【特集記事】子どもが小児がんと診断されてもあせらないで

公開日:2013年05月01日

目次

小児がんにおける病院の治療体制

小児がんは、一般的に15歳未満の子どもに発生するがん(悪性腫瘍)のことをいいます。厚生労働省の国内調査によると、がんは事故と並んで子どもの死因の上位に位置しています。小児がんのうち約3分の1が血液に関するもので白血病や悪性リンパ腫などが占めています。

血液に関する腫瘍は主に小児科が担当し、化学療法が治療の中心となります。固形がんでは、身体の深部から発生する横紋筋肉腫や骨肉腫などの「肉腫(にくしゅ)」や、胎児性組織などが悪性化した神経芽腫、腎芽腫、肝芽腫、膵芽腫、髄芽腫(脳腫瘍のひとつ)、網膜芽腫などの「芽腫(がしゅ)」と呼ばれるもの、そして卵黄嚢がんなどの胚細胞腫瘍が多くを占めます。

なかでも脳腫瘍が一番多くなっています。また、非常に稀ですが大人と同じタイプのがんを発症する場合もあり、大腸がん、肝臓がんなどが小学生にも発生する場合があります。固形腫瘍は、基本的に小児外科が担当することが多いのですが、部位によって整形外科、耳鼻科、脳神経外科、形成外科などの診療科が連携して治療を行っていきます。

大人とは違う小児がんの原因

成人のがんは老化現象のひとつと捉えることもでき40代くらいから増加してきますが、子どものがんは成人とは性質がかなり異なります。ひとつに細胞の分化度の問題があります。分化とは細胞が分裂して成熟していく過程のことを言います。体内で機能的な違いのなかった細胞が固有の機能をもった細胞へと徐々に変化してゆくのです。

分化の度合いは未分化、低分化、中分化、高分化と表現されます。がん細胞では未分化なものほど悪性度が高いとされ、高分化になるほど悪性度は低いとされています。しかし化学療法の効き目は逆で、未分化なものほど薬への感受性が高く、高分化になるほど感受性が低いとされています。

小児のがんは、増殖能力の高い低い分化レベルの細胞から発生する腫瘍が多いのが特徴です。そのため成長のスピードがものすごく速いのです。発見時にすでに10cmを越える大きさの腹部腫瘤で見つかる場合も稀ではありません。そういったケースは特に腹部で多くみられます。

小児の細胞の特性を利用した化学療法、
これからの長い人生を考慮した手術・放射線療法の選択

小児がんの治療法は、3つの大きな柱(外科的切除、化学療法、放射線治療法)からなっています。これらの3つの柱は成人の悪性腫瘍の治療法と同様ですが、各々の治療法ごとに成人とは異なる特徴を持っています。

主な小児がんでは化学療法が非常に良く効きます。化学療法は血球減少や感染しやすくなるなど大きな副作用を伴うものですが、同じ抗がん剤でも成人の体重あたりに使う量と比較すると多くの量を使うことができます。子供は成人と比較するとダメージから立ち直る再生能力が高いため、強い薬にも耐えることができるのです。

現在では経験の積み重ねがあって、放射線療法については腫瘍ごとに感受性の強さが予測されており、非常に強い効果を発揮するものもあり治療の大きな柱となります。しかし放射線も多くの線量を当てすぎると成長を障害しその後の長い人生への影響を与えるような副作用がでる場合があります。ですから放射線を当てる範囲や強さは非常に慎重に決定します。

外科的切除も成人と違うところは子供の長い将来を考えての術式選択が必要になります。腫瘍をただ切除するという目的だけでなく、成長していくために必要な機能を維持することも考慮して、バランス良く切除範囲や再建を考えなければなりません。しかし、郭清(かくせい)と呼ばれるがん細胞が存在していた周辺のリンパ節はすべて削除することや、切除した断端(端っこ)にがん細胞が残らないようにすることなどの基本は成人のがんの手術と変わりません。これらはがん細胞がリンパ節に転移しやすいことから、がん細胞を全て取り除くためには必要なことです。

肝芽腫の肺転移では6回手術を行いました

小児がんの転移経路は成人のがんと同じように、血行性転移といわれる血流に沿って転移するものと、リンパ行生転移といわれるリンパ流に沿って求心性に転移するもの、どちらの場合もあります。がんの種類によってどこに転移しやすいということもわかっています。

小児がんの特徴としてがん細胞の増殖スピードが速いために、発見されたときにはすでにかなりの転移をしている症例もあります。また、切除後に時間をおいてから転移が発見されるケースも存在しています。たとえば肝臓の肝芽腫は肺転移をしやすく、原発の肝臓がんが切除できても肺転移に対して病変を含んだ肺の部分切除術を繰り返す場合が比較的良くあります。私たちの病院では肺転移に対して、6回開胸手術を繰り返しおこなって最終的にはすべて取りきったという経験があります。

各手術では目的の病変を切除できていたのですが、腫瘍マーカーは正常化せず数ヶ月のうちに画像検査で見える大きさに大きくなってくることを繰り返していました。しかし化学療法をおこないながら、徐々に抑え込み、最後の手術の後には腫瘍マーカーも正常範囲に下がり、確かに切除しきったことを感じることができました。このようなケースは成人ではあまりないと思います。子どもだから耐えられる強さですね。化学療法をしながら、新たな発生を抑えつつ、検査を繰り返して見える大きさになってきたものを切除して、非常に執念をもってやると最終的にやっつけてしまえる可能性を感じた症例でした。

小児がんのおける最新の治療法

成人と子どもでは患者さんの数が圧倒的に違うので、多くの新たな治療薬も成人での使用法が研究・確立されてから、小児医療の世界に導入されます。ここ数年の間に成人で進んでいる様々な治療法や抗がん剤が小児にも応用されています。

手術に関しては腹腔鏡手術も行います。身体が小さいので難しいところもあって、すべて成人と同じようにはできませんが、身体への負担を小さくするという意味で意味があります。しかし、あくまで腫瘍を取りきることが最大の目的なので、安全にしかも十分な切除が出来ると確信出来る場合のみ腹腔鏡手術が行われます。

肝芽腫では、化学療法によって病変が小さくなっても切除不能の場合には肝移植を行うことで腫瘍を取り去ることができるようになりました。小児では必要な肝臓が小さいので親の肝臓の一部分を切除して移植するという生体部分肝移植が日本では選択されます。

重粒子線治療は依然として症例数は少ないのですが、病変部のみに強い効果を与え、周囲の正常な組織に負担が少ないという意味で小児への適応は色々と考慮されているようです。

また、最近話題になっているものに免疫療法があります。小児がんの学会や研究会などでも発表が増えている印象があります。西日本では大阪大学が中心となってWT1ペプチド療法の研究を進めているようです。現状では3本の柱である治療を終えた時に腫瘍が残存している場合に、免疫療法を行っているようですが、今後は化学療法との併用ももっと増えていくかもしれません。治療を受けた方達の結果から効果の証明が進むことを期待しています。

子供への心のケアも大切ですが、
ご両親の心のケアにも気をつけています。

子どもががんになるということは、そのご家族を根元から大きく揺さぶる出来事です。最初に病気のことをお話するのはご両親(なるべくおふたりで聞かれることが望ましい)なのですが、とても驚きショックを受けられます。「これからの未来あるはずの自分の子どもが、がんにより命を落とす可能性がある」ということを受け止めなければいけないのですから当然だと思います。お子さんは小さいですからご両親は若い方が多いです。そういった方たちへのケア・サポート実は非常に大切なことです。

ご両親も治療については担当の先生としっかりお話をして理解し、積極的に子どもの治療をサポートしていく必要があります。手術にしても化学療法や放射線療法にしても自分のお子さんのつらそうにする姿は見るに堪えないはずなのに、なだめたり励ましたりして治療を進めてあげないといけません。これは本当に大変なことなのです。

しかしながら、多くのご家族は、様々な精神的つらさや、子どもに寄り添うことで自らも疲れ切ってしまうといった体力的な負担を、なんとしても治したいという強い意志で乗り越えています。専門のスタッフは治療を受ける子どもをサポートするだけでなく、そういった親の姿にも気を配り、悩みをじっくり聞いたり、休むことを進めたりといった適切なアドバイスでサポートできるよう特に気をつけています。

小児のがんを専門的に診療している病院などは、医師だけでなくナースや保育士、コメディカルの方々もご家族の精神的なケアに特に気をつけており、チームでサポートするようになっています。患者さん・ご家族を含めた方に常に寄り添ってケアに特化したソーシャルワーカーや、チャイルド・ライフ・スペシャリストした仕事もあります。

主治医との連携をしっかりして、
家庭では子供の心のケアを大切にしてください

がん治療に関する研究はあらゆる病院がチームを組んで全国で進めています。世界で行われている新しい治療についても、日本で治療が行えるように日本の先生たちは日夜がんばっています。日本の先生は細かい管理が得意なので、非常に器用にされていると思います。強い意志をもって小児がんに携わる医療者をぜひ信用して頂きたいと思っています。

治療に関する疑問や、治療方針になかった最新の治療など、なんでも主治医の先生に相談して下さい。患者さんとそのご家族と、良い関係で治療を進めていくのがベストだと思っています。主治医を信じて頂いて、家庭では子供の心のケア、なるべく心も身体も良い環境になるように心を砕いて頂ければ良いと思っています。

慶應義塾大学医学部小児外科の取り組み
「小児がん相談窓口」

慶應義塾大学医学部小児外科では「小児がん相談窓口」を運営しています。窓口を開設されたのは小児固形がんの治療で日本の中心を担っている黒田達夫先生です。寄せられた質問には黒田先生が丁寧に回答されています。問い合わせ内容で多いものは、診断がついて治療を進めようという時に、提示された治療法を確認されることのようです。

大切なお子さんとともに困難に立ち向かわねばならないご両親の不安を表していると思います。現在では小児がんもプロトコール化が非常に進んで、標準的な治療法が定められるようになっています。多くの症例はその枠に入ってきますので、施設毎に検査や治療法は大きくかわることはありません。黒田先生は、それも含めてご家族の不安を少しでも和らげられるよう適切なおはなしをされています。

慶應義塾大学医学部小児外科 小児がん相談窓口
http://www.ped-surg.med.keio.ac.jp/patients/consultation.html

取材にご協力いただいたドクター

慶應義塾大学医学部 小児外科専門医 藤野 明浩 先生

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