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【QOL(生活の質)】胃・大腸切除後に心がけたい食事の工夫
シリーズでお伝えしている、がんと食事。今月のテーマは胃がんと大腸がんです。胃や大腸などの消化器系がんの切除手術後は消化機能が低下するため、さまざまな影響があります。当ページでは、胃がん・大腸がん治療後に消化機能を補う食べ方や合併症を起こさないための工夫などをご紹介しています。
目次
食事だけでがんの再発予防はできません。しかし、食品を選び、食べ方を工夫することで、不快な症状を軽減したり、予防したりできます。とくに胃や大腸などの消化器系がんの術後は、食事とQOL(生活の質)が密接な関係にあります。
胃大腸の切除による消化機能への影響
胃は食物を一時的に貯え、胃液と混ぜながら消化して粥状にします。胃から十二指腸に送られた食物は小腸で栄養を吸収し、その残渣が大腸へ。ここで水分が吸収されて便となります。胃や大腸を切除すると、これからの機能が低下するため、さまざまな影響が出てきます。
食道と接する噴門部を切除した場合は、食物が食道に逆流しやすくなるので「逆流性食道炎」が起こりやすくなります。また、全摘を含めて小腸につながる幽門前庭部(ゆうもんぜんていぶ)を切除した場合は、食物貯留機能が失われるため、腸内に一度に流れ込んでしまう「ダンピング症候群」が起こります。
大腸は、結腸と直腸に大きく分けられます。結腸をほとんど全部切り取った場合は、水分吸収力が減るため下痢や水様便になりやすくなります。また、蠕動運動が低下するので便秘になることもあります。直腸を切除した場合には、便をためる能力と便を押し出す能力が低下するため、排便の回数が増加、あるいは1回の便量減少といった排便障害が起こりがちです。人工肛門の場合には、便のにおいに過敏になるケースも少なくありません。
自分の胃や大腸のどの部分を切除したのか、それによってどのような影響が出るのかを理解し、これらの症状を軽減あるいは生じにくくする食事の取り方を工夫しましょう。
消化機能を補う食べ方の工夫
低下した消化機能を補うために、第一に心がけることは少量ずつよく噛んでゆっくり食べることです。胃で粥状にできない代わりに、口でしっかり噛むことで食物を細かくし、唾液中の消化酵素と混ぜ合わせるのです。消化・吸収を促す食べ方は、機能低下した大腸の下痢・便秘対策にも有効です。胃腸の働きを助けるために一口20回以上を目安にゆっくり噛みましょう。
第二に心がけたいのは、胃腸での消化吸収に負担のない食べ方です。胃がんも大腸がんも、特に医師の指示がない限り、食事制限はありません。しかし、不快な症状を避けるには、1度にたくさん食べないこと。とくに胃を全摘した場合は、少量の食事を1日数回に分けてとるようにします。ダンピング症候群対策としては食後に休みましょう。反対に逆流性食道炎対策は、逆流を防ぐために食後30分は上半身を起こしておきます。
また、下痢や便秘の対策としては、水分補給が必須。みそ汁など食事中の水分も含めて1日に2リットル程度を目安にとりましょう。なお、身体に良いといわれる食物繊維も摂りすぎると下痢を起こしやすくなるので、量を控えたり、刻んだりやわらかく煮るなど消化しやすくして食べる工夫が必要です。また、刺激の強い香辛料や塩分、揚げ物や脂肪分の多い肉など油脂類は控えめにします。
腸閉塞を起こさないために
胃腸に限らず開腹手術後に起こりやすいのが腸閉塞です。腸内容が通過する働きが障害され、内容物が腸の中に充満する状態を腸閉塞といいます。癒着して腸内の流れが滞ると、便やガスが出なくなるので、おなかが張り、腹痛や嘔吐などの症状が起こります。
原因はさまざまですが、最も多いのが腹部手術を受けたことがある人に起こる癒着性腸閉塞です。これは開腹手術の影響で腹壁と腸管や腸管同士が癒着し、腸が折れ曲がったりして腸管内腔が狭くなるために起こるのですが、術後すぐに起こる場合もあれば、数年後に起こる場合もあります。
腸閉塞の予防は、一度に食べ過ぎないことです。繊維質の多い食品は細かく切り、腸壁にはりつきやすい食品は細かく刻むなど、消化しやすくする工夫をしましょう。また、便秘にならないように水分を摂ることも忘れずに。
おならや便のにおいが気になるときの食事
術後におならや便のにおいが強くなったと感じる患者さんが少なくありません。手術や術後に投与される薬剤の影響で、腸内の菌の種類や数、バランスが変化したことに起因します。心配する必要はありませんが、おならが出やすい食品やにおいを強くする食品を控えることで、軽減できます。とくに人口肛門で便のにおいが気になる場合には、普段からとりすぎないように注意しておくと外出時にも便のにおいを気にすることが少なくなるでしょう。
■おならが出やすい食品
食物繊維が多い食品や腸内発酵を促す食品。
例:ごぼう・やまいも・かぼちゃ・さつまいも・キノコ類・豆類・納豆やキムチなどの発酵食品・炭酸飲料・ビールなど。
■においを強くする食品
強いにおいを発する食品。
例:玉ねぎ・ねぎ・にら・にんにく・ピーナッツ・香りの強いチーズ・卵・カニ・エビなど。また、アスパラは尿のにおいを強くする。
化学療法を受けているときの食事
抗がん剤の副作用で食欲が衰えたり、食欲があっても口内炎ができるなど食事がとりにくくなったりします。食欲がないときは無理をしないで、食べたいと感じたときに、食べたい、あるいは食べられそうだと思うものを、口にしてみましょう。毎日必ず3 食と決める必要はありません。ただし、何も食べられない状態が2〜3日続くようなら主治医に相談しましょう。
吐き気や嘔吐がある場合には、水分が多い野菜や果物、口当たりがよい卵豆腐、茶碗蒸し、ポタージュスープ、ヨーグルトなどを少量ずつ口にしてみましょう。それでも食べ物を受け付けないときは、脱水症にならないように、スポーツドリンクや経口補液などで水分と電解質を補います。
口内炎ができていたり、飲み込む力が低下している場合には、素材を細かく刻んだりやわらかく煮る、あるいはミキサーでペースト状にしたり、片栗粉や介護食用とろみ剤でとろみをつけると、飲み込みやすくなります。治療のあとは、食欲もよみがえります。心も豊かになる健やかな食事で、化学療法中にとれなかった栄養を補い、心身のエネルギーを充足させましょう。
ポイントまとめ
食事だけでがんの再発予防はできません。しかし、食べ方を工夫することで、不快な症状を軽減、予防につながります。自分の胃や大腸のどの部分を切除したのか、それによって消化機能などにどのような影響が出るのかを理解し、少量ずつよく噛んでゆっくり食べるなど症状を生じにくくする食事の摂り方を工夫しましょう。また、胃腸に限らず開腹手術後には腸閉塞が起こる危険性もあります。腸内が癒着して腸内の流れが滞ると、ガスが出なくなるので、おなかが張り、痛みや嘔吐などの症状が起こります。一度に食べ過ぎず、繊維質の多い食品は細かく刻むなど、消化しやすくする日常の工夫が予防につながります。化学療法を受けている時は、食欲がない、食事が摂りづらいこともあります。その際は無理せず食べられる時に食べ、脱水症状には注意しておきましょう。がん治療は長期に渡ることも多いです。
- 胃や大腸の切除した部分によって、どのような影響が出るのかを理解し、「逆流性食道炎」や「ダンピング症候群」の症状の軽減、または生じにくくするための食事の摂り方を工夫しましょう。
- 低下した消化機能を補うための工夫として、少量ずつよく噛んでゆっくり食べること、1度にたくさん食べないこと。
- 開腹手術後に起こりやすいのが腸閉塞。この腸閉塞の予防には一度に食べ過ぎないこと。
- 術後におならや便のにおいが強くなったと感じる時は、おならが出やすい食品やにおいを強くする食品を控える。
- 化学療法期間中の食欲不振、口内炎、食事が摂りづらいなどの際は、無理せず、食べたいと感じた時に、食べたい、あるいは食べられそうだと思うものを摂りましょう。
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