【QOL(生活の質)】がんになっても食事を楽しみたい~前立腺がん編~

公開日:2012年12月28日

シリーズでお伝えしている、がんと食事。今月のテーマは前立腺がんです。前立腺がんは、欧米に多く日本では比較的発症頻度の少ないがんであることが分かっています。その背景には、食習慣の違いが関係していると考えられます。
日本でも増加の一途をたどる前立腺がん※。乳製品や肉類を好む欧米型の食事が、前立腺がんのリスクを高めている可能性があるのです。 罹患リスクを避けるために食生活で気をつけるべきことはあるのでしょうか。前立腺がん発症と食生活の関係について探ってみましょう。

目次

乳製品や肉類の摂取が前立腺がんのリスクを高める

シリーズでお伝えしている、がんと食事。今月のテーマは前立腺がんです。前立腺がんは、欧米に多く日本では比較的発症頻度の少ないがんであることが分かっています。その背景には、食習慣の違いが関係していると考えられます。乳製品や肉類を好む欧米型の食事が、前立腺がんのリスクを高めている可能性があるのです。

厚生労働省と国立がん研究センターが4万3000人を対象とした大規模追跡調査によると、牛乳やヨーグルトなど乳製品の摂取量が多いグループの前立腺がんリスクは、少ないグループの約1.5~1.6倍で、摂取量が増えるほど高くなるという結果でした。
また、カルシウムや飽和脂肪酸も、摂取量が増えるほど前立腺がんのリスクがやや上がる結果になりました。飽和脂肪酸、乳製品や肉類などには動物性の食品に多く含まれる脂肪です。

すでに前立腺がんのある場合、もしくは再発や転移が心配な場合は、乳製品や肉類を過剰摂取しないよう意識したいところです。

食事の注意点は、生活習慣病予防とほぼ同じ

乳製品や肉類の過剰摂取を控えるということは、生活習慣病の予防とよく似ています。脂肪が多くこってりした食べ物をなるべく避けるわけですが、働き盛りの男性にありがちな食生活は注意が必要です。例えば、時間のない朝はミルクの入った缶コーヒー、ランチはラーメンや牛丼やハンバーガー、夜はチーズや焼き鳥などをつまみながら晩酌となると、生活習慣病のリスクが高まると同時に、前立腺がんのリスクも上がるのです。

では、どのような食生活を意識すればよいでしょうか? 乳製品は前立腺がんのリスクになる反面、骨粗鬆症や高血圧、大腸がんなどを予防するため、一概に避けるべきとは言い切れません。また、肉類も筋肉や臓器などを健康に保つタンパク質が豊富なため、単純に食べなければよいというものではありません。しかし、食品の選び方や調理方法に注意することで、前立腺がんのリスク上昇を避けられる可能性があります。

まず、乳製品に関しては、低脂肪タイプの製品を選ぶことです。低脂肪乳や低脂肪ヨーグルト、チーズを食べる際はカッテージチーズやパルミジャーノがいいでしょう。前立腺がんのリスクを上げる飽和脂肪酸を避けながら、その他の栄養を補給することができます。

また、肉類を食べる時はできるだけ脂肪の少ない調理法を心がけたいものです。揚げもの、炒め物は避けて、蒸したり焼いたりして脂肪を落とした料理を心がけましょう。牛肉の脂身には、特に飽和脂肪酸が多く含まれるため、どうしてもステーキなどを食べたい際は脂身を残すことです。

大豆は転移のないがんに。緑茶は進行性がんのリスクを抑える

一方で、前立腺がんのリスクを下げる可能性のある食品もあります。日本人が親しんできた、大豆です。前述の大規模追跡調査では、豆腐、納豆、油揚げなどの大豆製品を多く食べることで、前立腺内にとどまる限局がんのリスクを下げるという結果になりました。

具体的には、61歳以上で限局がんにかかるリスクは、みそ汁や豆腐などの摂取量が最も多いグループ(1日107g以上)が、最も少ないグループ(1日47g 以下)のおよそ半分。みそ汁単独でも、最も多いグループ(1日2杯以上)は、最も少ないグループ(1日1杯未満)に比べて35%低いとされたのです。

これは大豆に含まれるイソフラボンが関係していると考えられます。同調査ではイソフラボンの血中濃度が高いほど、限局性前立腺がんのリスクを低下させるという結果も出ています。ただ、進行性前立腺がんとイソフラボンとの相関関係は分かっていません。

進行性前立腺がんに関しては、緑茶がリスクを下げることを同じ大規模追跡調査が示しています。緑茶を1日1杯未満飲む人を基準として、緑茶を1日1~2杯、3~4杯、および5杯以上飲むグループで、前立腺がんのリスクが何倍になるかを調べたところ、限局がんには変化がありませんでしたが、進行がんにリスクの低下を認めました。緑茶を1日5杯以上飲むグループ では、1日一杯未満飲むグループと比べると、リスクが約50%も低下していたのです。

緑茶に多く含まれるカテキンが、がん細胞の増殖を抑えると考えられています。また、カテキンは、前立腺がんの危険因子の一つとされる男性ホルモンのテストステロンを下げたり、アンドロゲンの働きを抑制することで前立腺がんのリスクを下げることが予想されています。

野菜・果物を含めたバランスのよい食事を

なお、生活習慣病を防ぐ食生活としては、よく「野菜・果物を積極的に摂取しましょう」と言われますが、これらは前立腺がんリスクとの関連がないとされています。前述の大規模追跡調査の他、海外でのさまざまな研究でも、野菜・果物が前立腺がんのリスクを下げるという報告はあまりありません。しかし、リスクを高めるという報告もなく、野菜・果物が胃がん・食道がんなど他の部位のがんや、循環器疾患を予防することには変わりありません。厚労省と国立がん研究センターの研究班では「野菜は毎食、果物は毎日食べて、少なくとも1日400gとること」を推奨しています。

前立腺がんの転移・再発を予防するには、乳製品や肉類の摂取に注意しながら、緑茶を積極的に飲み、野菜や果物をバランスよく食べることが大切と言えそうです。

ポイントまとめ

  • すでに前立腺がんのある場合、もしくは再発や転移が心配な場合は、乳製品や肉類を過剰摂取しないよう意識する。
  • 乳製品や肉類は前立腺がんのリスクになる反面、骨粗鬆症や高血圧、大腸がんなどを予防するため、乳製品は低脂肪のものを選び、肉類は揚げもの、炒め物は避けて、蒸したり焼いたりして脂肪を落とす調理方法を心がけることが大切。
  • 前立腺がんのリスクを下げる可能性のある食品として大豆がある。大豆に含まれるイソフラボンが影響して、限局性前立腺がんにかかるリスクが低下しているというデータがある。
  • 緑茶に多く含まれるカテキンは、がん細胞の増殖を抑えると考えられている。
  • 前立腺がんの転移・再発を予防するには、乳製品や肉類の摂取に注意しながら、緑茶を積極的に飲み、野菜や果物をバランスよく食べることが大切。

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