終末期のがん患者さんがかかえる苦痛に「緩和ケア」のさらなる充実を【トピックス】

公開日:2019年03月29日
終末期のがん患者さんがかかえる苦痛に「緩和ケア」のさらなる充実を

国立がん研究センターは全国のがん患者さんの遺族を対象に、がん患者さんの終末期における苦痛や療養状況に関する調査を全国で初めて実施しました。調査の結果、終末期のがん患者さんの半数程度が苦痛を抱えていることが明らかになり、治療やケアの質の改善が必要であることが示唆されました。

当トピックスでは、国立がん研究センターの調査内容と、「緩和ケア」について詳しくご紹介します。

目次

約半数が「穏やかな気持ちで過ごせた」、約3割が「激しい痛み」

2018年12月に、国立研究開発法人国立がん研究センターが、全国の遺族約4,800人を対象に患者さんの終末期における医療や療養生活の実態に関する予備調査を実施※しました。対象は、「がん」「心疾患」「肺炎」「脳血管疾患」「腎不全」で亡くなった患者さんのご遺族です。このような内容の全国的な遺族調査は、国内で初めてです。

調査によると、亡くなる1カ月前にがん患者さんが「痛みが少なく過ごせた」割合は約52%、痛みを含めた「身体の苦痛が少なく過ごせた」割合が約48%、「穏やかな気持ちで過ごせた」割合が約53%となっています。

終末期のがん患者さんの半数程度が痛みもしくは、身体の何らかの苦痛、気持ちのつらさを感じて過ごしており、 亡くなる1週間前の時点では、約28%の患者さんが強い痛みを抱えていたことも明らかになりました。

がんの終末期になると、骨転移やがんによる神経障害性疼痛などの痛み、全身の倦怠感、せん妄(何らかの原因で脳が機能不全を起こすことによって生じる軽い意識障害)、発熱などさまざまな症状が生じます。このような苦痛に対し「緩和ケア」を充実させ、患者さんの身体的、精神的苦痛を取り除くことが重要になります。

国立がん研究センターがん対策情報センター
「患者が受けた医療に関する遺族の方々への調査」
https://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/sup/project/090/result/H29cyousakekka_houkokusyo.pdf

緩和ケアとは?
患者さんとご家族が自分らしく過ごすためのケア

緩和ケアとは? 患者さんとご家族が自分らしく過ごすためのケア

緩和ケアとは、「重い病を抱える患者さんやそのご家族一人ひとりの身体や心などのさまざまなつらさをやわらげ、より豊かな人生を送ることができるように支えていくケア(特定非営利活動法人日本緩和医療学会による『市民に向けた緩和ケアの説明文』)」とされています。

がんそのものの治療だけでなく、患者さんの心と身体の痛みとご家族の精神的なダメージをケアするという考え方です。「緩和」と聞くと手の施しようがない人や延命治療しか望めない患者さんに対するケアと思っている人は少なくありません。

しかし、がんの緩和ケアは、がんが見つかったときから治療中も必要に応じて行われるべきものとされています。初期の段階から緩和ケアに取り組むことで、患者さんとご家族が可能な限り質の高い治療・療養生活を送ることができるのです。再発・転移の場合は特に、がんの進行を抑えると同時にがんによる症状を緩和ケアによってやわらげることでQOL(生活の質)の向上につながります。

・身体的なケア
手術や抗がん剤・放射線治療の副作用による痛み、吐き気などの症状に対し、治療や食事のアドバイスなどを行います。
・精神的なケア
診断直後の気持ちの落ち込みなどに対し、緩和ケアチームに所属する心のケアの専門家がカウンセリングや心理検査を行います。患者さんのご家族に対してもケアします。
・社会的なケア
経済面での支援や、療養生活に関わるケアです。「緩和ケア診療加算」などの負担に対する助成制度や経済的問題などについて、ソーシャルワーカーに相談することができます。また、在宅医療を地域のケアマネージャーがサポートするなど、療養生活に関する支援もあります。

自分らしく生きるためにはどのようなケアを受けたいのか、事前に患者さんとご家族で話し合うことも大切です。特に終末期で治療の効果があまり期待できなくなった時に、自分はどう過ごしたいのか、ご家族や主治医など周囲の人たちとしっかり相談しておけるとよいでしょう。

ポイントまとめ

  • ・終末期を迎えた患者さんの約半数が何らかの苦痛、気持ちのつらさを感じて過ごしており、激しい痛みを訴える患者さんも約3割に上る
  • ・闘病生活において、患者さんとそのご家族の身体面と精神面の苦痛をやわらげる「緩和ケア」が重要
  • ・「自分らしく生きる」ために終末期においてどのような緩和ケアを受けたいか、事前に話し合うことが大切

コラム:身体面・精神面・社会面で不安を感じたら

身体面・精神面・社会面で不安を感じたら

がんと向き合う中で、「再発していると言われて不安でたまらない」といった精神的な不安や「治療の間、家族の介護や育児のことが心配」といった社会・生活面での心配事は尽きません。国立がん研究センターがん対策情報センター(https://ganjoho.jp/hikkei/home.html)ではさまざまな情報を提供しています。

例えば、再発に対する不安に対しては「いつも明るくしている必要はありませんし、元気なふりをする必要もありません」などとアドバイスしています。介護や育児の不安については、がん相談支援センターや地域の療養情報を案内しています。

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