【最新医療】新しい放射線治療BNCT 今年度中の治験開始へ 国立がん研究センター

公開日:2016年04月28日
新しい放射線治療BNCT 

副作用がより少ない最先端の放射線治療、ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)の治験が脳神経疾患研究所附属南東北BNCT研究センターで開始されました。また、国立がん研究センターでも、世界初のBNCTのシステムを導入し、今年度中の治験開始が見込まれています。BNCTはX線治療などに続く「第3の放射線治療」として期待が高まっています。

目次

 副作用がより少ない最先端の放射線治療、ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)の治験が脳神経疾患研究所附属南東北BNCT研究センターで開始されました。また、国立がん研究センターでも、世界初のBNCTのシステムを導入し、今年度中の治験開始が見込まれています。BNCTはX線治療などに続く「第3の放射線治療」として期待が高まっています。

がん細胞だけを選択的に死滅させるBNCT

 BNCTは、ホウ素と中性子の間で起こる反応を利用した治療法です。ホウ素と中性子がぶつかると核分裂が起こって、粒子線の一種であるα(アルファ)線が発生します。α線は細胞を死滅させる力が強いことが知られています。がん細胞の内部でこの反応を起こしてα線でがんを死滅させようというのがこの治療法です。

BNCTでは、がん細胞に取り込まれやすいアミノ酸を加えたホウ素薬剤を使います。治療はまずホウ素薬剤を患者さんに投与します。がん細胞にホウ素薬剤が集積し、そこに中性子を照射し、α線を発生させます。

α線はがん細胞1個分ほどの距離しか飛ばないため、正常細胞にはほとんど影響を与えることなく、がん細胞だけを選択的に破壊できます。細胞のDNAは2本鎖からなっています。従来の放射線治療で用いるX線はがん細胞のDNAの2本鎖のうち1本だけを切断します。そのため、DNAは修復されて再発する可能性があります。

一方、α線は2本鎖を切断するため、DNAは修復されず、がん細胞を死滅させることができます。BNCTは、特にがん細胞と正常細胞が混在している悪性度の高い脳腫瘍をはじめとする難治性のがんに対して効果的と考えられています。

また、1回の照射(照射時間30分程度)で済むため、体力が弱った人や高齢者に適した治療法といえます。一方、BNCTによる副作用としては、中性子線の影響による脱毛や炎症、白血球の減少などがありますが、抗がん剤や従来の放射線による治療よりも軽度です。

<BNCTのイメージ>
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BNCTではホウ素化合物が集積しているがん細胞だけが中性子の効果を受けて死滅する。

世界初、リチウムターゲットの病院設置型BNCTシステム

 BNCTで重要な役割を果たす中性子は、陽子線をターゲットとなる物質にぶつけて生成します。ターゲットには、ベリリウムターゲットとリチウムターゲットの2種類があります。リチウムターゲットを用いると、低エネルギーの陽子線で効率よく中性子を産生できるため、全身被ばくを軽減できるというメリットがあります。

BNCTは、従来は原子炉を用いて中性子を取り出していたため、大がかりな施設が必要でした。しかし近年、加速器を用いることで中性子を生成できるようになったため、小型のBNCTを開発して病院に設置することが可能になりました。

2016年3月1日、国立がん研究センターとリゾートトラストの関連会社である株式会社CICSは、共同研究を進めてきた小型のBNCTシステムが原子力安全技術センターの施設検査に合格したと発表しました。これによって世界初のリチウムターゲットを用いた加速器BNCTの臨床適応の可能性が広がります。国立がん研究センターでは今後、物理試験や生物試験を実施し、2016年度内に治験の開始を目指すとしています。

ポイントまとめ

  • BNCTは、ホウ素と中性子がぶつかるとα線が発生する反応を利用した治療法である。α線は細胞を死滅させる力が強いため、がん細胞に取り込まれやすいアミノ酸を加えたホウ素薬剤を投与し中性子を照射してα線を発生させ、その衝撃でがん細胞を死滅させる
  • 正常細胞とがん細胞が混在する悪性度の高い脳腫瘍をはじめとする難治性のがんに対して効果的と考えられている
  • BNCTでは全身被ばくを軽減できるというメリットがある。
  • 2016年3月には国立がん研究センターとリゾートトラストの関連会社である株式会社CICSは、共同研究を進めてきた小型のBNCTシステムが原子力安全技術センターの施設検査に合格したと発表、世界初のリチウムターゲットを用いた加速器BNCTの臨床適応の可能性が広がる。

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