そこが知りたい婦人科検診
20歳代こそぜひ受けてほしい、子宮頸がん検診のすすめ[Part-2]

公開日:2020年08月31日
がん研有明病院 健診センター検診部 部長/リンパケア室長
宇津木 久仁子(うつぎ くにこ)先生

Part-1の記事では、子宮頸がんについて知っておきたい基礎知識を教えていただきました。Part-2では、国が推奨する五大検診のうち、とりわけ子宮頸がん検診については、なぜ若年層から受ける必要があるのか――その意義や具体的な検診の流れ、また予防法について、婦人科がん治療のプロでがん研有明病院 健診センター検診部部長の宇津木 久仁子(うつぎ くにこ)先生に解説していただきます。

>>Part-1の記事はこちら

目次

20歳以上が検診の対象だが、受診率は25%と低調

2004年から、国の方針で自治体での子宮頸がん検診は20歳以上が対象になりました。それまでは30歳以上が検診対象でしたが、近年では若年層でのがんや前がん状態が増加傾向にあることと、若い人こそ将来妊娠・出産の可能性を残す「妊孕性(にんようせい)温存」のために、できるだけ早く見つける必要があるからです。

しかし、現在日本の婦人科検診率(全年齢の平均値)は45%くらい、また20歳代となると25%くらいと低い値です。一方、アメリカでは80%以上の受診率です。

■図:子宮頸がん検診の受診率(日本/年齢別)

子宮頸がん検診の受診率(日本,年齢別)

※子宮頸がん検診は、過去2年間の受診率を示しています。

参考:厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査の概況」より
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/

■図:女性の子宮頸がん検診受診割合(20-69歳)

女性の子宮頸がん検診受診割合(20-69歳)

出典:厚生労働省 がん検診の国際比較
https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/campaign_29/outline/low.html

子宮頸がん検診の内容と若年層が受診するメリット・デメリット

検診には対策型と任意型がある

子宮がん検診には対策型と任意型がありますが、対策型は国が推奨し、自治体などが行う住民検診が中心で、任意型は医療機関や検査機関などが提供する人間ドックなど、個人が任意で受診するものです。その他、勤務している会社が行う職域健診もあります。

自治体の対策型検査では、内診と細胞診を行います。任意型検査では、HPV検査や超音波、子宮内膜細胞診まで行われることもあります。

検診ではどんな検査をするの?

子宮頸がん検診は腟鏡を腟に挿入し、腟の奥にある子宮頸部を観察し(内診・腟鏡診)、その部位を専用のブラシやヘラなどでこすりとります。採取した細胞を顕微鏡で観察し、がん細胞の有無を診断します(細胞診)。

性交経験のない方はそもそもHPVに感染する機会がないので、通常子宮頸がん検診は性交を開始した方でよいです。ただ、まれにHPVが原因でない子宮頸がんもあるので、不正出血や痛みなど症状がある場合は注意が必要です。

検査は内診、腟鏡診、細胞診全体で5分以内に終わります。もし妊娠していても、子宮の中に触れることはないので心配はいりません。むしろ母子手帳には、子宮頸がん検診のクーポン券が入っており、妊娠を機会に検診を受けることが推奨されています。

ちなみに、検診によるデメリットは特にありません。ただし子宮の入り口をこすって細胞をとる際、痛みはほとんどありませんが、検査後に多少出血がある可能性はあります。

子宮頸がんの予防法は?
ごく初期は無症状。だからこそセルフチェックを

子宮頸がんの予防法は?ごく初期は無症状。だからこそセルフチェックを

そもそも、異形成、上皮内がんは症状がないことがほとんどで、たまたま他の原因で不正出血があったのを機会に受診するケースもあります。ただ、性交後に出血がある、帯下がいやなにおいがする、その他の不正出血があるなどの場合には、検診を受けることをお勧めします。

一般的に子宮頸がんはHPVウイルスの持続感染が原因となりますが、性交経験のある女性の80%が、一生のうち一度はHPVウイルスに感染するといわれていますが、ほとんどが一過性の感染で自然退縮(症状がないうちに自然に消えてなくなること)します。持続感染するリスク因子として、喫煙や低用量ピルの内服が挙げられます。

喫煙は宿主の免疫応答(ウイルスから身体を防御する仕組み)に影響してHPVが消失しにくくなる、一方ピルに含まれる成分(エストロゲンやプロゲステロン)がHPVの遺伝子発現を一部増強するのではないか※1ということです。

※1 京府医大誌 123(5),299~307,2014
http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/jkpum/pdf/123/123-5/fujita05.pdf

またすべての健康にいえることですが、身体を清潔に保つ、禁煙、バランスよい食事、十分な睡眠、適度な運動が大切でしょう。

HPVワクチン接種と子宮頸がん検診で、早期発見を

これまで述べてきたように、子宮頸がんにならないためには、まずは予防と早期発見です。そして早期発見のためには定期的な検診がとても大切ですが、実はもう1点重要なことがあります。それはHPVワクチンの接種です。

子宮頸がんの原因、HPV感染の予防に有効なワクチン接種ですが、これに関して日本はとても遅れています(ルワンダで99%、オーストラリアでは73%の接種率※2で、日本は0.6%と非常に低い)。

※2 Garland SM et al. Clin Infect Dis. 2016; 63: 519-527

今、日本ではワクチンによる副作用の報道ばかりが目立ち、国も現在、ワクチン接種を積極的には推奨していません。逆にワクチンを打たなかったために、若い女性が子宮頸がんで子宮を摘出して妊娠ができなくなり、手術や抗がん剤、放射線の副作用に苦しみ、命まで失った人がなんと多いことか、という報道はあまりみられません。

HPVワクチンは現在2価、4価があり、今年の7月21日に9価が新たに承認されました 。がんを起こすHPVは15種類ぐらいあるので、確かにワクチン接種をしてもすり抜ける可能性もなくはありません。しかし、初回性交渉前に2価HPVワクチンを接種した場合、ワクチンの有効性は93.9%と報告されています。

つまり、HPVワクチン接種で「予防」、子宮頸がん検診(細胞診)による「早期発見」で、相当な数の子宮頸がんが減らせるわけです。

世界保健機関(World Health Organization:WHO)も、「全世界的な公衆衛生上の問題として子宮頸がんの排除」を目標に掲げています。そして、一次予防として少女に対してのHPVワクチン接種、二次予防として子宮頸がん検診と検診時での治療を推奨しています。

また自治体ごとに内容は異なりますが、一定年齢の方を対象にした子宮頸がん検診の無料クーポンが配布されており、これも受診のチャンスを与えるいい機会です。場合によっては大学などに検診車が行くのもよいかもしれません。

後で後悔しないために。
若年層の働き盛りの女性の方へメッセージ

後で後悔しないために。若年層の働き盛りの女性の方へメッセージ

子宮頸がんは、これから結婚・妊娠を控えている若い世代の方にも、罹患リスクがあります。子宮頸がんは早期に発見すれば、治る可能性も高く、子宮温存も可能ですが、発見が遅れてしまえば、身近な幸せを失うことにもなりかねません。後で泣かないために、後悔しないために、定期的に子宮頸がん検診を受けることをおすすめします。

特に若い方は、「検査を受けるのが恥ずかしい」という気持ちもあると思いますが、女医が検診をしている施設もたくさんありますから、少しハードルを下げてください。

またしばしば、がんが進行した状態で来院される方の中には、介護のために外に出られず、介護が終わったので来院できた、という方もいます。あるいは子育てや仕事が忙しい、家族や障害者の世話をしている、といった理由で自分の健康チェックが受けられない方がいます。

そういう方は、自分に何かあったら困る人がたくさんいるということを自覚して、なんとか時間を作ってほしいと思います。がん治療は日進月歩で進歩していますが、発見が遅れてしまえば、治療法の選択肢も減り、QOL(生活の質)の維持も難しくなってしまいますので、まずは早期発見・早期治療を心がけてほしいと思います。

ポイントまとめ

  • 若い人こそ将来妊娠・出産の可能性を残すために、子宮頸がん検診を受ける必要がある
  • 検診は内診、腟鏡診、細胞診全体でも5分程度で終わり、とくにデメリットはない
  • 予防と早期発見のためには、HPVワクチン接種と子宮頸がん検診が非常に有効で、エビデンスもある。子宮頸がんは、他のがんに比べて最も予防しやすいがんといえる
  • 後で後悔しないために、2年に1回は定期的な子宮頸がん検診を受診。自治体などが配布する検診の無料クーポンを利用するのもいい
  • 症状があれば、なるべく時間を作って近くの婦人科受診を
 
【当記事の参考】
 

日本医師会 知っておきたいがん検診
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/

厚生労働省 がん検診推進事業について
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/gan11/

厚生労働省 子宮頸がん予防ワクチンQ&A
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/qa_shikyukeigan_vaccine.html

日本産科婦人科学会
http://www.jsog.or.jp/

国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/index.html

取材にご協力いただいたドクター

宇津木 久仁子 (うつぎ くにこ) 先生

がん研有明病院 健診センター検診部 部長 /リンパケア室長

【略歴】
1983年 山形大学医学部卒業後、同大学医学部付属病院入局
1989年 アメリカ ベイラー医科大学留学
1991年山形大学医学部付属病院助手
1994年がん研有明病院婦人科に勤務
2011年がん研有明病院婦人科副部長
2019年3月より現職
日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本臨床細胞学会専門医など

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