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がん治療に新たな可能性をもたらす重粒子線治療
目次
重粒子線とは
重粒子線とは、陽子線や炭素イオン線などの電子より重い粒子を加速した放射線の総称です。炭素イオンなどのヘリウムイオンより重いイオンを加速させたものを重イオン線と呼んでいます。
従来の放射線治療で用いられていたX線や電子線などは、表面付近の線量が最も大きく、深さとともに減衰していきますが、重粒子線は、表面付近の線量が小さく、粒子が停止する付近(深いところ)で最も線量が大きくなるという特徴があります。
また、従来の放射線と比較すると、照射された組織中に生じる電離密度が高いために、照射で細胞死に至らなかったがん細胞の回復を遅らせることができます。その間に分割照射による治療も可能です。また、進行の遅いがんや、酸素濃度が低いがんに対しても効果があると言われています。
重粒子線がん治療の手順
まず、かんの進行状況や性質を診断します。その患者さんに有効な他の治療法がないか、また重粒子線治療に適しているかなど、プロトコールに合っているかを判断します。放射線医学総合研究所などでは、今後の治療法をさらに良くするための研究の一環として、患者さんについての倫理審査を行い、審査で承認された患者さんが対象となるようです。
正確に腫瘍に照射するために、体の動きを少なくして、毎回同じ姿勢を取ります。身体を固定する器具を使用します。実際の治療と同じ状態で治療計画用のX線CTを撮影し、X線CT画像に照射する部位や周辺の重要臓器の輪郭を入力し、どういった方針で治療を進めるか、コンピュータを用いながら決定します。治療方針は多くのスタッフが集まり、患者さんごとに個別に作り上げていきます。
これらの準備がされてから照射開始になります。通常は方針の決定に1週間~2週間程度かかります。
照射は何回かに分けて、1日~数週間をかけて行われます。(放射線医学総合研究所では、原則として入院が必要です。)部位ごとの定められたプロトコールによってスケジュールが進行していきます。実際の治療前には照射と同じ形でリハーサルが行われます。毎回の治療では姿勢を定め、X線透視で照射する位置の確認を行います。呼吸で動いてします臓器(肺や肝など)は呼吸に合わせて同期する照射方法がとられています。
そういった部位への照射では、治療計画用のX線CTも同様の方法で撮影されます。重粒子線の照射による痛みや苦痛などの不快感はありません。治療日程が終了したら、主治医や治療機関の双方にて定期的に診断が行われます。(引用 重粒子線がん治療について知りたい人のために 放射線医学総合研究所)
再発がんに対する重粒子線治療
重粒子線治療は、従来の放射線治療では治療が難しかった頭頸部や骨軟部組織の腫瘍に対するものへの可能性が期待されています。頭頸部におけるがんは遠隔転移が多く生存率の向上が不十分である場合がありましたが、抗がん剤と重粒子線療法を併用することにより、生存率の改善傾向がみられるようになりました。これらは先進医療の適用となっております。また切除非適応となった骨軟部腫瘍への治療が高度先進医療として認可されてからの、患者数の伸びは著しいです。骨軟部腫瘍への重粒子線治療は、切除や化学療法などでコントロールされている遠隔転移がんの場合や、生命予後に影響を与えるような転移巣ではない場合に、QOLの改善や予後への貢献を目的に治療可能となっています。また切除非適応となった骨軟部腫瘍への治療が高度先進医療として認可されてからの、患者数の伸びは著しいです。
直腸がん術後再発に対する治療に関しても、再手術と同等か、それ以上の生存率が高まるデータが得られています。直腸がんは再手術が困難な場合の有効な治療方法が待たれていた領域であり、今後は重粒子線治療がその分野を担う可能性は高いと言えます。従来は、切除不可能だった場合には化学療法以外に選択肢がなったのですが、重粒子線治療によって大きく選択肢が増えることになります。(引用 がん放射線療法2010 -重粒子線治療- 篠原出版新社)
治療適応条件
放射線医学総合研究所が運営する重粒子医科学センター病院では重粒子線の適応については、下記のようにまとめています。
すべての炭素イオン線治療に共通の適応条件 |
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対象部位に対する放射線治療の既往がない |
病理診断がついている |
評価可能な病変を有する |
原則として腫瘍の最大径が15cmをこえない |
広範な転移がない |
Performance Statusが0-2 (カルノフスキー指数 60以上) |
※ Performance Statusが0-2とは下記の患者さんの全身状態を数値で表したもの。
Performance Statusの凡例
grade | performance status |
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0 | 無症状で社会活動ができ、制限をうけることなく、発病前と同等にふるまえる。 |
1 | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできる。例えば軽い家事、事務など。 |
2 | 歩行や身の回りのことはできるが、時に少し介助がいることもある。軽労働はできないが、日中の50%以上は起居している。 |
3 | 身の回りにある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している。 |
4 | 身の回りのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている。 |
「固形癌化学療法直接効果判定基準」より
適応可能ながん種一覧
重粒子線治療の対象 |
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1. 頭頸部腫瘍 |
2. 中枢神経腫瘍 |
3. 頭蓋底・傍頸髄腫瘍 |
4. 非小細胞肺癌 |
5. 肝細胞癌 |
6. 前立腺癌 |
7. 子宮癌 |
8. 膵癌 |
9. 骨・軟部腫瘍 |
10. 直腸癌術後再発 |
11. 脈絡膜悪性黒色腫 |
12. 食道癌 |
13. 涙腺癌 |
14. 大腸癌肝転移 |
15. その他 |
(引用 放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター病院)
施設条件
厚生労働省が施策内容としてまとめている重粒子線治療における
技術提供を可能とする医療機関の要件一覧は下記の通りです。
厚生労働省が施策内容としてまとめている 重粒子線治療の技術提供を可能とする医療機関の要件一覧 |
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イ 対象となる負傷、疾病又はそれらの症状 |
限局性固形がん |
ロ 施設基準 |
(1) 主として実施する医師に係る基準 |
〔1〕 専ら放射線科に従事し、当該診療科について十年以上の経験を有すること。 |
〔2〕 放射線科専門医であること。 |
〔3〕 当該療養について二年以上の経験を有すること。 |
〔4〕 当該療養について、当該療養を主として実施する医師又は補助を行う医師として十例以上の症例を実施しており、そのうち当該療養を主として実施する医師として五例以上の症例を実施していること。 |
(2) 保険医療機関に係る基準 |
〔1〕 放射線科を標榜していること。 |
〔2〕 実施診療科において、常勤の医師が二名以上配置されていること。 |
〔3〕 診療放射線技師が配置されていること。 |
〔4〕 医療機器保守管理体制が整備されていること。 |
〔5〕 倫理委員会が設置されており、必要な場合に事前に開催すること。 |
〔6〕 医療安全管理委員会が設置されていること。 |
〔7〕 当該療養について十例以上の症例を実施していること。 |
重粒子線治療を行える医療機関一覧(厚生労働省発表より)
千葉県 | 独立行政法人放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター病院 |
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兵庫県 | 兵庫県立粒子線医療センター |
群馬県 | 国立大学法人群馬大学医学部附属病院 |
※厚生労働省HPより 平成23年2月1日現在
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