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【最新医療】再発・転移と闘う「放射線治療」の最新情報
柏原 賢一(かしはら けんいち)先生
前回(www.akiramenai-gan.com/medical_contents/da_treatment/treatment01/26248/)は、近年目覚ましい進歩を遂げた放射線治療の基礎知識について紹介しました。IMRT(強度変調放射線治療)やSBRT(体幹部定位放射線治療)を行う高精度放射線治療では、正常な細胞を傷つけずにして腫瘍にアプローチできます。今回は、そうした新しい放射線治療が、実際の臨床現場でどのように活用されているか、「東京放射線クリニック院長の柏原賢一先生」にお話を伺いました。
目次
あらゆる固形がんが対象になる
前回(akiramenai-gan.com/medical_contents/da_treatment/treatment01/26248/)まず、病状にもよりますが放射線治療はあらゆる固形がんが対象になります。治療内容はがんの進行度に応じたものを選ぶことになりますが、それぞれの段階に適した方法があるそうです。 「早期がんの根治的治療はもちろん、進行がんや再発・転移の患者さんでも腫瘍を小さくできる可能性があります。また、根治が難しい患者さんに対して、症状を和らげ、QOLを大きく改善する『緩和照射』もできます」(柏原先生)
「増感剤」の併用でさらに効果的な治療
根治的治療を目指す場合、がんの種類によっては外科手術よりも効果的な場合もあるとのことでした。特に前立腺がんは高い効果が期待できるがんの1つです。
「IMRTを用いれば、直腸や膀胱など大事な臓器を守りながら前立腺に集中した放射線治療が可能です。その効果は手術と同等と考えられており、なおかつ副作用は軽く済みます。治療中に膀胱や大腸などが炎症を起こすことはありますが、治療が終われば回復します。公的保険が適用される治療ということもあり、大病院から紹介で来られる患者さんが多いですね」
肺がんと肝臓がんに関しては、腫瘍の状態によってSBRT(ピンポイント照射)が保険適用になります。
「直径が5センチ以下で転移のない原発性肺がん・原発性肝がん。または、3個以内で他病巣のない転移性肺がん・転移性肝がんはSBRTが保険適応されます」
現在の医療制度上、大きな病院では、これらの範囲に属さないがんは抗がん剤を勧められたり、痛みを取るだけの緩和治療にシフトしたりするケースが少なくありません。しかし、抗がん剤は副作用が強く、緩和ケアを選ぶことに躊躇を覚える患者さんもいます。東京放射線クリニックでは、自由診療によって、そうした患者さんの「諦めない」希望を叶えることができます。柏原先生は、これまで接してきた患者さんのエピソードを振り返りました。
「中咽頭がんの患者さんで、首の部分に5センチ以上の大きな腫瘍がある方を治療したことがあります。がんによって口が開かなくなり、食事もとれない状態でした。ご本人の希望で来院され、10回ほど『増感剤』を併用した放射線照射を行ったところ、3ヵ月後には腫瘍が見えないほどに回復し、食事もできるようになりました。こうして、腫瘍を小さくすることは、痛みや息苦しさを軽減できますし、将来の転移のスピードを抑えることにもつながります」
増感剤とは、放射線の働きを強くする薬剤です。放射線治療期間中に増感剤を局所注入することで、放射線治療の効果を最大限に引き出すことができます。「乳がんや頭頸部がんの患者さんでも、放射線治療と増感剤を併用したことで著しく回復した方がいます」と柏原先生は言います。
緩和照射は約8割の患者に効果あり
緩和照射に関しても、従来の放射線治療とは大きく異なる点があります。
「放射線治療は、同じカ所に2度照射することはできないというのが基本でした。そのため、一度は放射線で痛みが緩和されても、しばらくするとまた痛くなるケースが多々見られました。しかしIMRTは脊髄を避けて照射できるため、2度目の照射をすることが可能になりました。今までは放射線治療を受けられなかった方に、新たな選択肢が生まれたと言えるでしょう。緩和照射をすることで、多くの患者さんが悩む骨転移の痛みは8割以上ほど改善が見られます」
東京以外の地方から来院する患者さんも
なお、東京放射線クリニックの場合、こうした一連の治療をごく短期間で受けることができます。初診から検査、治療計画、治療実施と至るまでが、わずか1週程度です。1回あたりの治療は30分~1時間で、仕事をしながらがんと闘っている患者さんにとって強い味方です。中には、東京以外の地方から来院する患者さんもいるとのことでした。
「遠くは九州、北海道から患者がいらっしゃることがあります。病院の少ない地域では、高度放射線治療装置がなかったり、放射線技師などの人材が十分でないところがあります。あるいは、高度放射線治療が受けられる限られた病院に患者さんが殺到するため、長い順番待ちを余儀なくされるケースは珍しくありません。そのため、飛行機や新幹線に乗って当院に来院されるのです」
柏原先生によると、治療中も特別、生活上で注意すべきことはなく、食事も入浴も通常通りで構わないそうです。治療のために数日間、東京に滞在して回復を目指すことも、今のがん治療の選択肢の1つとなっていることが窺えます。
ポイントまとめ
- 放射線治療は早期がんの根治的治療や、進行がんや再発・転移がんの腫瘍を小さくできる可能性、根治が難しい場合は、症状を和らげ、QOLを大きく改善する『緩和照射』も可能がある。
- 放射線治療で根治的治療を目指す場合、がんの種類によっては外科手術よりも効果的な場合があり、また放射線治療期間中に放射線の働きを強くする増感剤を局所注入することで、放射線治療の効果を最大限に引き出すことが可能である。
- 放射線治療は、同じカ所に2度照射することはできないが、IMRT(強度変調放射線治療)は脊髄を避けて照射できるため2度目の照射をすることが可能。緩和照射をすることで、骨転移の痛みは8割以上ほど改善が見られる。
- 高度放射線治療は治療期間が短い特徴がある。そのため高度放射線治療機自体がなかったり、技師が不足している地方から東京に数日間滞在して治療を受けることも可能である。
取材にご協力いただいたドクター

柏原 賢一 (かしはら けんいち) 先生
一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク 理事
- 医学博士
日本医学放射線学会 放射線治療専門医
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