- 再発転移がん治療情報
- 放射線治療
- 【最新医療 】切らずに治すがん治療「サイバーナイフ」の可能性と安全性
【最新医療 】切らずに治すがん治療「サイバーナイフ」の可能性と安全性
目次
優位性の高い高精度放射線治療
現在行われている主ながん治療法には、手術による外科療法、エックス線、ガンマ線などを照射する放射線療法、抗がん剤などを用いる化学療法があり、これらががんの三大治療法とされています。
今回紹介する「サイバーナイフ」は、放射線治療の1つで、正常な細胞を避け、腫瘍などの病変部にピンポイントに低線量の放射線を複数の方向から照射して集中させる、いわゆる定位放射線治療と呼ばれるタイプです。現在、同治療で保険適用となっているのは光子線のエックス線、ガンマ線を用いたもので、エックス線を使うサイバーナイフのほか、ガンマナイフなどがあり、いずれも照射範囲の誤差精度が2mm以内という、高精度放射線治療となります。
サイバーナイフは、6つの関節を持ったロボットアームの動きにより1200方向からの照射が可能で、治療中逐次撮影されるエックス線画像によって照射すべき病変部の位置が確認され、ズレが生じた場合、自動的に修正・停止が行われる病変追尾機能を有している。こうしたことから、例えば頭蓋内の治療なら、メッシュ状のプラスチックマスクによる固定だけで済み、ガンマナイフのように金属製のフレームを頭蓋骨にピンで固定する必要はありません。また、複雑な形状の病変部への対応や、病変部の周囲に存在する重要な器官への損傷も比較的少ないというメリットがあります。
さらに、体幹部のがんに使用できるのも、その形状から頭蓋内と一部周辺にしか用いられないガンマナイフとの大きな違いです。2008年6月、厚生労働省がサイバーナイフによる体幹部の病変に対する治療適用の拡大を承認したことにより、現在では保険適用となっている肺がんや肝臓がんなどの症例数が増えています。
では実際の臨床現場でのサイバーナイフの効果や治療の流れはどのようになっているのでしょう。今回は、全国で5番目、関東では初めてサイバーナイフを導入したという、新緑脳神経外科の太田誠志院長にお話をうかがいました。同院でのサイバーナイフによる治療は、世界第3位、日本では第1位となる5000症例で、その半数近くを転移性脳腫瘍が占めています。
治療所要時間は最短20~30分 体幹部の症例も順調に増加
「当院で一番多いのが転移性の脳腫瘍、さらにいえば肺から転移したものが多いですね。次いで多いのが頭頸部領域、いわゆる耳鼻咽喉系統のがんです。また、厚生労働省の治療承認が下りてからは体幹部のがんに対する症例も増えています」(太田院長)
同院のホームページによれば、体幹部は「2014年3月1日現在で84症例」と、全体から見ればまだ2%程度ながら、「いずれも無事終了し、重篤な有害事象は認められず、局所の制御は良好であると考えている」とのコメントが掲載されています。
また現在、同院で治療実績のある体幹部のがん種は、保険適応の肺がん、肝臓がんのみとのことですが、太田院長は「腎臓、副腎、すい臓、前立腺などについては、今後、保険適応になることで治療の可能性が出てくる」との考えを示しています。
また、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸などの管空臓器については、放射線をかけることで穴が開いてしまう恐れなどがあることから、サイバーナイフ治療には適さない部位となるそうです。
治療に関する所要時間は、腫瘍の大きさなどにもよりますが、1ヵ所であればおよそ20~30分、複数個所でも1時間は越えないとのことで、「基本的に麻酔は使わず、治療が済めば、その足でご帰宅いただけます」(太田院長)。また、代表的な副作用は、一時的な脱毛、てんかん、浮腫、組織の壊死など、いずれも放射線治療全般で起きやすいものであり、高精度放射線治療の点から重度なものは比較的起こりづらいものの、治療後は定期的な経過観察が重要といえます。
サイバーナイフの安全性は医学物理士が担保する
このほか太田院長からは、装置の技術的進歩による治療時間の短縮や、5000例のデータベースを活かした治療の優位性などについてもお話をうかがいましたが、中でも特に強調されていた点が同院における「医学物理士の存在」でした。
「非常に精度の高いサイバーナイフが有効であるには、常にその精度を維持している必要があります。例えばわずか1~2mm程度の誤差であっても、期待した効果が得られなかったり、重篤な副作用が生じる危険性があるからです。当院では品質管理室を設け、医学物理士による徹底した装置の精度管理を行ってもらっています。サイバーナイフ治療においては絶対に必要な部署だと考えます。医学物理士がいなければ僕らは仕事ができない。そう言っても過言ではないほど重要な存在です」(太田院長)
日本ではあまり馴染みのない医療職、医学物理士ですが、欧米では医師よりも権限を持った医学物理士も珍しくないくらいに、そのポジションは確立されているといいます。そこで日本における医学物理士の現状について、同院の放射線治療品質管理室室長を務める、医学物理士の井上光弘室長にうかがいました。
「医学物理士は日本が遅れている職域だと思います。現状日本での主な仕事としては、今の自分が担当しているような、放射線量の測定における安全性確保のための検証プランの作成と遂行です。例えば、放射線量の測定や照射位置精度の確認など20ほどの品質管理項目に対するデイリーからマンスリーまで必要な頻度でのチェックや、放射線の線量や照射位置などについて、治療計画で立てた数値が正しいかどうか、実際患者さんに治療を行う前の確認、装置のバージョンアップなどで新たな技術が導入された際、それを用いた的確な治療を行うための装置の操作・管理方法の発案などがあります。」
こうした井上室長とともに、装置のメンテナンスや治療に際しての操作ほか、品質管理室を支えるメンバーとして活躍する診療放射線技師の稲田氏も含め、同院のサイバーナイフ治療は、まさにチーム医療として多職種の連携が取れた好事例といえるでしょう。
「現在ではスタッフの揃った施設が増えてきましたが、当院のような小さな施設においてこれだけのスタッフを揃えているのは珍しいケースでしょうね。安全に放射線治療を実施するために品質管理がいかに重要であるか理解してもらえる職場に、自分としても大いにやりがいを感じると同時に感謝しています。」(井上室長)
技術革新による装置の急速な進化などから、将来的な可能性を秘めているとする医療関係者も多い放射線治療におけるサイバーナイフという選択肢。すでに転移性脳腫瘍や頭頸部のがんに対して実績のある同治療ですが、今後、厚生労働省による保険適用の範囲拡大とともに、体幹部の治療領域も広がっていくことが予測されています。
医療法人財団 東京石心会 新緑脳神経外科
〒241-0014 神奈川県横浜市旭区市沢町574-1
TEL : 045-355-3600(代表)
FAX : 045-355-3601
TEL : 045-555-7333(サイバーナイフセンター直通)
http://www.syck.jp/
関連記事
※掲載している情報は、記事公開時点のものです。