知っておきたい肺がん検診と予防の新常識[Part-2]
「タバコと肺がん」

公開日:2020年11月30日
東北医科薬科大学 光学診療部
佐川 元保(さがわ もとやす)先生

前回は肺がん検診の種類や有効性について伺いました。後編では引き続き、東北医科薬科大学の佐川元保(さがわもとやす)先生に、肺がん予防では無視できない「タバコの害」などについて、研究結果などを交えて詳しく解説いただきます。

目次

アジア人は欧米人より、タバコを吸わない人でも肺がんになりやすい

「タバコを吸っていても肺がんにならない人もいますが、本当に関係があるのでしょうか」といった質問をよく受けます。確かに、喫煙者でも肺がんにならない人もいますし、非喫煙者で肺がんになる人もいます。がんはさまざまな要因が働きますので、タバコだけが肺がんの原因になるわけではありません。

しかし、何万人もの大勢の人を長期間にわたって追跡し、病気のなりやすさを見た研究が世界中でたくさん行われており、日本での結果も含めて「タバコを吸っている人は、吸っていない人に比べて、肺がんになる確率が数倍高い」という結果が出ています。つまり科学的には「タバコと肺がんに大きな関係があることは明白」と言えます。タバコを吸うと、肺がんだけでなく、喉頭がんや舌がん、食道がん、咽頭がんなど、多くのがんにかかりやすくなることが、すでに明らかとなっています。さらには、心筋梗塞をはじめとするさまざまな血管病にも大きな悪影響のあることがわかっています。

また、最近わかってきたことの一つに、欧米人とアジア人では、タバコと肺がんの関係が少し異なるということがあります。やはり数万人を追跡して調査した研究の結果、欧米人では「タバコを吸っていない人」はあまり肺がんにならないのに対して、アジア人では、タバコを吸っている人よりは少ないものの、「タバコを吸わない人」でも相当数が肺がんになることがわかりました。

実際に、日本の最新統計でも、肺がんで亡くなる人のうち、男性は3分の1以上、女性ではなんと約8割が「タバコを吸わない人」という報告があります。「自分はタバコを吸っていないから、肺がんは大丈夫」ということはないのです。もちろんタバコを吸っている人は、吸わない人より数倍も肺がんになりやすいので、禁煙は大切です。

タバコは副流煙が恐ろしい、「軽いタバコ」などない

タバコは副流煙が恐ろしい、「軽いタバコ」などない

タバコの煙の中には約4000種類の化学物質があり、そのうちの200種類くらいが有害物質で、40種類ほどの発がん物質を含んでいると言われています。例えば、ニコチン、タール、ヒ素、ダイオキシン、ベンツピレン、一酸化炭素などで、皆さんもご存じのようにヒ素やダイオキシンには強い毒性があります。

たばこの煙には、口腔内に発生する「主流煙」と、吐き出された「呼出煙」、点火部から立ち昇る「副流煙」があります。ある報告では、有害物質の発生は主流煙よりも副流煙の方が多く、ニコチンは3倍、一酸化炭素は5倍、アンモニアは46倍です。つまり非喫煙者でも、喫煙者の周囲にいるだけで有害な煙を吸ってしまうわけです。

「私は軽いタバコを選んで吸っているので、害は少ないと思っています」──。これもよく聞く言葉です。確かに、ずいぶん前から「軽いタバコ」が増えています。しかし、タバコの箱に記載されているニコチンやタールの含有量は機械で測定した数値であり、実際に人が喫煙する場合とは大きな差があります。

具体的には、人は1回当たり500mlほどの呼吸量(換気量)で、1分間に10回程度は呼吸しますが、ニコチン・タールの標準的な測定方法は「1分間に2秒間だけ35ml吸う機械」で測っており、相当に少ない呼吸量で測定されているわけです。

また、紙巻きタバコには、フィルターに近い紙巻部分に小さな孔が多数開いていて、ここから空気が入ることでニコチン・タールの濃度を薄めてもいます。しかし、人がタバコを吸う際には、この孔がちょうど指で塞がれる位置にあり、機械で測定するよりもずっと濃度の高い煙、すなわち、より多くの有害物質が肺に入ります。加えて、「人間は、ニコチン濃度が低いタバコを吸う場合には、より深く・多く吸おうとする」ことも判明しています。

タバコは副流煙が恐ろしい、「軽いタバコ」などない

図1 「軽い」タバコには小さな孔(赤矢印)がある

市販のさまざまなタバコをボランティアの人に吸ってもらい、体内に入ったニコチン量を比較した研究もありますが、「ニコチン量が従来品の1/10」との触れ込みで売られているものでも、前述したように「より深く・多く吸ってしまう」ことで、体内に入る実際のニコチン量は1/2程度であったりするなど、吸い方ひとつで吸収される量は大きく変わることが判明しています。ですから、「本当に軽いタバコなどはない」と考えていただきたいです。

新型タバコ(加熱式タバコ)についても触れておきます。確かに、新型タバコは紙巻きタバコよりもある種の有害物質は少ないのですが、逆に多く含まれる有害物質や、従来のタバコには全く存在しなかった有害物質も含まれていることもわかってきました。それらがアレルギーや肺炎を引き起こす場合があるとも危惧されています。

WHO(世界保健機関)やFDA(アメリカ食品医薬品局)などの国際的な信頼できる機関も、「加熱式タバコも有害であり、『害が少ない』というのは誤ったメッセージである」という声明を出しています。

新型コロナは基本的な感染予防策と禁煙、適切な受診が大事

2020年の春から新型コロナ感染症が拡大し、全国的に大きな影響が出ています。新型コロナ感染症と肺がんの間には直接的な関連はありませんが、いくつかの面で間接的な影響があります。

まず、放射線や抗がん剤などで肺がんの治療中の場合には、免疫能が低下するため、新型コロナ感染症が重篤化する可能性があります。次に、すでに手術・放射線・抗がん剤などで治療後の場合には肺機能が低下している場合があり、新型コロナ感染症により肺に異常が出現した場合に、より重篤化しやすいと考えられます。

また、肺がんの患者さんは喫煙者であることが少なくありませんが、喫煙者の場合には肺機能が低下していたり気管支の線毛運動が障害されていたりするので、新型コロナ感染症の影響を受けやすくなることが考えられます。その面からも禁煙は重要です。

さらに、多くの専門的医療機関が新型コロナ感染症への対応に追われる中で、肺がん患者さんの検査や手術が延期されたり、集中治療が受けにくくなったり、という間接的な影響が出ることも考えられます。肺がん検診に関しても、2020年の春~夏には多くの地域で住民検診が見送られるなどの影響が出ており、早期発見のチャンスが失われる人がいるのではないかと危惧されています。

コロナ禍での日常生活で留意すべき点としては、3密を避けることや、飛沫感染・接触感染の防止など、基本的な感染予防策が重要となります。併せて、禁煙がとても大切です。また、外出を恐れるあまり医療機関受診が遅れることも良くないと思われますので、何らかの症状が続く場合には、適切な時期に医療機関へ受診することをお勧めします。

ポイントまとめ

  • 日本人は非喫煙者でも肺がんになる確率が欧米人よりも高い
  • タバコの有害物質は、主流煙よりも副流煙の方が多く、非喫煙者も注意を
  • 喫煙者の体内に入るニコチン・タールの量は、機械で測定するよりもはるかに多く、「軽いタバコ」でも害がある
  • 新型コロナ感染症は、肺がんの診断や治療に影響する可能性がある

取材にご協力いただいたドクター

佐川 元保 (さがわ もとやす) 先生

東北医科薬科大学 光学診療部

東北医科薬科大学医学部教授。日本肺癌学会肺がん検診委員会委員長。専門研究分野は呼吸器外科学、肺癌の診断・治療、がん検診など。南江堂『肺がん検診の位置づけと実際.In:分子標的治療・テクノロジー新時代のあたらしい肺癌現場診断学』など、肺がん検診や治療に関する著書多数。

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