【QOL(生活の質)】メディカルメイクアップで日常を楽しむ

公開日:2014年02月28日

目次

メイクの力で手術後や抗癌剤の副作用(皮膚症状)を隠す

 抗がん剤や分子標的薬による副作用の中には、痛みや吐き気などの身体的苦痛以外に、発疹、紅斑、白斑、色素沈着など皮膚に対するものも少なくありません。皮膚への症状が顔や手、指など人目につく部位に生じてしまうこともあります。

 投薬がやめられるまで付き合わざるを得ない皮膚の副作用の解決方法として医療的なメイク技術『メディカルメイクアップ』があります。メディカルメイクアップは、あざ、傷、白斑、凹凸、手術痕、血管腫、タトゥー、抗がん剤の副作用など全身各部位の皮膚変化・変色に用いられており、その考え方は「顔色をよく見せる」「シミやくすみを隠す」といった通常の化粧と同様です。

 メディカルメイクアップのために開発されたファンデーションを使って、皮膚の症状が出ているところを隠します。隠した後は上から、市販の化粧品をつけることも可能です。

 NPO法人『メディカルメイクアップアソシエーション(以下、MMA)』の理事を務める小井塚さんは「メディカルメイクアップに使うファンデーションは、簡単にいえば絵の具みたいなもので、色を掛け合わせることで微妙な色あいが作り出せます。だからどんな皮膚でも自然な感じにカバーすることができます。

 実際に化粧品を使用する際は『部位や皮膚の状態・色などさまざまな条件を考慮したファンデーションの色の調合や、厚ぼったくならず、しっとりした肌感を出し、肌を傷めない塗布の仕方』などのある程度の技術面の習得が必要です」と語ります。

 小井塚さんもメディカルメイクアップをしている当事者で「私自身、顔に先天性の色素沈着があるのですが、10代の頃にメディカルメイクアップと出会って、人生が変わりました」と語ります。

 一度メディカルメイクアップの化粧品メーカーに就職し、長年、利用者と接するうち、「ビジネスという枠に縛られず、より多くの患者さんにメディカルメイクアップを知ってほしい、そして、メイクに必要な技術も広めたい」との想いから、勤めていた会社の協力を受け、2001年にNPOを立ち上げました。MMAではメディカルメイクアップの技術的な指導・啓発と、それを担う、サポーターと呼ばれるボランティア技術者を育成・認定しています。

qol_201403_01_before

qol_201403_01_after

qol_201403_02_befor

qol_201403_02_after

qol_201403_03_before

qol_201403_03_after

まさに『ナチュラルな肌』が生み出される

 「ただ、技術を強調しているのは必要なことだからであって、決して難しいものではありません。何度か練習することで、皆さんそれなりに上達していきます」(小井塚さん)。「感覚で慣れていけるもの」で、ある程度技術を習得すれば、単に皮膚を覆うだけではない、ナチュラルな肌を作ることができるそうです。

 メイク後は、頬紅など簡単な通常のメイクもできて、さらにパウダー等の使用により、汗はもちろん、プールや温泉に入っても落ちない状態をキープ可能です。メイクはクレンジングで簡単に落とせて、無香料・無添加です。

 「高校卒業以来、かれこれ45年近くほぼ毎日使っていますけど、とにかく違和感がありません。」(小井塚さん)ちなみに化粧品は下地クリーム、ファンデーション、パウダーなど一式揃えて1万円前後。最初は多くつけすぎがちなため1ヵ月くらいで使い切るケースが多いものの、慣れてくれば2~3ヵ月弱は持つので、毎月、一般的な化粧品1個分程度の値段で済んでしまうそうです。

 相談・施術は、東京、札幌、大阪などのMMAの拠点、もしくはMMAの活動に賛同した全国11ヵ所の病院、5ヵ所のクリニックでメディカルメイクアップの施術を行う外来が開設されているほか、各地のサポーターが拠点とする地域のボランティアセンターなど公共の施設でも受けられる。

がん患者団体との連携も好調

 「昨年の6月と9月、がん患者やその家族の方たちを支援するアメリカの『リブストロング財団』の取り組みや計画を日本で支援する『ジャパンフォーリブストロング(以下、JPLS)』の方たちに招かれて、メディカルメイクアップの体験会を開いたんです。

 抗がん剤の副作用で顔色が悪かったり、色素沈着が起きている方に、メイクの仕方を伝えました。私も小井塚さんも当事者なので、相談しやすいし、自然と親身に応じられますね」(事務局 高木さん)その和気あいあいとした雰囲気は、JPLSが企画・運営に携わっている「Over Cancer Together~がんを共にのりこえよう」キャンペーンのホームページに載せられた画像からも大いに伝わってきます。

 イベントレポートの締めには「この体験会をきっかけとして、がんサバイバーの方々のアピアランスケア(外観ケア)が社会に広まることを願っています」との一文が掲載されています。

このほか、ピンクリボン運動を推進する関連団体から患者さんを紹介されたり、『リレー・フォー・ライフ・ジャパン(以下、RFL)』にも参加して啓発活動をしているそうです。「おかげさまで、がん患者さんの団体にもメディカルメイクアップが浸透してきたようで、少しずつ、患者さんの紹介は増えていますね」(小井塚さん)

 今後もメディカルメイクアップの普及促進に尽力していきたいと話す小井塚さんと高木さん。そんなMMAにとって、目下の課題は『より病院と連携した形での施術の実施』とのことです。公民館などで施術を受けるのは、プライバシーなどの不安から二の足を踏んでいる患者さんがいらっしゃるそうです。

 また、メディカルメイクアップは基本的に皮膚科、形成外科などの先生から依頼が多いため、がん患者さんの場合、自分の受診している科では受けられないという問題がでてくるそうです。将来的には病院の決まった科のもとではなく、院内に施術するスペースを設置したり、門前薬局のように病院の近くに施術所を作るなどして、患者さんのフォローをしていきたいと小井塚さんは語ります。

 がん患者さんのQOL、ADLを間違いなく向上させ続けているメディカルメイクアップ。今後、がん治療におけるスタンダードになっていくことが望まれる、医療的ケアのひとつです。

■NPO法人メディカルメイクアップアソシエーション
〒162-0822 東京都新宿区下宮比町2-18
グランドメゾン飯田橋1102
TEL: 03-5261-7320 / FAX: 03-5261-7322
HP:http://www.medical-makeup.net
Email:info@medical-makeup.net

 

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。