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がん患者さんに効果的な食事の摂り方・調理のコツ
「楽しくおいしく食べる」ことが、がん治療では大切[Part-2]
がん患者さんに効果的な食事の摂り方・調理のコツ
川口 美喜子(かわぐち みきこ)先生
前回のPart-1では、がん治療における栄養指導の重要性、食べる意欲を失わないための食事の工夫などについて、大妻女子大学家政学部食物学科教授の川口 美喜子(かわぐち みきこ)先生にお話を伺いしました。引き続き今回は、化学治療による副作用(味覚障害や下痢など)のあるがん患者さんのための効果的な食事の摂り方や再発・がん予防につながる食事などについて、調理のコツやレシピも交えてお話を伺います。
目次
味覚障害でも、おいしく味わえるレシピ
味覚の変化は、化学療法を受けるがん患者さんにとって最もよく起こる症状です。例えば、味が薄く感じる(味覚の減退・消失)、塩味だけが感じにくい、特定の味のみわからない(解離性味覚障害)など、一部の味覚を失うことや、まったく味がしないという症状が出る場合もあります。
また、苦味・金属味(異味症)と砂をかんでいるような不快感がある、何を食べても同じ味がする、すべて甘く感じる(悪味症)、口の中に何もないのに苦味・渋味を感じる(自発性異味味覚)などの症状もあります。嗅覚の異常から食べ物の香りを感じにくく、味がわからなくなることもあります。
味覚障害では、食べ物を口にするのがつらいため食事量の確保が困難になり、気分も落ち込みがちになります。すべての患者さんがおいしく食べられる食事を提供することは難しいのですが、化学療法が済めば味覚は回復してきますので、できる限り食事が摂れるように工夫してみましょう。
化学療法中は甘味や塩味を感じにくいため、味覚障害でも感じやすい酸味を効果的に使うのがお勧めです。レモネードや酢の物、お寿司(いなり寿司)ならおいしく食べられる人もいます。酸味のあるトマトケチャップ、ソースやマヨネーズはなめらかな食感なので食べやすいでしょう。マヨネーズに醤油やみそを混ぜてホウレン草やキノコと和えたり、ヨーグルトとマヨネーズを混ぜてドレッシングにしたり、グラタンに加えてもおいしいです。
また、豆腐田楽などのみそ味も効果的です。味覚障害でもにおいを感じることができる場合は、だしを効かせましょう。ゴマ・ユズ・レモン、山椒、新ゴボウ、ミョウガ、シソなど旬の食材や香りの強い薬味を組み合わせると、食べる楽しみが引き出されます。料理にレモンを添えれば、食べるときに絞る楽しみと香りを演出できます。
症状によっては、濃い味付けのいなり寿司や、薄味か味付けなしの油揚げを使ったきつねうどんも向いています。また、トマト味やソース味も食べやすいので、焼きそば、お好み焼きやチキンライス、オムライスなどもお勧めです。それから味覚障害の方が意外に好むのがインスタントラーメンです。たまごや焼き豚、ノリ、茹で野菜などを加えれば手軽に栄養価の高い食事がつくれます。
ポタージュスープや長芋のすり流し、茶わん蒸しなどの液状で呑み込みやすいものも試してみてください。また、果物・野菜・ナッツなどを氷と一緒にミキサーにかけると冷たくて食べやすいスムージーになり、たくさんの食材を一度に採れるので便利です。写真のように、スムージーは色も食感も楽しめて、水分の代わりに絹豆腐を使えばタンパク質も摂取できます。
※川口先生ご提供資料より
手術・放射線治療の影響や、化学療法(抗がん剤)の副作用で唾液の分泌が少なくなると、口腔乾燥や味覚障害を引き起こします。このようなときには口腔ケアとともに、唾液を出すための工夫が大切です。例えば、食事をする前にレモン水などでうがいをすると、唾液が出るし口もさっぱりします。
口腔が乾燥して食べにくい場合は、献立に汁物を付けます。水分の多いおろし大根・とろろ芋・寒天寄せ・かき氷・ゼリー類は食べやすくお勧めです。ジャガイモ・カボチャ・ホウレン草や、ノリなどの海草は口腔内に張り付きやすい食材なので、飲み込みやすいスープやポタージュにしてみましょう。
抗がん剤で下痢になったときにお勧めの食事
抗がん剤治療では、副交感神経が刺激されて腸管運動が活発になり、水分吸収阻害が起こります。すると、正常な細胞の中でも細胞分裂の活発な消化管細胞(口・腸の粘膜など)や骨髄細胞などに影響が出やすく、腸の粘膜が傷害されて下痢になることがあります。手術時の細菌やウイルスによる感染症でも下痢症状は起こります。
こうしたときには水分の補給と、障害を起こしている粘膜を再生するための栄養補給が必要です。冷たいものは腸を刺激するので温かいものを摂りましょう。また、消化が遅く、脂質や食物繊維を多く含む牛乳・乳製品、刺激の強い香辛料、アルコールやカフェインを含むコーヒーなどの食品・飲料や果汁飲料も控えましょう。少しずつ、ゆっくりと飲食することもポイントです。
下痢のときは、主食にお粥と温泉たまご、主菜は白身魚のホイル蒸しや湯豆腐、副菜にはおろし大根・みそ汁・おろしリンゴなどがよいでしょう。みそ汁のみそは大豆が主成分なのでタンパク質も摂れます。
ほかにも、柔らかく煮込んだうどんに茹で野菜の葉先・麩・豆腐・鶏肉・はんぺんなどを加えれば、栄養バランスがよくなりお勧めです。水分補給はミネラルを含むスポーツドリンクを、10℃前後の冷やしすぎない温度で少量ずつ摂りましょう。
再発防止やがん予防につながる食品とは?
腸内環境を整え、腸内細菌の働きを良くすると、免疫細胞が活性化して免疫力が高まります。そのための食生活で意識したいのは、“プロ”バイオティクス(ヨーグルト・納豆・キムチ・みそ・チーズ・ぬか漬け・酢などの発酵食品)と、“プレ”バイオティクス(バナナ・アスパラガス・カボチャ・キャベツ・山芋・納豆・海藻、キノコ類などの水溶性食物繊維)食品を組み合わせて食べることです。
また、魚油やえごま油に含まれるn-3系脂肪酸(オメガ3)の一種であるEPA・DHAには、抗炎症作用が認められています。オメガ3は真アジ1尾で0.55g、真イワシでは1尾2.53gも含まれています。魚の缶詰は漁獲量が多い旬の時期に加熱処理するため、EPA・DHAをおいしく効率よく摂取できます。亜麻仁油をジュースやサラダのドレッシングに加えるのも、摂取量を増加できるのでお勧めです。
これら以外に、がんに対する抗酸化や抗炎症を期待できる栄養素として、ビタミンA・ビタミンDなども重要だと考えられています。また、自然食品の摂取のみで体重維持に必要なエネルギーを摂取できない場合には、経口的栄養補助 (oral nutrition supplementation : ONS)を利用します。少量でエネルギー量とタンパク質および栄養素を摂取できるONSは、栄養摂取量の増加と栄養状態の改善が果たせます。
がんを、食生活見直しのきっかけにしてほしい
がんと診断されて治療に向かおうとするとき、治療や経済的なことへの不安、生活環境の見直し、仕事のこと、家庭や家族のことなどを思い悩み、戸惑いやつらさも感じて落ち込まれることと思います。ですから、治療を進める中では食事や栄養の採り方がとても重要ですが、「食べること」を考えるのはどうしても後回しになりがちです。がんの治療に効果的な食事や、治療中の体力を維持する食事に関する情報を得る機会が少ないこともあります。
がんと共に生活していくのは、容易ではないでしょう。しかし、食べることで、がんに負けない体が維持できます。楽しく、笑顔で食事を摂ることができれば、勇気も元気も出ることでしょう。疑問に思うこと分からないことは、ぜひ、患者さんにとって身近な医療者である管理栄養士に相談してみてください。
ポイントまとめ
- 味覚障害でも酸味は感じやすい。味付けや、食感、料理の温度なども工夫すると食べやすくなる
- 高免疫力を高めるプロバイオティクス(発酵食品など)とプレバイオティクス(水溶性食物繊維)食品の組み合わせや、抗炎症作用のあるn-3系脂肪酸(オメガ3)は、がんの予防や再発防止に効果的
- がんを、これまでの食生活見直しのきっかけにして、不安や悩み、疑問は、ぜひ管理栄養士に相談を
取材にご協力いただいたドクター
川口 美喜子 (かわぐち みきこ) 先生
大妻女子大学家政学部食物学科 教授。管理栄養士、医学博士。専門は病態栄養学、がん病態栄養、スポーツ栄養。島根県医学部付属病院栄養治療室長就任後、院内のNST(栄養サポートチーム)立ち上げを行うなど、食事栄養管理に基づく治療に従事。
『がん専任栄養士が患者さんの声を聞いてつくった73の食事レシピ(看護ワンテーマブック)』(医学書院)『いっしょに食べよう』(木星社)『認知症を予防する食事』(亜紀書房)などの著書も。
コラム:がん病態栄養専門管理栄養士とは?
がん患者さんの栄養管理・食事療法に関する高度な知識と技術を備えたがん治療専門の管理栄養士として、がん病態栄養専門管理栄養士(Certified Specialist of Registered Dietitian for Cancers;CSRDC)の資格認定制度が2014年度に制定されました。
がん患者さんの栄養管理・食事療法に関する専門的知識を有し、主に病院で、がん患者さんへの円滑な治療を推進する医療チームの一員として働いています。その中で、栄養に関わる問題の解決を提議・提案し、がん患者さんやご家族には実践的な栄養指導を行います。2019年度末時点で全国に999人が認定されているので、より専門的な栄養相談をご希望の場合には、お近くの資格取得者を探してみるのもお勧めです。
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