【QOL】がんと食事~摂食・嚥下障害~

公開日:2013年03月01日

目次

シリーズでお伝えしている「がんと食事」、今回のテーマは「摂食・嚥下障害」です。私たちは普段、何気なく食事をしていますが、実は食べ物を「かむ」「飲み込む」という動作は、口の中や喉の筋肉あるいは神経等が複雑に働いています。しかし、がんによって体力が低下し、筋肉や神経がうまく機能しなくなると、食べること自体が難しくなるケースは少なくありません。もしくは、がんによる痛みや、通過障害(消化管が細くなる)などが原因で、摂食・嚥下ができなくなってしまうこともあります。

「食」はがん種を問わず、共通するテーマ

まず、口腔がんや舌がんでは口の中の痛みによって、食べ物を口に入れること自体が難しくなります。咽頭がんや食道がんは喉が狭くなり、飲み込みたくてもうまく通らないようになることがあります。これら口や喉に関わるがんは、手術によって切除されることもあるため、多くの場合は何らかのかたちで食事に影響します。他にも、がん種を問わず、放射線治療を行うと唾液の分泌が減少する副作用がありますし、化学療法によって粘膜が炎症を起こしたり、味覚障害が生じたりした結果、食べ物を受け付けなくなる人がいます。摂食・嚥下障害は、あらゆるがんの患者さんにとって共通するテーマなのです。

例えば、以下のチェックリストに該当する症状がある場合は、摂食・嚥下の機能が低下してきたと考えられます。

□ 食事中によくむせる
□ たんが多い
□ 口やのどに食べ物が残る
□ 食べるのが遅くなった
□ 思いがけずやせてきた
□ 発熱を繰り返す
□ のどがゴロゴロなる
□ 食べ物がのどにつかえる
□ 食べ物が口からこぼれる

メニューの工夫やトレーニングで食事をあきらめない

しかし、摂食・嚥下が難しくなったからといって、食べることを諦める必要はありません。食べ物を上手に選んだり調理方法を工夫したり、舌や喉の機能をトレーニングすることによって、かみやすく、飲み込みやすくすることができます。
食べ物の選び方からご説明しましょう。摂食・嚥下障害の程度にもよりますが、食事中にむせやすい場合は、せいべいなど堅いものや、タケノコやゴボウなど繊維質のものは避けるのが基本です。また、喉に落ちるスピードが速いサラッとした飲み物や、口の中でバラバラになりやすい食べ物もむせやすいので、避ける必要があります。

>飲み物や汁物には市販の「とろみ剤」でとろみを付けるほか、あんかけのようなトロリとした食感のメニューを選ぶといいでしょう。山芋や里芋、冬瓜など食品自体にとろみや粘りがあるものを使ったメニューも適しています。野菜の煮物などは、食材を舌でつぶせる程度までやわらかく煮込むことも大切です。この際、食材を小さく刻みすぎないように注意しましょう。いわゆる「きざみ食」は食べやすそうに見えますが、小さな食材が口の中でばらけやすく、むせる原因になりかねないからです。

味付けに関しては、やや濃い目にしたほうが食べやすくなります。ただ、酸味の強いものはなるべく避けましょう。がんの患者さんは治療の副作用で口内炎になることがあり、お酢や果汁などは患部にしみて、痛みの反射でむせやすくなってしまうからです。

食べやすい「ユニバーサルデザインフード」とは?

摂食・嚥下障害が進むと、ミキサー食やゼリー食のように食べ物の原型をとどめない、いわゆる流動食に移ることになります。しかし、食べ物の見た目は食欲の喚起に大きく影響し、流動食にすると食べられなくなる人もいます。そうした場合は、市販の加工食品を活用するなどして、可能な限り通常の食事を維持したいものです。

日本介護食品協議会(http://www.udf.jp)では、「ユニバーサルデザインフード」といって、摂食・嚥下障害のある人でも食べやすい加工食品の普及を図っています。各食品メーカーが販売している加工食品を、「①容易にかめる」「②歯ぐきでつぶせる」「③舌でつぶせる」「④かまなくてよい」の4区分に分類し、その人の状態に合ったものを選ぶことを提唱しています。中でも「③舌でつぶせる」に含まれる「ソフト食」は利便性が高く、注目されています。ソフト食とは、煮魚やハンバーグといった通常のメニューをミキサーにかけ、再び元の料理の形に形成した食べ物で、食べやすさと見た目のよさを両立しています。

医師や歯科医師とともに飲み込みのトレーニング

なお、摂食・嚥下機能のトレーニングは、専用の器具や測定器を用いて舌の筋肉を鍛える方法があります。また、喉の機能を内視鏡で確認しながら、飲み込みの練習を繰り返す方法もあり、いずれも専門の医師または歯科医師の指導のもとで行います。摂食・嚥下機能のトレーニングは時間を要することが多く、毎日継続する意欲が必要です。急いでよくなることではありませんから、無理をせず、あせらずにトレーニングを継続することが大切です。/p>

がんの患者さんにとって、食事は栄養補給と同時に、仲間とのコミュニケーションの時間でもあります。家族や周囲の人が、食事メニューの工夫に協力したり、トレーニングを応援することによって、できるだけ長く食べられる時期を延ばしたいものです。

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