20歳代こそぜひ受けてほしい、子宮頸がん検診のすすめ[Part-1]

公開日:2020年07月31日
がん研有明病院 健診センター検診部 部長/リンパケア室長
宇津木 久仁子(うつぎ くにこ)先生

年々、罹患年齢の若年化が進む子宮頸がん。市区町村が「住民検診」として実施している五つの対策型検診の中で唯一、20歳以上が対象となり、2年に一度の検診が推奨されているにもかかわらず、20歳代の受診率は25%程度※1と低くなっています。
子宮頸がんは、初期の段階では自覚症状がほとんどないことが多く、進行すると子宮全摘などQOL(生活の質)に大きく関わる可能性があります。
特に若年層では妊孕性(にんようせい=妊娠するための力)に大きく影響するため、
できるだけ早期に発見することで、卵巣や子宮を温存した治療を受けられる可能性も高まるといいます。
今回のドクターインタビューでは、がん治療・婦人科の専門医で、がん研有明病院 健診センター検診部部長も務める宇津木 久仁子(うつぎ くにこ)先生から、子宮頸がん検診の正しい知識と、検診を受ける意義について解説していただきます。

※1日本医師会HP 日本のがん検診データ
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/data/japan/

目次

婦人科系のがん治療ひと筋、26年。女性特有の悩み対するサポートに尽力

私は、1994年からがん研病院婦人科に26年勤務し、がん治療ひと筋で診断、治療計画、手術、化学療法を行ってきました。

現在は健診センターでがんを見つける仕事をしていますが、週1回は婦人科外来で新患の診察にあたり、また外勤病院では、細胞に異常が生じた前がん状態である「異形成 」の患者さんのフォローと治療を行っています。

また、がん治療中であっても、できるだけ自分らしく今までと同じように過ごしたいという患者さんに対して、外見の変化をサポートするために、20年以上前から「帽子クラブ」という会を主宰しています。

脱毛時のケア、お化粧、ネイルなどについてのアドバイスの他、患者さんにとって被りやすい帽子を編み物ボランティアの方々に作っていただき、患者さんにお譲りしています。リンパ節の切除後に足がむくんでくる「下肢リンパ浮腫 」で苦しむ方に対してはリンパケア室を開設し、治療にあたっています。

そもそも子宮頸がんとは? 知っておきたい基礎知識

子宮は、妊娠したときの胎児の居場所

子宮は、妊娠したときの胎児の居場所

さて、それでは初めて「子宮頸 がん」という言葉に触れる方のために、子宮頸がんについて簡単な説明をします。

まず子宮は、下腹部にある洋梨を逆さまにしたような形の臓器で、おおよそニワトリの卵と同じくらいのサイズです。子宮からは卵管が繋がっており、子宮の両横には卵巣がありますが、子宮とは繋がっていません。

子宮の役割としては妊娠したときに胎児を育てる場所で、実はそれ以外の役割はありません。ホルモンも分泌していないので、妊娠以外の役割としては、女性ホルモンを出している卵巣の方が大事ともいえます。子宮は腟に近い方が子宮頸部、子宮の奥の方が子宮体部といい、それぞれ子宮頸がん、子宮体がんが最初に発生する場所(発生母地)になります。

■図:子宮頸部と子宮体部

図:子宮頸部と子宮体部

出典:専門医の医学図典 婦人科手術とインフォームドコンセント 宇津木久仁子

子宮頸がんの発症年齢が、若年層に急増

子宮頸がんの発症は、95%以上がヒトパピローマウイルス(HPV;human papilloma virus)というウイルス感染が原因で、主には性交によって感染します。

このため、通常のがんは高齢になるにつれてリスクが上昇しますが、子宮頸がんの場合は他のがんと異なり、性行動が活発となる比較的若い女性がかかりやすい、という特徴があります。

全体としては30~40歳代に多く、罹患数は年間約1万人(下記グラフ参照)、約3,000人※2が亡くなります。ただしそれは進行期(ステージ)がI期以上の患者さんであり、「上皮内がん」というごく初期のがんや進行前の「異形成」という前がん状態のものは、含まれていません。

※2 国立がん研究センターがん情報サービス がん登録・統計 グラフデーターベース
http://gdb.ganjoho.jp/graph_db/

上皮内がんも含めると罹患数はその3倍にのぼり、しかも初期の上皮内がんに限ると20~30歳代に最も多くみられます。

なお、HPVは性交経験のある女性であれば一生のうち約8割が感染するといわれる、ごくありふれたウイルスです。

一部に子宮頸がんになるのは性的にアクティブな人だという誤解があり、それで悩む患者さんもおられますが、性交の回数には関係なく、一度でも性行為の経験があれば感染の可能性はあります。ただし約9割は一過性のもので、2年以内に排除されます。

■グラフ:子宮頸がんの年齢階級別罹患率(2015年)

グラフ:子宮頸がんの年齢階級別罹患率(2015年)

※ 出典:国立がん研究センターがん情報サービス がん登録・統計 グラフデーターベース
http://gdb.ganjoho.jp/graph_db/

子宮頸がんの進行と早期発見の意義

子宮頸がんの主な原因はHPVウイルスの感染ですが、持続的に感染していると、ごく一部の細胞が異常な形に変化し「異形成」、いわゆる前がん状態が発生します。

異形成は軽度、中等度、高度の三つに分けられます。軽度、中等度異形成は、大半が「自然退縮」といって症状がないうちに自然に消えてなくなる可能性があり※3経過観察、高度異形成から治療の対象となります。

※3 2年以内に軽度異形成が正常上皮に戻るのが約6~7割、中等度異形成が正常に戻るのが5~6割(沖 明典 日産婦誌 2006)
http://jsog.umin.ac.jp/69/handout/3-2.pdf

高度異形成、ごく初期の上皮内がんのうちに見つかれば、子宮を摘出せず、子宮頸部(子宮口)を円錐型に切除する「円錐切除術 」を行い、その後の妊娠も可能です。しかし、進行期I期となると子宮摘出が必要になります。ですから早期発見がとても大切です。

■図:子宮頸がんの治療法

図:子宮頸がんの治療法

図:単純子宮全摘出術(CIN3:高度異形成または上皮内がんの場合に用いられる)

単純子宮全摘出術

出典:専門医の医学図典 婦人科手術とインフォームドコンセント 宇津木久仁子

異形成や上皮内がんでは、通常自覚症状がありません。しかし子宮頸がんは子宮の入り口にできるため、子宮体がんや卵巣がんに比べて検診でも見つかりやすいのです。無症状のまま検診を受けずに気づかないでいると、徐々にがんが進行していく可能性があります。

また通常Ib期となると、リンパ節も一緒に切除するリンパ節郭清(かくせい)が必要です。治療をしてどのくらい治るかは、5年生存率を見るとわかります。進行期ごとに5年生存率は下がっていきます。

子宮頸癌5年生存率

出典:日本産科婦人科学会 「第60回治療年報(2012年治療開始例)」
http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=71/5/071050725.pdf

繰り返しますが、上皮内がんまでの初期の状態で見つかれば、子宮を摘出しなくて済みますし、命にかかわることはほとんどありません。子宮頸がん検診に関しては、死亡率の減少効果は最大80%※4であり、全世界的にその有効性が証明されています。ですから、定期的に子宮頸がん検診を受けることがとても大切です。(Part-2に続く)

※4 国立がん研究センター がん情報サービスより
https://ganjoho.jp/med_pro/pre_scr/screening/screening_cervix_uteri.html

ポイントまとめ

  • 子宮頸がんの主な原因は、約95%が性交によるHPVウイルス感染
  • 子宮頸がんの罹患率は、全体として30~40歳代が多いが、上皮内がんや高度異形成に限ると20歳~30歳代の若い女性が最も多い
  • HPVウイルスはごくありふれたもので、性交経験のある女性であれば一生のうち約8割の女性が感染するともいわれる。性的にアクティブかどうかは、罹患と関係ない
  • 子宮頸がんは子宮の入り口にできるため、子宮体がんや卵巣がんに比べて検診で見つかりやすい
  • 定期的に子宮頸がん検診を受け、高度異形成、ごく初期の上皮内がんのうちに見つかれば、子宮を摘出せずに済み、その後の妊娠も可能。検診による早期発見がとても大切

取材にご協力いただいたドクター

宇津木 久仁子 (うつぎ くにこ) 先生

がん研有明病院 健診センター検診部 部長 /リンパケア室長

【略歴】
1983年 山形大学医学部卒業後、同大学医学部付属病院入局
1989年 アメリカ ベイラー医科大学留学
1991年山形大学医学部付属病院助手
1994年がん研有明病院婦人科に勤務
2011年がん研有明病院婦人科副部長
2019年3月より現職
日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本臨床細胞学会専門医など

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