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- 知っておきたい肺がん検診と予防の新常識[Part-1]
「肺がん検診の有効性」
知っておきたい肺がん検診と予防の新常識[Part-1]
「肺がん検診の有効性」

佐川 元保(さがわ もとやす)先生
わが国ではがんの中で死亡率が最も高い肺がん。※1 一方で、早期発見できれば5年生存率は80%超(ステージⅠ)と高く、定期的な検診がとても重要です。呼吸器外科学、腫瘍診断、治療学などを専門とし、日本肺癌学会肺がん検診委員会委員長を務めておられる東北医科薬科大学の佐川元保(さがわ もとやす)先生に、胸部CTをはじめとした肺がん検診に用いられる検査内容と有効性について教えていただきました。
※1 国立がん研究センター がん情報サービスより
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
目次
肺がん検診は、胸部X線と喀痰細胞診を併用
がん検診には、「対策型検診」と「任意型検診」の2種類があります。
「対策型検診」とは、対象集団を設定しその全員をなるべく受診させる方向で検査費用の補助などを行い運営するもので、区市町村が行う「住民健診」や企業の「職域検診」などが挙げられます。
もう一つは「人間ドック」をはじめとした「任意型検診」で、個人の意思と費用負担で受診するものが多いという違いがあります。
現在、日本の対策型肺がん検診は、40歳以上の全員に胸部X線検査を行った上で、重喫煙者(50歳以上で喫煙指数〈1日の喫煙本数×喫煙年数〉600以上の人)のみ、痰を調べる喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん)を併用します。
胸部X線検査(胸部レントゲン検査)は以前からある検査ですが、最近はデジタル撮影が主流になりつつあり、放射線被ばく量の低減と、画質の向上が図られています。肺がん検診は「2人の読影医による二重読影」および「過去画像との比較読影」を行うことが標準とされていますが、実際にはさまざまな方法で読影されています。胸部X線検査は、肺の末梢にできる肺がんを見つけるためのもので、見つけられる大きさには限界があることがわかっています。
喀痰細胞診は、主に胸部X線では見つかりにくい肺の中心部に近い場所にできる早期の肺がんを見つけるための検査で、早朝の痰を3日間集めて提出してもらい、細胞の検査をするのが標準的です。このような「中心部に近い肺がん」は重喫煙者にしかできないことがわかっていますので重喫煙者にしか行いません。
胸部CT検診は放射線被ばくの不利益も

あらゆる検査は、「利益」と「不利益」を天秤にかけて評価する必要があります。例えば肺がん検診では最近、胸部CTが注目されていますが、「不利益」の代表例の「放射線被ばく」が問題となり得る検査です。
医療機関の診療では、症状や検査値の異常などから「何らかの病気を疑って検査を行う」わけです。こうした場合には「精密な画像を詳細に見て判断する」ことが必要なため、標準線量のCTを撮影しますが、これは患者さんにとって有益な検査といえます。
一方で、肺がん検診の対象は「元気な人」であり、「病気があるとは疑っていない人に対する検診」であるため、標準線量のCTほどの精密な画像が必要なわけではありません。むしろ、がん検診は定期的に受けてほしいので、なるべく放射線被ばくを少なくすることが大切だと考えられています。そのため、肺がん検診でCTを用いる場合には、被ばく量が標準線量CTの数分の1以下で済む「低線量」で行うべきであり、「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」でも「標準線量で行うべきではない」と述べられています。
もし医療機関でCT検診を受ける場合には、低線量で実施しているかどうかを確認してから受診した方が良いでしょう。ただし、肺がんリスクが低い40歳未満の方は、放射線被ばくによる不利益を避けるために、低線量であってもCT検診はお勧めできません。
低線量CT検診は、喫煙者には有効?!
一方で、低線量胸部CT検診は数㎜程度の陰影から発見が可能なため、がん発見率は、胸部X線検診の数倍からそれ以上に及ぶという報告もあります。実際に、発見例のうち進行していないがんの割合は高く、そうした患者さんの生存率も高いことがわかっています。

CT(上)では陰影が明瞭だが(赤矢印)X線(下)では淡くて見えない
しかし、「低線量CT検診は、胸部X線検診よりも有効か?」と問われても、簡単には答えられません。その理由は、CT検診でたくさん見つかる肺がんが、「見つけなくても患者さんにとって害のない“天寿がん” (それを持つ患者さんが別の病気で亡くなるまで、患者さんに何の害も症状ももたらさない非常にゆっくり進行するがん)ではないのか?」ということがあるためです。
がん検診で最も重要なのは、「がん検診を受けると、そのがんによる死亡が減る」という点ですが、“天寿がん”の問題があるため、発見率や生存率だけでは有効性は語れないのです。
現行の「胸部X線と喀痰細胞診の併用法」については、2000年代に発表された日本の研究で、肺がんによる死亡を減らすことが報告されていますが、その受診効果は1年しか持たないことがわかっています。
一方、低線量胸部CT検診に関しては、長い間学会で議論されてきましたが、最近になって、喫煙者には有効なようだという論文が発表されました※2。今後、ガイドラインなども改訂されていく可能性が高いと考えられます。
※2 N Eng J Med 2020;382:503-13、N Eng J Med 2011;365:395-409
反面、非喫煙者・軽喫煙者についての研究は極めて少ない状況で、有効性に関する決着はついていません。そのため日本では「非/軽喫煙者に対する低線量胸部CT検診の有効性の検証」に関する研究が現在も進行中です。
肺がんの早期発見・早期治療が完治につながる
肺がん検診を受けて「精密検査が必要です」と言われたら、たいがいの人はドキッとするのではないでしょうか。しかし、それほどビクビクする必要はありません。
たとえば、胸部X線検診では受診者の2~3%、低線量胸部CT検診では受診者の3~10%が「要精密検査」になりますが、その中で肺がんが見つかるのは10人に1人以下です※3。ですから、精密検査と言われたからといって、すぐに「自分は肺がんだ」と悲観する必要はまったくありません。
※3 地域保健・健康増進事業報告、日本CT検診学会精度管理部会報告など
万が一、実際に肺がんだったとしても、症状もない状態で見つかったのであれば早期の場合も多く、完治できる可能性も十分高いと考えられます。
逆に、「肺がんかもしれない」という不安感で精密検査を受診せず放置した結果、翌年に進行した肺がんが発見される例もあるので、「要精密検査」と言われたら必ず受診してください。もし精密検査の受診先が指定されていない場合には、肺がんの診療に精通した施設を選ぶことが重要です。医療機関のホームページなどで調べると良いでしょう。
特に注意してほしいのは、胸部X線や胸部CTではなく、「喀痰細胞診で精密検査が必要」と言われた場合で、少し特殊な状況と言えます。X線やCTでは映らない早期の肺がんや喉頭がんなどが隠れている可能性が高いので、必ず精密検査を受診する必要があります。「喀痰細胞診で精密検査が必要」な例は 、胸部CTでは診断できないことも多く「気管支鏡検査」を実施する必要があるため、喀痰細胞診陽性例の診断に習熟した医師に診てもらうのが望ましいです。そうした医師が見つからない場合には、少なくとも「気管支鏡専門医」が在籍している施設で精密検査を受けることをお勧めします。気管支鏡専門医は、日本呼吸器内視鏡学会のホームページ(http://www.jsre.org/)で知ることができます。
ポイントまとめ
- 肺がん検診は、胸部X線と喀痰細胞診の併用法が主流で、痰を調べる喀痰細胞診は重喫煙者のみに行う
- 胸部CTは放射線被ばくの不利益はあるが、胸部X線よりより小さながんを発見できる
- 肺がん検診で「要精密検査」と言われたら、必ず受診を
- 「喀痰細胞診で精密検査が必要」と言われたら、X線やCTには映らない早期の肺がんや喉頭がんの可能性が高く、特に注意
取材にご協力いただいたドクター

佐川 元保 (さがわ もとやす) 先生
東北医科薬科大学 光学診療部
東北医科薬科大学医学部教授。日本肺癌学会肺がん検診委員会委員長。専門研究分野は呼吸器外科学、肺癌の診断・治療、がん検診など。南江堂『肺がん検診の位置づけと実際.In:分子標的治療・テクノロジー新時代のあたらしい肺癌現場診断学』など、肺がん検診や治療に関する著書多数。
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