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- 「楽しくおいしく食べる」ことが、がん治療では大切[Part-1]
今日からできる食生活のセルフチェック・改善
「楽しくおいしく食べる」ことが、がん治療では大切[Part-1]
今日からできる食生活のセルフチェック・改善

川口 美喜子(かわぐち みきこ)先生
がん患者さんの中には疾病や治療の影響などで食事が困難な方も少なくありません。しかし、治療のための体力維持や日常生活の質を保つこと、さらには抗がん剤の副作用の緩和、がんの再発防止などのためにも、食事・栄養面をしっかりサポートすることが大切です。今回はがん患者さんの食事支援に詳しい大妻女子大学家政学部食物学科教授の川口 美喜子(かわぐち みきこ)先生に、管理栄養士の役割や日常生活で実践できる食生活のセルフチェック、がんの治療効果を高める食事の工夫などについて伺いました。
目次
管理栄養士は、がん治療を完遂する体力維持と生活の質の担保を考える

がん治療の中での食事療法の位置づけは、平成28年度の診療報酬改定で管理栄養士が行う外来・入院・在宅患者訪問栄養指導について、「がん患者さんに対する治療食を含める」と評価対象が拡大されたことをきっかけに重要視されてきています。管理栄養士が行うがん患者さんの食事支援は、治療を予定通りに完遂できる体力の維持のほか、仕事や家族との時間といった日常生活の質をこれまで通りに保つことなどを目標にしています。
特に注意するのは、がんの初期症状として発症から6カ月間に、30~80%の患者さんが当てはまる、体重減少への対応です。中でも、胃がんやすい臓がんなどの消化器がんの患者さんで体重減少する方は80%以上と著しく、肺がん・結腸がん・前立腺がんの患者さんも半数以上におよびます。つまり、がん患者さんの多くは体重減少により、体を動かすエネルギーやタンパク質が不足する「低栄養」の典型的な病態に陥ります。
体重減少の理由は、がん治療の手術、化学療法、放射線治療などによる副作用で食事の摂取量が減る、あるいは全身的な炎症反応による体脂肪や筋タンパク喪失などです。体重が減り低栄養状態に陥ると、がんの治療継続が困難になり予後にも影響してしまいます。ところが、患者さんや医療者にとって栄養状態に対する関心は、がん治療における優先度としては低く、体重減少の原因や低栄養状態であることを認識できていないことが少なくないようです。
一方で、がんと診断された患者さんは、これまでの食生活が発症に関連しているのだろうかと自身の食に対する意識を責めたり、がんに効く食品や栄養の摂り方に関するあらゆる情報や体験談を探ったりするなど一人で思い悩みがちです。
実はそんなときこそ、食事と栄養の専門家・管理栄養士の出番だということを覚えておいてください。治療の選択を医師などの医療者と決定していく段階で、ぜひ主治医に栄養指導を依頼しましょう。
がんの早期から食事や栄養に関心を持ち、管理栄養士の指導を受けて適切な栄養療法を行えば、治療による副作用をはじめ、心理的な不安や抑うつ、術後の機能障害によって生じる食事摂取量の減少、栄養の消化吸収機能の低下による体重減少を軽減することができます。また退院後も、患者さんががんと共に生きる生活を一緒に支えていきます。
今日から実践できる食生活のセルフチェック
がんと共に生きるためには、医師・看護師・栄養士・薬剤師・社会福祉士など、さまざまな専門性の医療関係者が一丸となった援助のほかに、患者さんが自らの食生活を守るための知識を得ることと、少しの努力が必要になります。
患者さんにとって、栄養状態の自己管理に最も適している指標は、食事の摂取量と質、そして体重の変化です。たとえば、1週間当たり2%以上の体重減少が2週間連続した場合には、重く受け止め原因を考えてみましょう。食事回数が減っていないか、食事の内容が変わっていないか(主食の量が減っていないか、間食をしなくなった、同じおかずを食べるようになったなど)、嗜好が変わったか、便秘や下痢などの消化器症状が続いていないか──などを振り返ってみてください。
また、散歩や運動を始めたことなどで、生活活動量が増えていないかどうかもチェックポイントです。運動量が増えたときには、エネルギーの高いスポーツドリンクや、捕食としておむすび・サンドイッチなどを少量でも摂るとよいです。体重減少の予防のためにも図のような食事記録をつけて、食事の変化や体調を自己管理していきましょう。
※川口先生ご提供資料より
私たちにとって必要なエネルギーは、食品に含まれるタンパク質・脂質・炭水化物のそれぞれから生成されます。そして効率よくエネルギーを作り出し、味覚や視覚などの感覚を正常に保ち、免疫力の向上や体重減少を防ぐためには、ビタミン類とミネラル類が必要です。
これらの栄養素が不足すると体重が減少し栄養不良となり、特に筋肉量の減少によって化学療法の副作用が発症しやすくなることもわかっています。筋肉は、がん治療を完遂し再発予防となる体力をつけるためにも、免疫力アップにも重要な役割を果たします。ですから筋肉量が減少することのないように、特にタンパク質不足にならない食事を考えることが大切です。
一日の食事は図の食事バランスを参考に、主食・主菜・副菜と果物・乳製品・汁物のすべてを摂るように心がけましょう。その日に食べられなかったものは翌日に補ってください。例えば、一日分のタンパク質の目安は、朝食で目玉焼きとチーズを加えたサラダ、昼食にブタ肉の生姜焼き、豆腐か油揚げのみそ汁、夕食はサケの塩焼き、茹で大豆を入れたヒジキの煮物です。
※川口先生ご提供資料より
がんの治療効果も高める「食べ方」

栄養指導の際に、がん患者さんから「医療者から『食べられるときに食べたいものを食べてください』と言われて、一体何を食べたらよいのかわからない」といった相談をたびたび聞きます。また「食べられないときは栄養剤を」と勧められて、「栄養摂取の方法がこれしかないのか」と絶望感を感じてしまう人もいます。
患者さんが「病気に対して食事の工夫で何かできないだろうか」「治療に有効な食材はないか」と考え悩むのは当然です。そこで、がんと共に生活できる健康的な食べ方についてご紹介します。
管理栄養士は、がんの治療前~退院後の栄養と食事は、治療効果の向上や早期回復を優先し、治療後は一般の方に提案する健康的な食生活とほぼ同じに考えます。体に良い食事は、体力をつけ、感染や加齢による病気(リウマチ・がん・心疾患など)と戦うのに必要なすべての栄養素を含んでいます。重要なのは「食べる楽しみを失わない」ようにすることで、以下がそのポイントです。
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- 食べることが楽しくなる工夫をする
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- 季節感の演出や旬の食材を利用する
- 思い出の料理を出す
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- 食べられる調理にアレンジする
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- 病態に合わせて、味付けやにおいを調整する
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- 吸収の良い食事になるよう献立を工夫する
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- 少量でも吸収の良い食材・献立を考える
- 下痢や便秘に対応した献立を選ぶ
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- サプリメント・離乳食・介護食も利用する
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- 体力が弱ると食べる喜びも低下するため、体力維持に効果的な栄養補助食品や、食べやすい食品を利用する
がん患者さんは、治療の副作用で食欲が湧かなかったり、食べたい気持ちはあっても食べたいものを思いつかずに食事を抜いてしまったりすることもあります。化学療法では味覚障害や口腔粘膜障害のほか、唾液量の減少や味覚感度の低下も生じます。消化管の術後患者さんは、食べると気分が悪くなって食事が怖くなったり、吐き気や腹部膨満、下痢などの症状で食べたくても食べられなくなったりすることがあります。
食欲がないときにはつい、そうめん、冷やしトマト、冷奴、アイスクリームなどの口当たりのよいものばかりを選びがちです。つらいときに1~2日なら、それらだけを口にするのも結構ですが、3日目からは前述した主食・主菜・副菜・果物・乳製品など食材の種類やバランスに配慮した食事をしましょう。
私のお勧めはシラスやたまごを入れた雑炊で、主食と主菜が同時に摂れ、食べやすいと好評です。そこにニンジンやタマネギ、ホウレン草を足せば副菜も一緒に摂れます。間食にフルーツヨーグルトを食べれば、果物と乳製品も補えます。
あるいは、鶏肉やかまぼこを加えた煮込みそうめん(主食・主菜)に、ネギやシイタケ、小松菜、白菜を入れると副菜が採れ、間食をバナナジュースにすれば栄養バランスの整った食事になります。このようにいろいろな食材の摂取を心がけ、脂肪・タンパク質・炭水化物・ビタミン・ミネラルの5大栄養素を補いましょう。
このほか、盛り方を少なめにする、皿数を減らす、ミニ丼(親子丼・ビビンバ丼・中華丼・鰻丼など)と漬物のワンプレート食にする──などの工夫でも食欲が湧く場合もあります。症状に合わせた工夫が大切です。唾液が出にくい場合には汁物を添えてみましょう。
食べ方でも工夫できます。胃を切除した方は汁物でもお腹が膨らむので、汁物を先に飲まない、牛乳・水・お茶を一緒に摂らないなど、食事の際に水分を減らすことも必要です。口腔が乾燥して食べにくい方は、おにぎり茶漬けや・カレー丼・親子丼・たまご丼などを水分多めで調理するとよいです。ミニグラタンやドリアなどのクリーム系も飲み込みやすく、量を摂れるのでお勧めです。
ポイントまとめ
- 低栄養状態による体重減少は、がん治療継続の大きなハードルになるので、治療早期に管理栄養士の適切な指導を受けることが大切
- タンパク質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラルの5大栄養素をバランスよく摂取すると、化学療法の副作用も軽減される
- 食生活や栄養状態を記録しセルフチェックすることが大切
- 食事はがんの治療効果を高める治療の一環なので、症状に合わせた工夫で「食べる楽しみ」を維持する
取材にご協力いただいたドクター

川口 美喜子 (かわぐち みきこ) 先生
大妻女子大学家政学部食物学科 教授。管理栄養士、医学博士。専門は病態栄養学、がん病態栄養、スポーツ栄養。島根県医学部付属病院栄養治療室長就任後、院内のNST(栄養サポートチーム)立ち上げを行うなど、食事栄養管理に基づく治療に従事。
『がん専任栄養士が患者さんの声を聞いてつくった73の食事レシピ(看護ワンテーマブック)』(医学書院)『いっしょに食べよう』(木星社)『認知症を予防する食事』(亜紀書房)などの著書も。
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