【医療情勢】骨軟部腫瘍に対する重粒子線治療に保険適用

公開日:2016年04月28日

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今年4月から、放射線療法の1つである重粒子線治療は、切除非適応の骨軟部腫瘍(骨や筋肉、血管、皮下組織などの軟部に発生する腫瘍)に限って保険が適用されるようになりました。

通常の放射線のおよそ2~3倍の威力

 放射線のうち電子より重いものを粒子線、ヘリウムイオン線より重いものを重粒子線と呼びます。重粒子線治療は重粒子線を利用した放射線治療で、主に炭素イオンが用いられています。

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重粒子線治療では、重粒子(炭素イオン)を加速器で光のスピードの約70%まで加速させ、エネルギーを高めて照射します。重粒子線は細胞を破壊する力が強く、通常の放射線のおよそ2~3倍の威力があります。従来のX線を使った放射線治療では、放射線が体内に深く入っていくほど線量は下がりますが、重粒子線治療は一定の深さになると線量がピークになります。

こうした特徴を生かし、がん病巣の形や位置(深さ)に合わせて照射を行うことで正常組織への影響を抑え、がんだけを狙い撃ちすることができます。

重粒子線治療の対象となるがんは、脳腫瘍、悪性黒色腫(眼)、頭頸部がん、肺がん、食道がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮がん、前立腺がん、直腸がん(骨盤内再発)、骨・筋肉のがんなどです。(但し、他の治療法で十分に治療が期待できるがんなど、重粒子線治療が適応にならないケースもあります)

前立腺がんの3年局所制御率はほぼ100%

 世界に先駆けて重粒子線治療の実運用に成功した独立行政法人放射線医学総合研究所では、2010年2月までに5,200人弱の患者さんが重粒子線治療を受けています。がん種によって差がありますが、約5割から10割近くの患者さんは治療後2年経過した時点で再発や再燃は認められなかったといいます。

また、重粒子線治療による3年局所制御率は早期非小細胞肺がんでは90%を上回り、肝がんでは85~95%、前立腺がんではほぼ100%と良好な治療成績を示しています。局所制御率とは、治療により腫瘍が縮小した割合、もしくは腫瘍の成長が止まった割合です。

重量子線治療によって生じる副作用は、一般の放射線治療と同様、照射中(照射後早期)に起きる早期反応と、その後に生じる遅発性反応がありますが、最近では症状の重いものはほとんど見られないといいます。

重粒子線治療は現在、転移のない「限局性固形がん」であれば部位を問わず先進医療の対象となっています。先進医療は、将来の保険適用を目指して安全性や有効性の科学的証拠を集めることを目的に、特例的に混合診療が認められる優遇制度です。

重粒子線治療の費用は約300万円(自己負担)で、これに通常の治療と共通する保険診療部分(診察、検査、入院、薬など)の3割負担が必要になります。この4月から、切除ができない骨軟部腫瘍の重粒子線治療については保険が使えるようになって患者さんの負担は大幅に軽減されることになります。

なお、保険診療については高額療養費制度が適用されます。これは、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、月の初めから終わりまでで一定額を超えた場合、その超えた金額を支給する制度です。あらかじめ「限度額適用認定証」の交付を受けて医療機関の窓口に提示することで、医療機関ごとにひと月の支払額が自己負担限度額までとなります。

無理して受けると、マイナス効果になる場合も

 平成28年4月1日現在、先進医療を行っている医療機関のうち重量子線治療を実施しているのは次の5施設です。

  1. 1. 独立行政法人放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター病院(千葉県)
  2. 2. 兵庫県立粒子線医療センター
  3. 3. 国立大学法人群馬大学医学部附属病院
  4. 4. 九州国際重粒子線がん治療センター(佐賀県)
  5. 5. 神奈川県立がんセンター

放射線医学総合研究所では、重粒子線がん治療を受ける患者さんに「がん治療でいちばん大切なことは、あらかじめ計画された適正な治療を最後まで安全に行うということです。特に線量は少なすぎても多すぎてもいけません。これは放射線治療においては基本的なことです。

重粒子線がん治療は最長で5週間近くにわたることがありますので、その間の体調の維持には最大限の注意を払ってください。照射により体力の消耗が大きくなる場合がありますので、ふだんにも増して日常生活に気をつけてください」と呼びかけています(冊子「重粒子線がん治療について知りたい方のために」)。

また、無理して重粒子線治療を受けると、かえって体の抵抗力を下げ、マイナス効果になる場合があると注意を促しています。

重粒子線治療を受ける場合は、患者さんのがんの性質や進行状態をはじめ、重粒子線治療の適応などについて慎重な検討が必要になります。重粒子線治療を希望される患者さんはまずは主治医に相談したり、セカンドオピニオンを受けることをお勧めします。

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