受診の遅れでがん進行の懸念も。正しく知って受診したいウィズコロナのがん検診[Part-2]

公開日:2020年10月01日

新型コロナウイルス感染症の影響で一時中止となっていた市区町村のがん検診は、5月下旬に非常事態宣言が解除されるに伴い、その多くが再開されました。とはいえ、いまだ収束しないコロナ禍の中、施設に出向いて検診を受けることに二の足を踏む人も少なからずいると思われます。がん検診を受けることで、新型コロナウイルスに感染する危険性はあるのでしょうか?
Part-1に引き続き、今回はがん検診受診による新型コロナウイルス感染のリスクや、健診施設でとられている感染予防策などについてみていきます。

>>Part-1の記事はこちら

目次

人間ドックやがん検診時における新型コロナウイルス感染のリスクは?

定期的な検診の大切さを理解して、今年の春先にがん検診を受ける予定だったにもかかわらず、新型コロナウイルスの影響から受診できなかったという方もいらっしゃると思います。

新型コロナウイルス感染症により発出されていた緊急事態宣言が、5月25日までにすべて解除されたことに伴い、厚生労働省は関係各所に対し5月26日付で、適切な方法や時期を検討した上で、中止していた健診・検診を再開するよう通知を出しました。これにより、7月末時点では自治体や健診施設で、下表のようながん検診を含む健診が再開されています。

国が推進し、地方自治体で実施するがん検診※1

国が推進し、地方自治体で実施するがん検診

※1 厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針 平成28年2月4日一部改正 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html

しかし、検診が再開されたとはいえ、再び新型コロナウイルス感染症の感染が広がりを見せている現在、人が集まる施設に行って検診を受けることに不安を覚える方も少なくないでしょう。

実際のところ、がん検診時に新型コロナウイルスに感染する危険性はどの程度あるのでしょうか?

例えば、乳がん検診では、一般的に乳房エックス線検査(マンモグラフィ)や乳房超音波検査(エコー)が行われますが、日本乳癌検診学会「乳がん検診にあたっての新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応の手引き※2」を見てみると、以下のような内容が記載されています。

※2 日本乳癌検診学会
「乳がん検診にあたっての新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応の手引き」より
http://www.jabcs.jp/images/covid-guide.pdf

  • 新型コロナウイルス感染症は無症状の感染者もいるため、検診施設に来ている人の中に感染者がいる可能性は100%排除することは出来ない。
  • ウイルスは感染者の肺以外に、唾液、鼻水、喀痰(かくたん)などの上気道の分泌物に多く存在するが、汗や乳頭からの分泌物、血液、尿などには存在する可能性は低い。ウイルスは粘膜に入り込むことによって感染するが、健康な皮膚からは感染しない。
人間ドックやがん検診時における新型コロナウイルス感染のリスクは?

つまり、乳がん検診(マンモグラフィ/乳房超音波検査)においては、日常生活と同様、口、 鼻、目など顔の粘膜からの感染に注意すれば、感染予防対策ができるということです。
同手引きでは、可能性のある感染経路とそれぞれの予防策について詳細な記載があります。

可能性のある感染経路と予防策

感染経路 予防策

飛沫(ひまつ)感染:
感染者の上気道にいるウイルスが、咳、くしゃみ、大声などで飛び散った唾液(飛沫)に包まれて、他の人の粘膜に付着することによって感染する。飛沫は放物線を描き1~2mほど飛散するため、近距離で向き合った人の顔の粘膜に入りやすいとされる。

布マスクをすれば飛沫はほとんどカットできる。マスクをした者同士が通常の会話を行う場合は、目の防護は不要とされる。

飛沫核感染(空気感染):
飛沫の水分が蒸発して小さくなった粒子(飛沫核)が空気中に⾧時間(3時間以上)漂い、それを吸い込むことで感染が生じる。

飛沫核は布マスクや一般的なマスクはすり抜けてしまうため、感染予防策としては十分な換気が必要。

接触感染 :
病原体を含む体液や飛沫が付着した部分を触れた手で目、鼻、口を触れてしまうと、 病原体が粘膜に入り込み感染を起こす。

石鹸(界面活性剤)を使った手洗いや消毒用アルコールによってウイルスの感染力を失わせることができる。

健診施設でとられている新型コロナウイルス感染予防策

健診施設でとられている新型コロナウイルス感染予防策

このように、主だった感染経路と予防策が分かっていることから、国内の健診関連団体は合同で「健診実施機関における健診実施時の新型コロナウイルス感染症対策」をとりまとめ※3、健診等を実施する各施設は、このマニュアルに則って、以下のような対策をとった上で健康診断やがん検診を実施しています。

※3 【8団体合同マニュアル】健康診断実施時における新型コロナウイルス感染症対策について5月14日改訂版 (一社)日本総合健診医学会 (公社)日本人間ドック学会 (公財)結核予防会 (公社)全国労働衛生団体連合会 (公財)日本対がん協会 (公社)全日本病院協会 (一社)日本病院会 (公財)予防医学事業中央会

  • 健診会場ではマスク着用を原則とする(マスク着用がない場合は受診できない)。
  • 健診受付後、問診、体温測定を行い、発熱があるなど健診受診者として不適当と判断した場合は後日、体調が回復してからの受診とする。
  • 「密集・密接」を避けるため、受診者間の距離を確保するとともに、健診に要する時間を可能な限り短縮する。
  • 受診者と職員が対面で話す際は、適切な距離を確保する。
  • 室内の換気は、1時間に2回以上定期的に窓やドアを開けるなどして行う(常時換気システムなどがある場合は除く)。
  • 受診者の「密集」を避けるため、1日の予約者数、予約時間等を調整する。
  • 職員は、アルコ-ル消毒液等により入念に手指の消毒を行う。
  • ロッカールーム、トイレ、ドアノブ、階段手摺、エレベータ呼びボタン、エレベータ内部のボタン等受診者が触れる箇所を、定期的にアルコール消毒液又は次亜塩素酸ナトリウム消毒液により清拭する。

もちろん、これで100%新型コロナウイルスの感染が防げるわけではありませんが、極力感染リスクを減らしながら、健康維持にとって大切な健康診断やがん検診を受けられるようになっています。

ウィズコロナ下でも大切ながん早期発見

厚生労働省の委託事業として、働く人のがん検診受診率向上や啓発に取り組む、がん対策推進企業アクションが主催し8月5日に開催されたセミナー「コロナ禍におけるがん対策、がん治療」において登壇した東京大学医学部附属病院放射線科の中川恵一先生は、「新型コロナウイルス感染症には注意をしなければいけないが、同時にがんへの注意も大切。対策を疎かにすればより大きな健康被害を背負うことになる」と警鐘を鳴らします。

ウィズコロナ下でも大切ながん早期発見

新型コロナウイルス感染症は現在進行形なので単純な比較はまだできませんが、2020年8月初旬までの約7ヶ月間で新型コロナ感染症に罹患(りかん)した人は約4万5千人、死亡数は約1,000人です。対してがんは、2019年1年間の予測値で罹患数は約102万人、死亡数は38万人と、現時点での数字ですが罹患数で約23倍、死亡数で約360倍がんのほうが多いのが実情です。

日本人の新型コロナウイルス感染症をがん患者数・死亡数

出典
※(1)NHK新型コロナウイルス特設サイト
 https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/(8月6日時点クルーズ船含む合計)
※(2)2019年がん統計予測 国立がん研究センターがん情報サービスがん登録・統計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/short_pred.html

「新型コロナウイルス感染症は、ワクチンや治療薬の開発状況にもよるが、3年、5年とこのまま流行が続くとは考えにくい一方、がんは今後数十年にわたりさらに増加する可能性が高い。新型コロナウイルス感染症の予防だけでなく、全体としての健康を意識することが重要です」(中川先生)

新型コロナウイルスへの感染を恐れるあまり検診を延期したことで、がんが進行して見つかっては元も子もありません。ウィズコロナの今だからこそ、年齢や基礎疾患の有無などそれぞれの事情に応じて慎重に行動しつつも、適切なタイミングでのがん検診受診を意識することが大切といえるでしょう。

ポイントまとめ

  • 5月下旬の緊急事態宣言解除後、厚生労働省の通知により、各自治体などが行うがん検診は再開されている
  • がん検診施設で考えられる感染経路は、飛沫感染、飛沫核感染、接触感染の3つ
  • 健診関連の学会が合同で対策マニュアルを策定。各施設は新型コロナウイルス感染症予防対策をとっている
  • 現時点で、がんによる死亡数は新型コロナウイルス感染症による死亡数の数百倍。新型コロナウイルス感染を恐れるあまりがん検診が疎かになれば、全体としての健康が損なわれる可能性もある

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