【医療情勢 I 】災害時のがん治療と避難生活で注意すべきこと

公開日:2016年06月30日

目次

 いつ襲われるかわからない大規模自然災害。被災した場合に、がん患者さんとその家族はどのように行動すればいいのでしょうか。災害発生時におけるがん患者さんのための治療や避難生活について、知っておくと役に立つ情報をまとめました。

がん患者であることを知らせる

 治療の継続や感染症予防のためにも、がん患者であること、あるいは家族の中にがん患者がいることを避難所などに伝えましょう。早めに病気のことを伝えておけば、感染症予防のための衛生状態の配慮などさまざまなサポートを受けやすくなります。また、自宅にとどまる場合でも、救援・支援対象から外れないように、必ずその旨を伝えてください。

【避難する場合】
避難所などで集団生活をする場合、がん治療中であることを避難所の運営者や医療従事者(医師、看護師、保健師など)や健康・衛生管理の担当者に伝えます。親戚や知人宅に避難する場合は、所在情報を近くの避難所に伝えておきましょう。

【自宅にとどまる場合】
所在情報を近くの避難所や役所などに伝えておきましょう。自宅避難をしていることを避難所や役所に伝えておくと、その後の情報が入りやすくなります。

akiramenai_gk201607_ij01_img_01

治療再開を急ぐ必要があるかどうかを判断する

 がん治療を受けている場合、災害で治療が中断されることに大きな不安を持つでしょう。抗がん剤による治療は、胃がん、肺がん、大腸がんなど、たいていのがんの場合、1〜2週間程度遅れても、病状が進行することはないので、まずは不安を鎮めて落ちていてください。

ただし、再開を急ぐ必要があるがん治療もあります。白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など血液のがん、胚細胞腫 、その他の特殊な腫瘍です。これらに該当するがん患者さんとその家族は、がん治療を受けている病院に受診可能かどうかを相談しましょう。

いつも治療を受けている病院に連絡が取れない場合には、地域のがん診療連携拠点病院のがん相談支援センターに連絡してください。また、国立がん研究センターがん対策情報センターが運営する「がん情報サービス」のサイト では災害発生地やその周辺地域のがん診療連携拠点病院などの状況について情報が得られます。携帯電話、スマートフォン、パソコンなどの通信手段があればアクセスできます。

また、避難所は通常は医療従事者(医師、看護師、保健師など)が巡回するようになります。患者さん自身や家族で解決できない場合には、避難所の医療従事者に相談してください。もし医療従事者がいなければ、避難所の責任者に相談し、対応策を探しましょう。患者さん一人で、あるいは家族だけで不安や問題を抱え込まないようにしましょう。

治療に必要な薬の確保と服用について

 飲み薬の抗がん剤が手元にあり、服用方法がわかっている場合には、体調が普段と変わりなければ服用を続けましょう。がん患者さんが服用している薬の1つがオピオイド鎮痛薬(医療用麻薬)です。発生した災害の規模や被災地の状況にもよりますが、たいていの病院や薬局で薬を受け取ることは可能です。

いつもと同じ薬が入手できない場合には、代わりの鎮痛薬で対応することもできるので、病院や薬局で相談しましょう。必要な薬がない場合、あるいは服用方法がわからない場合には、近くの病院や薬局に連絡してください。それができない場合には、避難所の運営スタッフに頼むか、避難している方々に情報を求め、 薬剤師や医師と連絡をとる手助けをしてもらいましょう。

なお、大規模災害時で病院や診療所を受診できない場合には、処方箋や薬がなくても、保険薬局にお薬手帳や薬袋を持参すれば薬を受け取れたり、保険証の提示や現金の支払いをしなくても医療機関で受診したり、薬を受け取れる緊急支援体制がとられることがあります。通信手段を確保してこうした情報をチェックするように努めましょう。

感染症に注意! ガレキの撤去やヘドロの除去は控えて

 抗がん剤治療中は抵抗力が低下しているので、感染症予防を心がけてください。特に2週間くらい前に静脈からの抗がん剤治療を受けた患者さんは、白血球が減少してくる時期なので感染しないように注意が必要です。

被災の後片付けで屋外に出るのは避けましょう。ケガをしたときに重症感染を起こす危険があるからです。被災した自宅の片付けなど気になるとは思いますが、ガレキ撤去やヘドロ除去、倒壊した家屋の掃除なども控えてください。体調を整えることを優先しましょう。やむを得ず家屋の清掃などをする際には、感染症を予防するために、マスクだけではなく手袋もつけるようにしてください。

避難所などで集団生活を送る場合には、ノロウイルスやインフルエンザなどの感染症にも注意が必要です。感染症予防の基本はうがいと手洗い、そしてマスク着用です。水が不足している場合、うがいは水を少量ずつ口に含んで吐き出すことをくり返し、手洗いの代わりにアルコール入りの消毒薬で手指の清潔に努めてください。

38℃以上の発熱は、感染症の疑いがあります。災害時の感染症は重症になる恐れがあるので受診が必要です。近くに病院がない場合には避難所を巡回している医療従事者に相談しましょう。また、病院で処方された抗菌薬が手元にあればすぐに内服してください。

エコノミークラス症候群に注意! 運動と水分補給で予防を

 エコノミークラス症候群(静脈血栓症特に肺血栓塞栓症)は生命に危機が及ぶことがあるので予防が重要です。長時間同じ姿勢でいて足を動かさないと、ふくらはぎの筋肉のポンプ作用が弱まるために血行が悪くなり、血栓ができやすくなります。

急に立ち上がって歩き始めた時などにその血栓が剥がれ、血管を通って肺に流れて詰まらせるのがエコノミークラス症候群です。災害時には、自動車内や避難所などの狭い場所で長時間寝たまま、座ったままで過ごす場合に起こりやすくなります。

特にがん患者さんは、がんや治療の影響などで、通常でもこのエコノミークラス症候群が起こりやすいといわれていますので、災害時は特に予防に努めなければなりません。予防の第1は足を動かすことです。足や足の指をこまめに動かしたり、1時間に1回はかかとの上下運動(20〜30回程度)をしたりするように心がけましょう。また、ふくらはぎのマッサージや3〜5分ほど歩くのも効果があります。

また、水分が不足すると、血液が濃縮して血栓ができやすくなります。トイレに行く回数を減らそうと水分摂取を控えると、脱水症状となり、血栓ができやすくなります。適度な水分補給を心がけましょう。万が一、ふくらはぎや、膝の裏、腿の周辺が痛くなったり、赤く腫れたりした際には、すぐに医療機関で受診してください。

また、長時間じっとしていた後で動き出した際に、急に呼吸が苦しくなったり、胸が痛くなったりという自覚症状があれば、足にできた血栓が肺に詰まっている疑いがあるので、すぐに治療を受ける必要があります。

2015年9月号でも、がん闘病中の防災対策について取り上げています。 併せてご参照ください。

【参考】
国立がん研究センター 熊本地震関連情報

がん情報サービス 大規模災害に対する備え

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。