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放射線治療でできること知っていますか?
目次
日本の放射線治療
日本においてがん患者さんの中で放射線治療を受けている割合を知っていますか?厚生労働省の「がん対策基本法」の資料によると、アメリカで66%、ドイツで60%、英国で56%にも及びますが、日本では25%程度と言われています。日本では、放射線治療における対応がまだ行き届いていないのが現状と言えるでしょう。 日本では「がんは切るもの」との意識が強く、放射線治療で痛みを緩和する用途で用いられていることを知らない方も多いのではないでしょうか。医療者においても、放射線治療の専門家が不足しています。放射線治療は、外科手術・化学療法と並び、がん治療の3本柱です。がんの種類によっては、外科手術よりも効果的な場合もありますし、緩和照射で痛みを軽減することにより、モルヒネ(痛み止めの薬)などを減らすこともできることが多いです。また、体の機能を保ちながら治療ができるため、身体的、精神的な負担を軽減できます。特に体力的に手術の難しい高齢の患者さんにとって有効な選択肢の一つです。
患者さんが情報を取りに行くことも必要
「放射線療法及び化学療法は、専門的に行う医師の不足や実施件数の少なさ、国民における情報量の不足等の問題が指摘されている。」とがん対策推進基本計画の中で語られています。 私が治療をしている現場でも、国家事業である重粒子線による前立腺がんのマスコミの報道などにより、放射線に関してがん患者さんみずからが情報収集をおこなって来院されるようになりました。しかし、まだまだ放射線によるがんの根治照射~再発後の照射や痛み緩和のための緩和照射までいろいろと放射線を利用してがんの治療を行えることを知らない患者さんがまだまだおられると思っています。 厚労省の方針では、がん診療を行っている医療機関が放射線療法及び化学療法を実施できるようにするため、まずはその先導役として、すべての拠点病院において、5年以内に、放射線療法及び外来化学療法を実施できる体制を整備するとともに、拠点病院のうち、少なくとも都道府県がん診療連携拠点病院及び特定機能病院において、5年以内に、放射線療法部門及び化学療法部門を設置することを目標とする、とあります。放射線治療のインフラを整えて、患者さんにとっての選択肢を増やしていく、そして情報も一緒に広めていくことはとても重要ですね。
放射線治療装置の進歩
放射線治療の照射方法は、大きく「外部照射」と「内部照射」に分けられます。 体の外から放射線をあてる「外部照射」と放射線を発する物質を体内に挿入、刺入する「内部照射」と呼ばれるものとにわけられます。 現在、広く行われているのは「体外照射」です。 定位放射線治療と呼ばれる方法では、がん細胞に対して、様々な方向から放射線を照射することで、正常な組織への照射を最小限にしながら、がん細胞には十分な量の放射線を照射することができるようになっています。 定位放射線療法は、ガンマナイフから始まっています。ガンマナイフとは、ガンマ線を使ってナイフのように患部を切り取るように治療するためにそのような名前がついています。ガンマナイフは治療に適しているのは3センチ以下のがんと言われていいます。転移性の脳腫瘍などからくる頭痛や吐き気などの症状を取り除くためにも使用することがあり、入院期間も短いため非常に負担が少なくてすみます。ガンマナイフでの治療が始められるようになり、機器の進歩も格段に進みました。その後、リニアックによる定位照射線治療が行われるようになりました。リニアックは少量の放射線を分割して照射することが可能になりました。分割照射の特徴は、がん細胞が正常細胞と比べると放射線におけるダメージから立ち直りが遅いという差異を利用して行われます。また、CTやMRIなどの画像技術や、放射線の線量などを計算するコンピュータ技術の進歩により、ターゲットであるがんをより正確に把握し、線量を計算することが可能になりました。 患部を非常に詳細に撮影した画像などに基づいて、正確ながんの位置を特定し、適切な診断のもとにコンピュータを使って線量を計算します。この計算方法に基づいて、3次元方向からがんへの形状に合わせた照射を行う方法をピンポイント照射と言い、治療が行われるようになりました。最近では、強度変調放射線治療(IMRT)という技術も開発されてきました。これにより細かく放射線の強度を変化させることが可能になりました。この技術では、より周囲の正常組織に影響を少なくして、がん組織に集中して放射線をあてることができます。合併症が軽減されます。頭頚部がんや前立腺がんなどに対して有効なデータがでています。また、BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)と言われる治療もあります。これはがん細胞がホウ素化合物を取り込む性質を利用する方法でまだ開発の段階にあります。
開発が進む放射線の線種 光子線と粒子線
放射線治療とはどのようなしくみでがん細胞に効いているかお話をしたいと思います。放射線と聞くとX線検査を思い浮かべる方も多いと思いますが、放射線は大きく2つに分けることができます。ひとつは、光子線と呼ばれる電磁波です。電磁波は波長の長い方から、電波・赤外線・可視光線・紫外線・X線・ガンマ線などがあります。我々の目で見えるのは可視光線のみです。電磁波は波長が短いほどエネルギーが大きく、物質の中を透り抜ける力が大きくなる特徴を持っています。紫外線などは日焼け防止などでよく聞きますが、これは可視光線などより波長が短いために物質の中を透りぬける作用が大きいためです。X線やガンマ線はこれよりももっと短い波長をもっているために、放射線治療に使われています。電磁波ともうひとつあるのが、粒子線です。粒子線には電子線、陽子線、中性子線、アルファ線、ベータ線、重粒子線などがあります。粒子線は、質量が大きく一定の深さ以上は進まず、ある深さにおいて最も強く作用させることができる特徴があります。これらの特徴から、治療で使われる陽子線や重粒子(重イオン)線では、光子線に比べてがん病巣にその効果を集中させることができるようになります。 放射線には、物質を透過する性質(透過作用)や、物質を透過するさい、その物質を作っている原子や分子にエネルギーを与えて、原子や分子から電子を分離させる性質(電離作用)などがあります。放射線治療では、放射線の特徴である電離作用を利用して、がん細胞の成長と分裂を阻止し、その遺伝子にダメージを与えて死滅させることを目的としています。
放射線治療は日々進歩している。
放射線治療は日々進歩しています。治療に使える放射線の種類も増えています。以前では治療が難しかったものや、外科手術が必要だったものも、治療ができるようになりました。今後は日本でも放射線治療における様々な情報提供がなされ、実際の臨床の現場で実践されていくと思います。正しい情報が早く伝わり、治療における選択肢や可能性が広がることを望んでいます。 第2部では、放射線療法の中でも緩和照射により、QOL(生活の質)をあげるお話をしたいとおもいます。
取材にご協力いただいたドクター

医療法人社団 勁草会 東京放射線クリニック 院長 柏原 賢一先生
京都府立医科大学卒業 医学博士
徳島大学医学部放射線医学教室講師 Hahnemann大学(Visiting rofessor)、MGH/Washington大学にて研修 愛媛県立中央病院放射線科部長
日本医学放射線学会放射線科専門医 日本放射線腫瘍学会認定医
日本核医学会認定医、PET認定医 日本がん治療認定医機構暫定教育医・認定医
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