【QOL(生活の質)】がん治療中・治療後のQOLを高める運動療法

公開日:2014年12月01日

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 がんの治療を受けるために、安静にして体力を温存しなければならない場合もあります。しかし、可能な状況であれば、適度な運動を継続することは、QOLを高めることになります。

 

運動でがんに負けない心と体を!

 適度な運動が心身の健康促進につながることはよく知られています。近年の国内外の研究により、がん治療中や治療後の患者さんも適度な運動を行うことで、体の代謝が活発になったり免疫機能が高まったりするとともに、精神的なストレスも減るため、QOLを高めることがわかってきました。

多くの場合、がんと診断されたり、つらいと感じる治療を受けたりしていると、気持ちが落ち込みがちになります。そしてエネルギーが低下すると、活動も不活発になり、体力が低下するという悪循環に。とくに寝たきりで過ごしていると生活不活発病(廃用症候群)に陥り、思い通りに自分の体を動かせなくなるおそれがあります。そうなると、日常生活に支障があるのはもちろんですが、がんの治療を受けるための体力まで失われかねません。

治療を受けるためにも、QOLを高めるためにも、運動は必要です。治療前に運動をしていた人はぜひ再開しましょう。がんになる前に運動習慣のなかった人は、これを機に、適度な運動を生活習慣にしましょう。

 

実証された運動による心身効果

 2014年6月に開催された「日本理学療法学術会議」で、「がん患者のストレス抑制に対する運動療法効果」という研究結果が発表されました。それによると、入院中に運動療法を実施したがん患者20名を対象に、ストレッチ、筋力トレーニング、エルゴメーター、ADL練習などの運動療法(運動強度は「楽である~ややきつい」)を20~30分実施。

唾液アミラーゼ活性をストレスの指標として用い、運動療法前後でのストレスに対する即時的効果について検証したところ、運動前に高いストレスを示していたが運動後には低下するという結果が出ました。このことから、運動療法が身体機能の改善だけではなく、精神機能・心理面の改善にもつながるとしています。

米国がん学会(American Cancer Society: ACS)の「がん生存者の栄養と運動に関するガイドライン」(2012年改定版)によると、がん治療中に運動することで、身体機能、倦怠感などが改善される可能性があるばかりか、運動によって化学療法の完了率が上昇することも多くの研究結果に示されているといいます。

また、乳がんの総死亡率や再発率が減少し、大腸がんでもそれらの数値が改善されたという研究結果も示されています。

 

今日から実践できる運動と注意点

 米国がん学会の「がん生存者の栄養と運動に関するガイドライン」では、米国スポーツ医学会(American College of Sports Medicine:ACSM)が、がん患者のために定めたガイドラインに従って運動するようにと推奨しています。

推奨される運動とは、1週間に150分の中等度の有酸素運動もしくは1週間に75分の強度な有酸素運動です。中程度の運動というのは、運動している間に会話をすることはできるが、歌を歌うことはできないレベル。強度な運動は、立ち止まって息継ぎしないとほとんど話せないレベルです。

また、国立がん研究センター・がん対策センターが発行した小冊子「がん療養とリハビリテーション」には、ウォーキングやエルゴメーターなどの有酸素運動20〜30分間を週3〜5回行うのが理想的であり、身体機能維持にはストレッチなどの軽い筋肉トレーニングも有効だとしています。

ただし、次のような場合には、運動を避けたり、注意して行うことが必要です。
● 貧血が強い場合:貧血が良くなるまでは、日常生活以外の運動は控えます。
● 免疫機能が低下している場合:白血球数が安全なレベルに回復するまで、公共のジムやその他の多くの人が集まるような所に行くのは控えます。
● 放射線治療を受けている場合:塩素に触れて皮膚症状が起こる恐れがあるので、プールでの水泳は避けます。
● カテーテルを留置している場合:感染を起こす可能性のある水中や細菌で汚染した場所での運動は避けます。また、運動中にカテーテルがはずれないように注意しましょう。

病態によっても変わってきますので一概には言えませんが、主治医の先生に相談しながら適度な運動を取り入れていくとよいでしょう。

 

専門機関で運動療法を受ける

 運動する際には、正しい体の動かし方を実践することが大切です。そのためには専門の指導を受けるといいでしょう。がん診療体制の充実が進められる中、2010年4月の診療報酬改定により、「がん患者リハビリテーション料」が新設されたこともあり、入院中の患者さんを対象にがんリハビリに取り組む医療機関が増えてきました。また、外来診療でもがんのリハビリを進めている医療機関もあります。

「抗がん剤治療や放射線治療による筋力や体力の低下」「乳がんの手術後に起こる肩関節の運動障害」「抗がん剤によるしびれや筋力の低下」などのリハビリプログラムがあります。がんそのものによる障害やがん治療の過程で生じる障害を対象としていますが、入院中にリハビリを通じて運動療法の指導を受けることは、退院後の運動にも有益です。

「和歌山式」の名で知られる和歌山県立医大病院では、がんの手術前から予防的リハビリを開始。80歳くらいで手術を受けたがん患者さんも、手術の翌日から立って歩くなどの運動療法で心身の回復に効果を上げています。

ただし、残念ながらまだ全国のすべての医療機関でこうした取り組みが行われているわけではありません。医療機関でがんリハビリの運動療法を受けたい場合には、最寄りのがん診療連携拠点病院の「がん相談支援センター」に問い合わせてみましょう。

なお、都内にはがん患者専門のフィットネスクラブもあり、がん仲間が支え合うピア・サポートの場としても利用されています。

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