【QOL(生活の質)】家族は第2の患者 がん患者家族に向けた心のケア

公開日:2014年12月29日

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がん患者さんの家族は、闘病のパートナーあるいはサポーターとして頼もしい存在です。しかし、「第2の患者」として精神的ケアを必要とする場合があることも忘れないでください。

がん患者さんの家族

 がん患者さんの家族には、2つの側面があるといわれています。1つはがん患者さんをサポートする頼もしい存在である側面で、これはよく知られていることです。これに対して見落とされがちなのが、もう1つの「第2の患者」という側面です。

がんと宣告された瞬間から患者さん本人はもとより、寄り添う家族にもさまざまな心の負担が生じてきます。実際、がん患者さんの家族の2〜3割に、強い不安や憂鬱などが認められることが、多くの調査でも明らかになっています。こうしたことから、がん患者さんの家族は、精神的ケアを必要とする「第2の患者」といわれるようになりました。

ところが、家族は患者さんを支えることに懸命なあまり、自分自身の心のケアについては考える余裕がありません。家族自身でも気がつかないうちに、心身の変調をきたす事例が少なくないのです。がんとつきあうためには、患者さんに寄り添う家族自身にも心身のケアが必要です。

 

こんな症状が出ていたら要注意

次のような症状のうち2週間以上ずっと続いているものに印をつけてください。

□毎日の生活に充実感がない
□これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった
□以前は楽にできていたことが今ではおっくうに感じられる
□自分が役に立つ人間だと思えない
□わけもなく疲れたような感じがする
(厚生労働省「うつ対策推進方策マニュアル」p55から引用)

2つ以上該当する場合は、要注意。1つひとつは普段ちょっとしたことで誰もが感じるような気分です。しかし、その気分が一過性で終わらずに、一日中ほぼ絶え間なく感じられ、そのためにつらい気持ちになったり、毎日の生活に支障が出たりしているようであれば、それは心のケアを求めるサインと考えたほうがいいからです。これらのほかに、眠れなくなったり食欲がなくなったりする状態が続く場合には、身近な人に相談したり、医療機関で受診することも考えてみてください。

 

家族に必要な心身のセルフ・ケア

 がん患者さんに寄り添う家族は、患者さんと同様に気持ちが落ち込んだり不安になったりします。それは自然な心の動きです。ところが、患者さんを支えるためには「自分がしっかりしなければ」と思うあまり、家族は不安やつらさなどの感情を抑え込んだり、何ごとにつけ自分のことを後回しにしたりしがちです。

また、自分だけ休んだり、楽しんだりするのはいけないと思い込みがちでもあります。しかし、一人ですべてを抱え込んだり、感情に蓋をしたりしていると、心身のエネルギーが枯渇してしまいます。

まず、心の蓋を外しましょう。心の中にはさまざまな感情があって当然なのです。自然に湧き上がる自分自身の感情を受け止め、整理する時間をつくりましょう。そして、ほんのわずかでも自分自身のために費やす時間を持ちましょう。趣味を楽しんだり、運動で心身をほぐしたり、友だちと話したり。ささやかでも心身のエネルギーを回復させる時間を持つことで、看病やサポートに向き合う力が湧いてきます。

 

専門機関で心のケアを受ける

 セルフ・ケアがうまくできない、自分で心身をコントロールするのが難しいと感じた時には、専門機関でケアを受けましょう。特に眠れない、食欲がないなどの身体症状がある場合には、心のケアを行う専門診療科で早急に受診することをお勧めします。

「精神科」「心療内科」「ストレス外来」など、病院によって診療科の名称が異なります。また、最近では「精神腫瘍科」というがんに関係したメンタルケア専門の診療科があります。がん患者さんや家族に最心のケアを提供することを目的としている診療科なので、がん診療連携拠点病院などに設置されているケースが多いようです。

いずれも一般の保険診療として行っています。治療の基本はカウンセリングで、心身の状態に応じて薬による治療も行うことがあります。また、国立がん研究センター中央病院では2012年に「家族ケア外来」を開設し、1回当たり40分でカウンセリングを行っています。このカウンセリングは1回1万800円の自由診療です。薬による治療など継続的治療が必要なときは保険診療に切り替えるケースもありますが、約半数は1回の受診で気持ちの整理がつくといいます。

 

患者さんを支える良き支援者でいるために

 がん患者さんを支えるために一人で問題を抱え込まないようにするには、家族一人ひとりが「自分にどういう援助ができるか」を考えることも大切です。役割分担で家族それぞれの負担を少なくし、総合力で患者さんを支えていきましょう。

また、患者さんとの摩擦や衝突によって生じるストレスを軽減するには、思い込みや憶測を避けることが基本です。患者さんが「どんな気持ち」なのか,「何を」「どうしたい」のか、あるいは「どうなったらいいと思っている」のか、いろいろと尋ねてみましょう。患者さんのニーズを知ってこそ、より良い支援ができます。そしてより良い支援ができたという充実感が、家族の心のエネルギーにもなるからです。

そして最も大事なことは、家族も自分の生活を大切にするということです。自分のすべてを投げ打って患者さんを支援する生活は長続きしません。自分自身を大切にして、心身のエネルギー充電しながら、患者さんに寄り添う良き支援者でいましょう。

患者さんに寄り添う良き支援者

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