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「胃がん検診」と「胃がん予防」
消化器がん医師に聞く。
「胃がん検診」と「胃がん予防」

入口 陽介(いりぐち ようすけ)先生
日本では3人に1人ががんで亡くなるともいわれる現在、その中で胃がんは罹患数・死亡数がともにがん部位の中でも上位です。「日本の医療レベルが低いわけでもないのにがんで死亡する人が多いのは、がん検診の正しい理解も普及も進んでいないためではないか」と話すのは、東京都がん検診センターの入口陽介先生。消化器系のがん検診を数多く担ってきた入口先生に、胃がん検査の内容やリスク要因、がん検診の重要性など、胃がんに関する予防・対策について詳しくお話を伺いました。
目次
罹患数では2番目、死亡数では3番目。
高齢者で増加する「胃がん」
日本人の死因第1位は悪性新生物(がん)であり、がんの中でも胃がんの罹患数・死亡数はトップ3に入っています。
2014年の国立がん研究センターの調査によると、 日本の胃がん罹患数は12万6,149人で、大腸がんに続き2番目に多くなっています。2017年の胃がんによる死亡数で見ても4万5,226人と肺がん・大腸がんに次いで3番目です※1。
※国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」より
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
胃がんの罹患数はここ40年ほど横ばいの状態で、なかなか減少に転じません。その背景には、この間に大きく進展した高齢化が関係しています。胃がんの罹患年齢は60歳代後半~80歳代前半がピークであり※2、死亡数も高齢者ほど増えているのです。
※1 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(人口動態統計)
(https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/dl/cancer_mortality(1958-2018).xls)
※2 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録)
(https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/dl/cancer_incidenceNCR(2016).xls)
進行期で大きく生存率が低下する「胃がん」
早期発見・早期治療が大切
がん予防には、がんにかからないように生活習慣などを改善する「一次予防」、がんを早期発見・早期治療し、がんで亡くなる人を減らすための「二次予防」、がんが進行した後に再発や重症化を防ぐ「三次予防」があります。がん検診は二次予防にあたります。
国立がん研究センターが公表している胃がんの5年生存率では、早期のステージⅠで「94.7%」と高率になっていますが、進行期のステージⅣでは「8.9%」と生存率が大きく低下しており、できる限り早期に発見し、早期に治療を行うことが大切といえます。
※国立がん研究センター がん情報サービス「2010-2011年5年生存率の主な結果」より
特に胃がんのような固形腫瘍(白血病などの血液腫瘍以外の腫瘍) は目視で確認できるため、定期的にがん検診を受けることで腫瘍が大きく育つ前に見つけられる可能性が高いです。
例えば胃がんの場合、腫瘍ができる前に胃壁表面の粘膜が淡い色に変色するため、検診によりその状態で見つけることができれば、早期治療につながります。
※入口先生ご提供画像
胃がん検診の代表は「内視鏡検査」「バリウム検査」。
必要に応じて任意型検診も効果的に組み合わせを

対策型検診と任意型検診
がん検診には、国の推奨のもと、住民検診などで受けることのできる「対策型検診」と、 各医療機関などが提供する人間ドックなどのサービスを任意で受診する「任意型検診」があります。
「対策型検診」は集団の死亡率を下げることが目的で、自治体が住民を対象として行うがん検診がこれにあたります。公的医療の一環で実施されるため、国が費用を負担します(一部本人負担となる場合もある)。胃がん検診では50歳以上の方※4が対象となっており、2年に一度の内視鏡検査またはバリウムによる胃部エックス線検査が推奨※4されています。
※4 胃部エックス線検査については、40歳代、年1回の実施も可能
一方、任意型検診は個人の死亡リスクを下げることを目的に、個人の判断に基づいて行われるもので、検診費用は医療機関によって幅がありますが、全額自己負担(所属する健康保険組合などから補助金が出る場合もある)となります。
一般的には医療機関や検診機関が行う「人間ドック」などがこれに該当します 。胃がん検診の種類は、対策型検診と同様に胃内視鏡検査、バリウムによる胃部エックス線検査がありますが、検査の対象者や受診間隔が対策型検診のように定められておらず、各人の意志で自由に検査を受けることができます。
例えば、血液検査で胃がんリスクに深く関わるといわれる“ピロリ菌”を発見する「ABC検査」など、各医療機関でさまざまな検査を実施しており、必要に応じて効果的に組み合わせることが大切です。
胃がんの二大検査「内視鏡検査」「バリウム検査」
「胃部エックス線検査(バリウム検査)」は、胃を膨らませる薬とバリウム(造影剤)を飲み、身体の外から胃の中の粘膜を観察する検査です。
日本では25年ほど前に、高濃度・低粘性のバリウムと、デジタルの撮影装置が導入されました。高濃度・低粘性バリウムは、胃粘膜についている粘液を粗粒子で落とし、粘膜表面に微粒子がつくように開発されたもので、これにより、胃内のひだや粘膜の模様が鮮明に撮影できるという、技術的にも飛躍的な進歩を実現させました。
その後、高精細液晶モニターなどが導入され、近年では動画による症例検討会が実施されるようになっています。卓越した放射線技師は、撮影中の透視観察によって、バリウムの流れの中から微細な異常を発見し読影しやすい画像を提供してくれます。こうした高精度液晶モニターや撮影技術の進歩から、胃部エックス線検査でも、微小胃がんといわれる5ミリのがんまで発見できるようになりました。
画像精度だけでなく、画像から異常を発見する「読影(どくえい)」も大切です。この二つは検診の両輪で、せっかくの高性能画像も、読影技術が伴っていなければ、早期がんの発見という目的は果たせません。私が理事を務める日本消化器がん検診学会では、2011年に『新・胃X線撮影法ガイドライン』を作り、精度の高い画像診断技術が保てるよう努めています。
「内視鏡検査」は、口もしくは鼻から胃の中に内視鏡(胃カメラ)を入れ、胃の内部を調べる検査です。検査時に疑わしい部位が見つかれば、そのまま組織を採取する場合もあります。
この検査も、拡大倍率や検査精度を向上させる拡大内視鏡や特殊光内視鏡などが開発されたことで、胃の内側から粘膜をくまなく調べることができるようになりました。私が所属する東京都がん検診センターでは、内視鏡の画像の精度、そして読影の精度についても、内視鏡観察・撮影マニュアルやダブルチェックなどで精度の高さを維持しています。
胃部エックス線検査は胃の外から、内視鏡検査は胃の内部からの観察方法で、それぞれに異なる特徴があります。内視鏡検査と比べて胃部エックス線検査のほうが一般に費用は安く、バリウムと発泡剤を飲んで撮影台の上で回るだけですので、患者さんの身体的負担も軽くすみます。
しかし、胃の中に入り込んで内側から胃の粘膜を見る内視鏡検査のほうが小さな病巣を見つけやすいという特徴もあります。
「塩分を抑えた食生活」と「ピロリ菌除去」で胃がんリスク軽減を

胃がんのリスクを下げる一次予防としては、「塩分を抑えた食生活」と「ピロリ菌※5の除菌」の二つがあります。
塩分の摂り過ぎ、特に塩辛い食品の食べ過ぎは胃がんリスクを向上させます。とりわけ和食の味噌汁や漬物、塩辛などは塩分濃度が高いので注意が必要です。一日当たりの塩分は6g以下を目安に摂りすぎに注意しましょう。
また、胃がんの発症に深く関わるといわれているのが「ピロリ菌」です。検査でピロリ菌感染が判明した場合は、胃がんの罹患リスクが高まる可能性があるため、除去治療を行うことで発症リスクをある程度下げる可能性があります。
ただし、ピロリ菌を除菌したからといって、リスクがゼロになるわけではありません。除去後3年ほど経過すると、がんの発見率が再び増えるというデータもありますので、ピロリ菌を除去した後も定期的に胃がん検診を受診することが大切です。
特に下記のような方はピロリ菌感染が疑われる可能性がありますので、一度ピロリ菌検査を受けることをおすすめします。
- 胃潰瘍あるいは十二指腸潰瘍と診断された方
- 胃MALT(マルト)リンパ腫※6と診断された方
- 特発性血小板減少性紫斑病※7と診断された方
- 早期胃がんに対し内視鏡での治療を行った方
- 内視鏡検査で慢性萎縮性胃炎と診断された方
※5 正式名はヘリコバクター・ピロリ。胃や小腸に炎症および潰瘍を起こす細菌で、胃がんや悪性リンパ腫の一部の発生に関連していると考えられている
※6 悪性リンパ腫の一つで、血液細胞の中で細菌やウイルスに対処する白血球の一種・Bリンパ球の一部が増殖したもの
※7 血小板減少の原因となる疾患・薬物などが認められずに血小板の減少をきたす出血性の疾患で、指定難病となっている
伸び悩む胃がん検診受診率。
医療機関と検査機関の連携で検診のメリット周知を目指す

がん検診受診率は伸び悩んでいるのが現状です。厚生労働省はがん検診受診率を50%以上に引き上げる目標を掲げていますが、胃がん検診の受診率は男性で43.8%、女性に至ってはわずか33.6%です※8。
背景には、国民にがん検診のメリットが十分に浸透していないという課題があり、日本のがん検診システムの構造的な問題が関係していると考えています。
検査機関でがん検診を受診して精密検査が必要と判断されると、検査機関に精密検査設備がない場合は、別の専門の医療機関を紹介される場合がほとんどです。
ところが、紹介先の医療機関で実際に精密検査を受診したのかどうか、陽性だったのか陰性だったのかといった情報のフィードバックががん検診を行った検査機関には返ってこないケースが少なくありません。
医療機関から検診機関にきちんと報告がなされないため、精密検査の受診の有無はもちろん、精密検査後の陽性・陰性の割合も把握できない場合が少なくなく、がん検診のメリットを十分に活かせない現状があります。
私が所属する東京都がん検診センターではこの現状を打破すべく、他施設との連携や情報共有を密に行い、データの蓄積に力を入れています。
※8 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
(https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/dl_screening/Pref_Cancer_Screening_Rate(2007_2016).xls)
「おいしくごはんを食べる」
胃がんの早期発見・早期治療で当たり前の生活を守る

私も胃がん、大腸がん、肺がんの検査を定期的に受けており、2年前に肺のレントゲンでひっかかって精密検査も受けました。最終的に、がんではないだろうということでした。しかし、どこかで覚悟をしている部分もあります。人は誰でもいつかは死にますからね。
40代、50代は人生の中でも、仕事や家庭で最も忙しい時期です。私も40代でピロリ菌を除去しようと思っていたのに、多忙で薬を飲み忘れて、除菌し損ねた経験があります。どんなに多忙でも、自分の体のメンテナンスのための時間を確保することは重要です。
「ごはんをおいしく食べて楽しく生きる」――。こんな当たり前のことが、胃を失ってしまったらできなくなってしまいます。食は私たちの生活にとって、とても大切です。早めに治療を受けることができれば、胃がんが見つかっても胃を残すことも可能なのだということを覚えておいてほしいです。
ポイントまとめ
- 胃がんはがんの中で罹患数が2番目に多く、死亡数は3番目に多い
- 日本ではバリウムX線検査と内視鏡検査が二大胃がん検診として発展してきた
- 一次予防として、ピロリ菌除去と塩分控えめの食生活を
- 二次予防として、胃がん検診でがんの早期発見・早期治療を
- いつまでもおいしく食べて人生を楽しむためにも、胃の健康は大切
取材にご協力いただいたドクター

入口 陽介 (いりぐち ようすけ) 先生
東京都がん検診センター副所長 /一般社団法人日本消化器がん検診学会理事・関東甲信越支部支部長 /早期胃癌研究会運営委員 雑誌『胃と腸』編集委員 /胃X線検査を楽しく学ぶ会代表世話人
コラム:ピロリ菌の検査・除菌方法
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