受診の遅れでがん進行の懸念も。正しく知って受診したいウィズコロナのがん検診[Part-1]

公開日:2020年08月31日

新型コロナウイルス感染症は、がん医療の環境にも大きな影響を及ぼしています。4月に発出された緊急事態宣言中は、多くの医療機関や健診施設でがん検診の受け入れが中止されました。
こうした状況に、検診を受けていれば本来早期に発見されていたであろうがんが、進行がんとして発見されるおそれを懸念する声が、医療従事者などからあがっています。
新型コロナウイルスを正しく恐れ、適切な対応を取りながら受診が求められる、ウィズコロナ時代のがん検診について考えます。

目次

新型コロナウイルス感染症の影響によりがん検診がストップ

一時は収束の兆しがみえたかのように思われた新型コロナウイルス感染症。しかし、緊急事態宣言が解除され、経済活動が再開されて以降、再び全国的に新規感染者数が増加し、第2波として懸念が広がっています。

第1波では、4月7日に東京都など7都道府県で緊急事態宣言が出され、4月16日には全国を対象に拡大。厚生労働省は4月14日、地域住民に対するがん検診を含む健康診断を実施する地方自治体に対して、集団で実施する健診等は原則延期するように通知を行い、多くの市区町村で予定していたがん検診が一時中止されました。

日本人間ドック学会が、会員施設を対象に5月19〜22日に実施したアンケートでは、回答があった473施設のうち半数強の256施設が、緊急事態宣言中すべての健診を中止し、すでに予約を受けていたもののみ実施して新規分は中止したという141施設を含めると、8割以上の施設が健診の受け入れを中止していました。

新型コロナウイルス感染症に関するアンケート

出典:新型コロナウイルス感染症に関するアンケート(公益社団法人日本人間ドック学会ホームページ)
https://www.ningen-dock.jp/wp/wp-content/uploads/2020/03/46b326d938d5e1f93926958d45af5046.pdf

また、日本医師会が、同会の共同利用施設に登録された健診センターと検査センター、健診・検査センター複合体を対象に実施し、2020年7月29日に発表した「新型コロナウイルス感染症対応下での医業経営実態調査」によれば、20年3月〜5月にかけてがん検診の実施件数は大幅に減少し、とくに5月は、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮がんの5つのがん検診すべてにおいて、昨年対比で実に8〜9割の減少幅となっています。

各がん検診の実施状況

http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20200729_4.pdf

がん完治を目指すためには、何より早期発見・早期治療

がん完治を目指すためには、何より早期発見・早期治療

がんの治療は、手術、放射線治療、抗がん剤(薬物療法)が3大治療とされています。このうち、手術や放射線治療は「局所」にとどまっているがんに対する治療です。がんが発生した部位にとどまっていて、そこから大きく広がっていない場合には、手術で患部を切除してしまうことで完治(根治)も目指すことができます。放射線治療も同様で、がんが大きく広がっていない場合に実施可能な治療です。

一方、抗がん剤や分子標的治療薬(がん細胞を分子レベルで標的にして治療する薬)などの薬物療法は、点滴や経口で薬を投与し、血液などを通じて薬の成分が全身に行き渡って作用する「全身療法」です。

がんが進行し、もともとの場所から離れた臓器へと転移したり、がん細胞が全身に広がったりしていると判断されるような場合には、手術や放射線で部分的な治療を行っても有効な治療効果が見込めないため、こうした全身に作用する治療が選択されます。

ただし、大きく広がってしまったがんを薬物療法で完治させることは現在のところ非常に困難です。そのことは、全国がんセンター協議会が公表している、がん部位別の5年相対生存率の最新データ※1からもわかります。

例えば、日本人の死亡数が多い5つのがんで見てみると、早期がんであるステージⅠと進行がんであるステージⅣの5年相対生存率は以下のとおりです。

  • 肺がん ステージⅠ 89.4% → ステージⅣ 8.0%
  • 大腸がん ステージⅠ 98.8% → ステージⅣ 23.1%
  • 胃がん ステージⅠ 97.2% → ステージⅣ 7.1%
  • 膵臓がん ステージⅠ 42.9% → ステージⅣ 1.5%
  • 肝臓がん ステージⅠ 62.3% → ステージⅣ 0.9%

さらに、男性の罹患数が多い前立腺がんや女性のかかるがんで最も多い乳がんでもみてみましょう。

  • 前立腺がん ステージⅠ 100% → ステージⅣ 66.9%
  • 乳がん ステージⅠ 100% → ステージⅣ 40.0%※2

このように、早期で発見できたがんの場合は、多くのがんで高い生存率を示しているにもかかわらず、同じ部位であっても、進行して見つかったがんは生存率が大きく低下してしまいます。

つまり、仮にがんになってしまったとしても完治を目指すには、できるだけ早い時期に発見し、適切な治療ことが必要なのです。

ほとんどのがんは、とくに初期では自覚症状なく進行するので、ステージⅠやⅡといった早期で発見するためには、適切ながん検診を定期的に受けることが重要となります。

※1 5年相対生存率は、あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかを示したもの。データは、全がん協部位別臨床病期別5年相対生存率(2009-2011年診断症例)2020年3月17日更新より
http://www.zengankyo.ncc.go.jp/etc/seizonritsu/seizonritsu2011.html

※2 女性の乳がん患者の割合。男性乳がん患者は39.8%。

がんの治療においては早期発見がカギを握ります。ただ、早期発見が重要と分かっていても、新型コロナウイルス感染症が拡大しているいま、検診を受けに行くのが怖いという人も少なくないでしょう。次回Part-2では、ウィズコロナの今、がん検診を受けることでの感染リスクや、健診実施施設での新型コロナ感染対策についてみていきます。

ポイントまとめ

  • 新型コロナウイルス感染症の影響で、緊急事態宣言中、多くの医療機関、検診施設ではがん検診の実施を中止した
  • 5年相対生存率のデータから、多くのがんでは早期で発見できれば完治も見込めるが、進行した状態で発見されると生存率が大幅にさがることが見て取れる
  • がんは初期の段階では自覚症状が出ることはまれなので、早期発見するにはがん検診の定期的な受診が重要

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