【最新医療】がん生存率調査発表~正しくデータを読みこんで、希望を持とう~

公開日:2012年12月03日

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10年前の症例を分析したデータベース

今年10月、全国がん(成人病)センター協議会(全がん協)は、加盟施設別のがん5年生存率データを発表しました。「5年生存率」とは、がんと診断されてからの予後を示す1つの指標で、胃がんや食道がん、肝がん、胆がん、膵がんなど短期的に症状が変化しやすいがんにおいて、よく用いられます。大腸がんや乳がん、甲状腺がんなど症状が現れるのが比較的遅いがんは10年生存率が用いられることもありますが、いずれにしても5年生存率は患者さんにとって常に気にかかるデータです。診断を受けて医師から「あなたのがんの5年生存率は…」と低い数値を告げられ、大変なショックを受ける方も少なくありません。

しかし、数値だけで一喜一憂したり、あきらめたりする必要はありません。全がん協の5年生存率データは、”正しい読み方”をしなければ勘違いしやすい側面があるからです。
まず、全がん協の加盟医療機関は31施設で、データは1997年~2004年の診断・治療・追跡調査をもとに集計されています。なかでも調査の中心となった時期は01~03年で、今から10年ほども前のデータです。古い印象を受けるかもしれませんが、5年生存率は調査に時間がかかるため、これが最新となっています。がんの免疫治療や放射線治療などの技術は2000年代半ばから急激に進歩してきましたが、そうした新しい治療実績があまり含まれていないデータであることを、あらかじめ理解しましょう。

調査に参加した病院は限られている

また、施設ごとの生存率は、それぞれの施設の規模や特性を考慮して冷静に読み解く必要があります。国立がん研究センターに代表されるがん専門病院は、「5年生存率の高い病院」となっていますが、こうした病院は手術が可能な患者さんを主な対象としています。言い換えれば、”手術で回復が見込める患者さん”を多く診ているのですから、5年生存率が高いのはある意味で当然なわけです。一方で、進行がんの患者さんを多く診ている自治体病院等は、5年生存率が低くなりがちです。もともと治療の難しい患者さんのため、病院の能力以前に、おのずと5年生存率は低くなるのです。

この加盟医療機関のなかには、専門クリニック等も含まれていないことも、覚えておきたいポイントです。全がん協の加盟条件には「地域がん診療拠点病院の指定を受けたもの」「都道府県の医療計画において、がん医療の中心的医療施設として明確に位置づけられているもの」とあり、先進医療などを行うクリニックは対象になっていません。そのため、5年生存率のデータは、いわゆる標準治療を中心とした結果であると言うことができます。

仮に、最新の免疫療法や放射線療法などを受けた方のデータを含めた統計であれば、生存率はもっと高くなる可能性があります。どちらの治療法も、近年になって続々と科学的な効果が証明されてきています。全がん協の生存率データはあくまで参考程度。新しい治療への期待と希望を持ち続けることが大切です。

進行がんを治療している割合に注目

もう1つ注目したいのは、5年生存率と一緒に発表された「1期/4期比」データです。最も早期のがん(1期)を、最も進行したがん(4期)で割った数値で、数が小さいほど進行した患者を診ていることを示します。再発・転移でがんが進行した患者さんにとっては、「1期/4期比」の低い病院での5年生存率に着目したいものです。

同じ意味で、「手術症例」「全症例」の数値も注目に値します。全症例に対し手術症例が多い病院は、手術可能な早期がんを対象としていると考えられます。5年生存率を見る際には、手術症例が少ない医療機関のデータをチェックしましょう。

自分と似た症例の予後を検索できる

なお、全がん協では「全がん協生存率集計システムKapWeb(カップウェブ)」という新しいシステムも公開しました。このシステムでは、施設ごとの生存率だけでなく、診断時期、年齢、性別、がん種、病期、手術方法を指定して生存率を検索できます。つまり、「自分と同じ50歳代の男性で、肺がんの2期の患者さんの生存率はどのくらいだろう?」「外科的を手術した症例での生存率はどのくらいか?」など、より自分に近い情報を得られるというわけです。

KapWebでは、診断から日数が経過したあとの生存率をグラフにした「生存率曲線」も表示できます。治療後、再発に注意すべきはどの時期か。再発の多い時期を乗り切ったあとの生存率はどのくらいかなど、先々の見通しをつけることができます。

また、「癌サバイバー生存率」も検索できるようになりました。初発患者さんの生存情報のみならず、診断から一定期間生存した患者さんの生存率を検索できます。たとえば診断から300日生存したがん患者さんの生存率を調べる場合、300日以上生存した患者さんのデータだけを抜き取って生存率を割り出すことができるのです。

このように統計データをさまざまな角度から読み解くことは、今後の治療に希望を見いだす源になります。見た目の数字で落ち込んだり、希望を失ったりする必要はありません。自分にとって本当に有益な情報か否かを冷静に読み取ることが、あきらめないがん治療を支えてくれるはずです。

「相対生存率」とは… がん患者の生存率(実測生存率)に、がん以外の病気で死亡する割合を勘案した数値。

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