認知が広がる一方で誤解も?
がん患者さんとご家族に役立つ「人生会議」とは[Part-1]

公開日:2020年07月31日

超高齢社会に突入している我が国において、2010年に約120万人だった年間死亡者は、2020年には約140万人、2040年には約168万人※1と今後数十年にわたって大きく増加することが見込まれています。多死社会を迎え、人生の最終段階にある高齢者へ医療やケアを提供する場面が増加することが想定されます。

出生数および死亡数の将来推計

出生数および死亡数の将来推計

こうした社会背景から、厚生労働省では終末期医療についての有識者による検討会を続けており、2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定、さらに2018年には地域包括ケアの構築に対応する必要があることや、欧米を中心に普及してきているACP(アドバンス・ケア・プランニング)の概念を踏まえたガイドラインの改訂が行われました。

ACPとは、「自らが望む人生の最終段階における医療・ケアについて、前もって考え、医療・ケアチーム等と繰り返し話し合い共有する取組み(厚生労働省HPより)」と定義されています。厚生労働省では、ACPの一般への認知向上と普及促進を目指して、公募によりACPの愛称を、より親しみやすい「人生会議」に決定し、2018年11月に公表しました。

がんの終末期や、重篤な疾患を患(わずら)って生命に危険が迫ったとき、患者さんは自分が望む医療やケアについて、ご自身で決められなくなったり、ご家族や医療従事者に伝えることができなくなったりする状況を想定して、あらかじめご自身が大切にしていることや価値観、いざというときにどういった医療やケアを望むかを考え、信頼する人たちと話し合い共有する「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」。その重要性が説かれる一方で、ACPについては一般の人だけでなく、医療者の間でもその捉え方にかなり幅があるといいます。

今回は、亀田総合病院(千葉県)の医師が中心となって立ち上げた、国内でも早くからACPの啓発活動に取り組んでいる、一般社団法人「Institute of Advance Care Planning(iACP)」の蔵本 浩一(くらもと こういち)先生、原澤 慶太郎(はらさわ けいたろう)先生、大川 薫(おおかわ かおる)先生にお話を伺いました。

※1 内閣府「令和元年版高齢社会白書」出生数および死亡数の将来推計より

目次

地域住民とともに“もしもの時”を話し合うワークショップからスタート

いまだ新型コロナ禍の影響がある中で、本日はオンラインでお話を伺う機会をいただき、ありがとうございます。まず先生方のご経歴と、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)に関わったきっかけをお教えください。
蔵本先生

千葉県鴨川市にある亀田総合病院の疼痛・緩和ケア科と地域医療連携室に医師として勤務しています。救急や僻地でのローテーション研修、総合病院の消化器内科、感染症科での研修を経て、緩和ケア医を志しました。2010年に緩和ケア科のフェローとしてこの病院に赴任し、今年で11年目になります。

原澤先生

家庭医療専門医と在宅医療専門医の資格をもつ、17年目の医師です。初期研修から15年間、亀田総合病院に勤めました。東日本大震災に際しては2年間、福島県南相馬市で診療する機会を頂きました。2018年に都内で開業し、在宅診療や緩和ケアを中心に診療をしています。

大川先生

亀田総合病院で在宅診療科と地域医療支援部を兼務しています。内科全般を学んだあと家庭医療専門医となり、現在は訪問診療で患者さんの診療と、病院・地域・行政のハブとして地域医療支援部の業務をしています。

蔵本 浩一 先生

蔵本 浩一 先生

原澤 慶太郎 先生

原澤 慶太郎 先生

大川 薫 先生

大川 薫 先生

蔵本先生

ACPとの関わりは、2013年に亀田総合病院の緩和ケアチーム、在宅診療部、総合内科、地域医療連携室などの有志で結成した「ACP-A[Advance Care Planning in AWA(安房)]」の取り組みがきっかけです。

命に関わる病気やケガのため救急で運ばれてくる患者さんの多くは、治療やケアについて、事前に家族との意思共有ができておらず、切迫した状況の中で対応する医療従事者も含めてみんなが困っている状況でした。

そのような中で、大川先生からの発案で、亀田総合病院がある安房地域の住民と一緒に、もしもの時のことを考えるワークショップを開催したのがはじまりです。医療従事者はあらかじめ「もしものとき」のことを考えておく大切さを知っているけれど、一般の方はどう考えるのか。それが知りたいと思いました。

大川先生

急性期の入院を担当していた頃に、もしものときについて話し合っていないがために、急に判断を迫られたご家族が困惑することをたくさん経験しました。また、回復が見込めない患者さんの場合には、蘇生処置や人工呼吸器をつけることに迷いもありました。
一方、訪問診療をするようになってから、神経難病の患者さんが人工呼吸器や胃ろうをつけて、旅行や講演などアクティブに長く療養されている姿を目の当たりにしました。

ある意味両極端な状況に直面し、どう捉えていったらいいのかを考える機会を作りたいと思い、蔵本先生に話をしたのです。ただし、医療従事者が考えを示して押し付けるのではなく、地域住民の方々と一緒に考えたいというのが発端でした。

原澤先生

私は東日本大震災の際、亀田総合病院から出向し、2011年11月から2年間、福島県南相馬市で外来と病棟、訪問診療などを行っていました。震災を経験された方々の中には、サバイバーズ・ギルト※2を感じられたり、延命することの意義について悩まれたりする方もおられました。また医師・看護師不足で医療体制が不十分ななか、事前指示書とは何なのか分からない、あるいはどこからが延命治療なのか、というお声もありました。こういったお声を受けて、夕方に診療が終わってから集会所で講演や座談会を行っていました。

※2 災害や事故、事件などに遭いながらも助かった人が、自分が生き残ったことに対する罪悪感や後ろめたさ、自責の念に苛まれること

2013年の秋、亀田総合病院に帰還すると、蔵本先生と大川先生がこうしたテーマで活動を始めており、私もACP-Aの活動に参加しました。

蔵本先生

当初は「ACPを知る」という目的のもとで、死に直面した患者さんの延命をするかどうかについてご家族の意見が割れる、という内容で作られた動画を観た後に、登場人物それぞれの気持ちを想像して話し合うワークショップをしていました。ただ、それはあくまで第三者の視点から見てのことでした。

そこで、次のステップとして、より自分事としてACPに触れてもらうために良い方法はないかと考えていたところ、「もしものときのための話し合い」をゲーム感覚でできる「GO WISH GAME」というカードゲームが海外にあることを知りました。

日本語版(もしバナゲーム™)を出版するために一般社団法人iACPを立ち上げ、本国の作成元と契約を結びました。さまざまな地域や団体から講演会やワークショップの依頼を受けたり、このゲームをより深く知りたい方向けの教育プログラムを主催しながら今日に至ります。

ACPの認知は広がっている一方、誤解されている部分もある

――厚生労働省はACPを「人生会議」の愛称のもと、国民に広く周知しようと努めています。2019年11月には有名タレントを起用したポスターのデザインが「死を想起させる」などの理由で炎上し、皮肉なことにこれを機にACPを知った人もいたようでした。
蔵本先生

「人生会議」もそうですが、私たちが活動をはじめて以降、「高齢多死時代」という言葉をよく目にするようになり、それに呼応するかのように緩和ケアの注目度が高まったり、また著名人ががんで亡くなったりして、ACPの注目度が高まったとは感じています。

厚生労働省も国策としてACPを推進していて、その流れの一つが人生会議の周知だと思います。最近は医療に無関係の知人からも「人生会議って大切だよね」と声をかけられるようになりました。

「もしものとき」について話し合おう

「人生会議」学習サイト(厚生労働省・神戸大学)
https://www.med.kobe-u.ac.jp/jinsei/

原澤先生

たしかに認識は広まってきたのですが、その一方で、「ACPは行うべきもの」と捉えている医療従事者が少なからずいることは気がかりです。ご本人のこころの準備がないまま、「なにかを決めること」を前提に行われる話し合いは、プロセスを重視するACPの本旨からはかけ離れており、ご本人の意向が反映されない歪んだものになってしまう危険があります。ACPは医療提供側の都合だけで行うものではありません。「人生会議」という言葉が広まったことで、間違った認識も広まっていると感じることがあります。

大川先生

15年ほど前には「親を胃ろうにさせない10か条」が週刊誌で流行り、10年前ごろからは「終活」が注目され葬祭業者、行政の動きも加わっています。今回の人生会議の炎上騒動は、こうした流れの延長にSNSを通して起きたようにみえます。

「縁起でもない話」と避けては通れない大切なテーマなので、媒体を変えて注目されてきたんだと思います。ただし、ACPは難しい概念なので、ある一部分だけが伝わってしまっているような気もしますね。(後編に続く)

次回予告ACP(人生会議)の認知が広がりつつある一方で、「(事前の話し合いを)行うべきもの」という誤解が、一般の方だけでなく、医療従事者にも生じているとiACP の先生方はいいます。「ACPは大切なことなので行うべき」という考えが誤解とはどういうことなのでしょうか?後編ではより詳しいお話と、ACPのハードルを下げるツールとして役立つ「もしバナゲーム」について伺います。

ポイントまとめ

  • ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、万が一のときに備えて、大切にしていることや望み、希望する医療やケアについて自分自身で考えたり、家族、医療従事者など信頼できる人と話し合ったりして考えを共有しておくこと
  • 日本でも高齢・多死社会を迎えて、ACPの重要性がいわれるようになり、厚生労働省は「人生会議」の愛称で普及を目指している
  • ACPの認知度が高まってきた一方で、ACPを誤解したり部分的な理解にとどまったりしているケースが見られる

取材にご協力いただいたドクター

蔵本 浩一 (くらもと こういち) 先生

iACP共同代表 /医療法人鉄蕉会 亀田総合病院 疼痛・緩和ケア科/地域医療連携室 医師

原澤 慶太郎 (はらさわ けいたろう) 先生

iACP共同代表 /はな医院 院長 /医療法人鉄蕉会 亀田総合病院 在宅診療科 非常勤医師 医師

大川 薫 (おおかわ かおる) 先生

iACP理事 /医療法人鉄蕉会 亀田総合病院 在宅診療科 部長 地域医療支援部 部長 兼務 医師

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