できる医療者の助言やセカンドオピニオンを受けて、あきらめずに自分に合った治療法を探してほしいと思います。

【患者さんに知っておいてほしいこと】

主治医が提示した治療方針に疑問を持ったり、説明が理解できなかったり、納得できないという時は、躊躇せず、セカンドオピニオンを求めたいということをその医師に伝え、必要な資料を用意してもらいましょう。セカンドオピニオンを受けることに賛同しない医師や、非協力的な医療機関であれば思い切って見切りをつけることが重要です。

患者さんの診療情報などが十分でない場合でも、可能な範囲で助言してくれる医療機関が各地にあります。当院もその1つです。大切なことは、患者さんが納得してから治療を受けることです。放射線治療は一度始めるとなかなか変更ができません。刻一刻と変化するのががんです。少しでも早期に放射線治療の適応を判断できれば、次の一手を考えることができます。

【災害時の心得】

阪神・淡路大震災では、当時私が所属していた医療機関に神戸大学医学部附属病院から放射線治療について照会があり、患者受け入れを打診されました。災害時には、主治医は被災地周辺で放射線治療装置を備えている医療機関に患者の受け入れを依頼することになるでしょう。

患者さんが受診している医療機関に連絡できれば、治療を継続できる受け入れ先に渡りをつけてもらうことが可能です。患者さんを受け入れる医療機関にとって必要な情報は、がんの種類と状態、放射線治療がどこまで進んでいるのかということです。基本的なことがわからないと治療を引き継ぐことが難しくなります。患者さん自身が治療に関する情報を整理しておいて緊急時に提示できるようにすることが大切です。

ポイントまとめ

  • SBRTは高線量を狭い範囲にピンポイントで照射できる。正常細胞への影響が少ない分、従来の放射線療法に比べて副作用が少なく、短期間での治療が可能。
  • SBRTの1回の治療時間は約30分、治療準備期間も含め10日程度で治療は終了(照射方法、照射部位によっては治療時間・期間は異なる)。入院不要で、日常生活を大きく変えずに治療が行える。
  • SBRT(体幹部定位放射線治療)で治療効果が期待できるがんは複数ある。腫瘍の大きさが直径5cm以内、かつ(1)転移のない原発性肺がん、(2)3個以内で他に病巣のない転移性肺がん、肝がんの場合は、腫瘍の大きさが直径5cm以内、かつ(1)転移のない原発性肝がん、(2)3個以内で他病巣のない転移性肝がんでは、保険適用となる。
  • 再発・転移がんを高精度放射線療法で部分根治させ、再び見つけたらそれを繰り返す、オリゴメタスタシスに対する「放射線治療」も有効である。欧米で有効性が高いとされ、肺がん、乳がん、前立腺がんで臨床試験を行われている。
  • 放射線治療の効果のサポートを狙った過酸化水素(オキシドール)とヒアルロン酸を併用する「増感放射線療法KORTUC(コータック)」は乳がんなどに有効である。
  • 高精度放射線治療の一つIMRT(強度変調放射線治療)は重要臓器と近接した場所のがんを叩くのに適している。前立腺がんなど近くに重要な臓器・器官が集まっている場合や、複雑な形状のがんに対しても、形状に合わせて放射線の量を変化させることで、最適な照射が行える。
  • 米国ではがん患者さんの半数以上が放射線治療を選択すると言われている。
    主治医に提示された治療方針が理解できなかったり、疑問を持ったりしたときは、セカンドオピニオンを受けたい意思を伝え、非協力的な医療機関の場合は思い切って見切りをつけることも重要である。

取材にご協力いただいたドクター

柏原 賢一先生

柏原 賢一 (かしはら けんいち) 先生


一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク 理事


主な資格など
医学博士
日本医学放射線学会 放射線治療専門医

肺がんに対する、SBRT(体幹部定位放射線治療)の基礎知識

肺がんは、大きく分けると、小細胞肺がんと非小細胞肺がんの2種類があります。肺がん全体の85%~90%を占める非小細胞肺がんは、早期であれば手術というのが一般的な治療の選択でしたが、SBRT(体幹部定位放射線治療)を治療の選択肢にできる場合もあります。

SBRTでは、3次元的に多方向から腫瘍に放射線を照射します。腫瘍にピンポイントで照射できるため正常な細胞への影響を抑えながら、多くの放射線をがん腫瘍に照射することが可能です。体への負担が少なく治療期間が短いのが特徴で、多くは通院で治療が行えます。他に転移のない、大きさが5cm以内・数が3個以内の、肺がん(転移性肺がん)は保険の適用となります。

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