【最新医療】がんと「胃ろう」で患者が知っておきたいこと

公開日:2012年08月31日

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本来は短期的な栄養補給が目的

がんの治療を続けていると、抗がん剤などの副作用で食欲が落ちたり、また、手術の影響で口から食事がとれなくなることがあります。そのままでは体力が弱ってしまいますから、何らかの方法で栄養を補給することになりますが、ここで患者さんや家族が頭を悩ませるのが「胃ろう」の問題です。

胃ろうとは、腹部に穴を開けて栄養剤や流動食を胃に直接送り込むためのチューブを設置する方法です。口からの食事(経口摂取)ではなく、直接消化管に栄養を送り込む「経腸栄養」の一種で、医学的には「PEG(ペグ)」と呼ばれることもあります。本来は、一時的に口から食べられなくなった患者さんが、回復するまでの”つなぎ”の処置とされてきましたが、現在は高齢者や、がん患者にも適用されています。

胃ろうを付けるのはどんなとき?

医師コミュニティサイト「MedPeer」(https://medpeer.jp/)の調査によると、「経口摂取困難な脳転移再発症例に対し、どのような栄養療法を行いますか?」という質問に対し、「胃ろう(PEG)造設」と回答した医師が53%で最多で、「経管栄養法」は30%、「中心静脈栄養法(末梢静脈栄養)」は6%、「その他」は11%でした。胃ろうを選んだ医師からは、「管理しやすく誤嚥等少ない」「経鼻胃管は苦痛」「転院、自宅管理することを考えたら、胃ろうしかない」といったコメントがみられました。

現在、胃ろうの適用に関する明確な基準はありませんが、「NPO法人PEGドクターズネットワーク」の「医学的にみた適応のアルゴリズム」では、主に下記の要件にあてはまる場合としています。

●生命予後が1カ月以上ある
●胃ろうに耐えられる全身状態である
●何らかの理由で経口摂取(口からの食事)ができないが、正常な消化吸収機能を維持している
●経腸栄養を行う期間が4週間以上ある

患者本人の意思の尊重が最優先

では、なぜ患者さんや家族が胃ろうの造設で悩むかというと、「がんが完治するわけでないのであれば、体に負担をかけてまで延命することはない」という気持ちと、「少しでも命を長らえさせたい」という気持ちのジレンマが生じるからです。仮に胃ろうを造ったことをあとから後悔して中止しようとなると、すでに他の栄養補給の方法ができない状態になっていて、必要最小限の水分補給をして死にいたることを覚悟しなければならない場合もあります。
医師の間でも、胃ろうの造設については意見が分かれており、患者さんや家族はどうするべきか迷ってしまうのです。

そこで大切になるのが、患者さん本人の気持ちです。前出のPEGドクターズネットワークでは、単に医学的に胃ろうが適応となるだけではなく、倫理面も考慮した適応基準がきわめて重要であるとしています。「倫理面を考慮した胃ろう適応のアルゴリズム」として、下記の要件を挙げています。

◎患者に健全な自己判断能力があり意思表示がきる
◎患者が胃ろうを望む
◎胃ろうが医学的に有効である

患者自身が意思表示できない場合は「発症前に患者の意思表示がある」や「代理人(家族など)が胃ろうを望む」ことが要件になっています。
最後の「代理人が胃ろうを望む」に関しては、医療界全体でさまざまな議論がなされており、代理人が望むからといって本人の同意なしに胃ろうを造設できるとは限りません。しかし、いずれにしても大切なのは、「胃ろうをどうするか」を、患者さん本人や家族で話し合っておくことです。

医学界の動きと、家族内の話し合いの大切さ

今年1月、日本老年医学会は高齢者の終末期における胃ろうなどの人工的水分・栄養補給について、「治療の差し控えや撤退も選択肢」との見解を示しました。また、6月には「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」を発表し、胃ろうなどの栄養補給で延命が期待できたとしても、本人の意思にそぐわない場合は、複数の医療関係者と本人・家族らの合意のうえで差し控えが可能としました。
がん患者と言うより、認知症などを患う高齢者の医療を想定した見解で、かつ医療や介護従事者向けのガイドラインですが、家族内で話し合う際の1つの参考になる部分もあります。例えば、患者さん本人は、症状の浮き沈みによっていつでも話し合いに参加できるとは限りませんが、同ガイドラインの「医療・介護における意思決定プロセス」には下記の要項があります。

(A)本人の意思確認ができる時
1、本人を中心に話し合って、合意を目指す。
2、家族の当事者性の程度に応じて、家族にも参加していただく。また、近い将来本人の意思確認ができなくなる事態が予想される場合はとくに、意思確認ができるうちから家族も参加していただき、本人の意思確認ができなくなった時のバトンタッチがスムースにできるようにする。

(B)本人の意思確認ができない時
3、家族と共に、本人の意思と最善について検討し、家族の事情も考え併せながら、合意を目指す。
4、本人の意思確認ができなくなっても、本人の対応する力に応じて、本人と話し合い、またその気持ちを大事にする。

ここでポイントとなるのは、「近い将来本人の意思確認ができなくなる事態が予想される場合」と「本人の意思と最善について検討」という部分です。症状の重いがんの患者さんや家族は、先々のことを考えるのが辛く感じられることも少なくありません。しかし、できるだけ豊かな療養生活や、悔いのない最期を迎えるには、可能な範囲で胃ろうについて話し合うことを視野にいれておきましょう。

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