乳がんは、早期発見で9割が治る!
乳腺外科の第一人者が語る「乳がん検診の活用と予防法」

公開日:2020年01月31日
明石先生

昭和大学医学部 乳腺外科 教授
グランドハイメディック倶楽部 ハイメディック・ミッドタウンコース 非常勤医

明石 定子(あかし さだこ)先生

1994年に世界に先駆けPET検査を導入し、がんや心疾患、脳血管疾患の早期発見を目的とした検診や、検診後のフォローアップ検査、医療相談など手厚いサービを手掛ける、会員制総合メディカル倶楽部の「グランドハイメディック倶楽部(https://www.himedic.jp/)」。
2019年12月、同倶楽部と会員制リゾートホテル「東京ベイコート倶楽部 ホテル&スパリゾート(https://baycourtclub.jp/)」の共催による医療セミナー、「Healthy Lunch & Seminar」が開催されました。

登壇したのは、昭和大学医学部 乳腺外科教授で、グランドハイメディック倶楽部 ハイメディック・ミッドタウンコースにて非常勤医も務めらている、明石 定子(あかし さだこ)先生です。明石先生は、これまで乳がんの手術を3,000件以上手掛け、誰もが認める乳腺外科領域の第一人者といえます。「正しく知る、乳がんと検診」をテーマに行われた、明石先生の講演内容をレポートします。

目次

働き盛りを中心に年9万人が罹患
日本で増え続けている乳がん患者

乳がんの罹患数は年々増加傾向で、年間9万人の日本人女性が新たに乳がんと診断されており、日本人女性の中で最も罹患(りかん)数の多いがんです。

比較的若い人に多いことが特徴で、大腸がんや胃がん、肺がんは年齢が上がるにつれ罹患数が増えるのに対して、乳がんは40代後半に最初のピークを迎え、次に60代前半に多い病気です。まだお子さんが小さい時期や、仕事で活躍する年代の方に多いため、社会的なインパクトが大きい病気といえます。

部位別 罹患率(全国推計値)年次推移
【女性、全年齢】
部位別 罹患率(全国推計値)年次推移 【女性、全年齢】

資料:国立がん研究センターがん対策情報センター〔がん登録・統計〕
Source: Cancer Information Servies, National Cancer Center,Japan

ただし、国別の発生率と死亡率を見ると、アメリカやイギリスに比べて日本は少なくなっており、乳がんは欧米型の病気とみなすこともできます。背景としては、食生活の影響があると考えられます。

同じ日本人でも国内に住んでいる人よりも、ロサンゼルスに住み続ける日系人の方が、罹患率が上がったというデータもあります。つまり、人種による罹患率の差というよりも、生活習慣が乳がんの罹患に大きく影響しているといえるでしょう。

日本で乳がんの罹患数が増加しているのも、食生活の欧米化が要因の一つとして挙げられます。

閉経後の肥満、そして喫煙が乳がんの発症リスクを高める

日本乳がん学会の「乳がん診療ガイドライン2018」では、確実に乳がんを増やす要因として「閉経後の肥満」を挙げています。

乳がんは女性ホルモンを栄養として増えるタイプが全体の8割を占めていて、若い時分は卵巣から女性ホルモンが分泌されます。

閉経後は卵巣からの女性ホルモンの分泌は減りますが、代わって脂肪細胞の中にある酵素の働きで、ステロイドホルモンが女性ホルモンに変換されることがわかっています。そのため閉経後は、脂肪が多い肥満の方は乳がんのリスクが高くなります。
逆に閉経前の方では、痩せ型・高身長がリスクを増加させることがわかっています。

同様に乳がんを引き起こす要因としては、喫煙と受動喫煙が指摘されています。

現在喫煙している、または過去に喫煙歴がある方は、喫煙もせず受動喫煙もない方に比べて乳がんにかかる割合は3.9倍、喫煙はしていないが受動喫煙はある方でも2.6倍と、たばこは重大なリスクファクターです。

ただし、このデータは閉経前の方の場合で、閉経後の方については喫煙のリスクはみられません。とくに閉経前の方は気を付けていただきたいですし、吸っている方はすぐにやめましょう。

BMIと乳癌発生 喫煙は乳癌発症リスクを増加させる(ほぼ確実)

運動に関しては、閉経後に週7回1時間程度のジョギングで発症リスクが10%下がるというデータがあります。結局のところ、特別なことではなく、一般的に体に良いとされる生活習慣が乳がんのリスクを下げるのです。

食生活で特徴的なのは、大豆との関係でしょう。日本人4万人を対象とした調査では、毎日お味噌汁を3杯以上飲む人は、そうでない人に比べて0.6倍乳がんになりにくいという結果が出ています。

ただし、お味噌汁だけを飲む人は少ないと思いますので、お味噌汁がついてくるような、バランスの良い日本食の定食系メニューが良い、ということかもしれません。

飲酒に関しても、さまざまな研究の結果、アルコール摂取量が増えると乳がんのリスクが高まることは、ほぼ確実視されています。

乳がんになりやすい体質、リスク要因とは?

出産経験や生理回数が乳がんに影響。200倍も差が出る要因も

乳がんになりやすい体質も挙げましょう。片側の乳房ががんになった方は、反対側にもがんができるリスクが5~10%高まります。また、ご家族の中で乳がんに罹られた方がいらっしゃる場合もリスクが上がる傾向にあります。

その他では、体内のホルモン環境、特に生理の回数が関係することもわかっています。具体的には、初潮が早い方(11歳以下)と閉経が遅い方(55歳以上)など、生理の回数が多いほど、乳がんになりやすい体質であるといえます。

出産経験がないことや35歳以上の高齢初産も乳がんのリスクを高めます。昔の女性に比べて、今は初産年齢が上がっていて、また出産を経験されない方も増えており、このような背景も乳がんが増えている要因の一つといえます。

卵巣で作られる女性ホルモンの「エストロゲン」と「プロゲステロン」を併用するホルモン補充療法を5年間続けると、発症リスクは1.4倍になるというデータもあります。

さらに、200倍もの差が出るリスク因子も存在します。それは、「性差」です。乳がんは女性特有の病気だと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、男性も乳がんになります。ただし、割合は少なく、日本乳がん学会の全国登録でも男性乳がんは全体の0.6%程度となっています。女性は男性に比べて200倍も乳がんになりやすい体質といえます。

乳癌high risk group

乳がん患者全体の5%を占める「遺伝性乳がん」

ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんは、予防的観点から乳房を切除したと2013年に公表し、世間に衝撃を与えました。

そもそも、人間はがんの修復機能を持つ「BRCA1/2」という2つの遺伝子を持っていますが、片方もしくは両方に変異があると、遺伝性の乳がんや卵巣がんにかかりやすくなります。

例えばBRCA1に変異があると70歳までに乳がんを発症する確率はおよそ70%、卵巣がんではおよそ40%となります。通常は卵巣がんの発症率は2%程度ですから、大きな違いです。

日本人の乳がん患者全体の5%には、この遺伝子変異があることがわかっています。

遺伝性乳がんは発症年齢が30代~40代前半と若いのも特徴です。トリプルネガティブ乳がん※1や男性乳がん、卵巣がんを発症した方などは遺伝性乳がんの遺伝子を持っている可能性があります。また、男性の方も、身内に乳がんの方がいる場合は、遺伝性乳がんに注意が必要です。

遺伝性乳がんの確立を調べる検査もありますので、下記に当てはまる方は、ぜひ検査を受けていただきたいと思います。

遺伝性乳癌かな?

※1 乳がんのタイプの1つで、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)により増殖する性質をもたず、かつ、がん細胞の増殖に関わるHER2タンパクあるいはHER2遺伝子を過剰にもっていないという特徴をもちます。3つの陰性(エストロゲン受容体陰性、プロゲステロン受容体陰性、HER2陰性)を指してトリプルネガティブと呼ばれます。

乳がん検診のメリットと弱点を理解したうえで、効果的な活用を

自己検診の多くは、ステージⅡ~Ⅲの乳がん
日本では検診受診率向上が課題

乳がんの症状といえば、「乳房のしこり」「乳頭からの分泌液(主に血液)」「くぼみなど乳房の変形」「わきの下のリンパ節の腫れ」が代表的です。痛みはほとんど関係ありません。これらを自覚したら、専門家を訪ねるべきです。

検診のメリットは早期発見ができることです。日本乳がん学会の登録データによると、検診で見つかった方の7割はステージⅠの早期がんでした。ステージⅡまで加えると約8割が早期発見できます。

一方、自分で触って見つけた方の場合、多いのはステージⅡ~Ⅲに当たる2~5㎝の腫瘍です。手遅れではありませんが、大きくなるに従い再発率は高まりますから、早期発見につながる検診は受けておくべきでしょう。

乳がんの早期発見には定期的に検診を受けることが重要ですが、日本では、検診受診率が低く、欧米が軒並み70~80%台なのに対して、2009年は23.8%、2012年で43.4%と極めて低く、検診受診率の向上が課題となっています。

乳がん早期発見には「マンモグラフィ検査」を。
超音波検査の併用がポイント

乳がんによる死亡率を減らすことが、きちんとデータとして証明されているのはマンモグラフィ検診だけです。マンモグラフィ検査により、全年齢の乳がん死亡率を25%も下げることも明らかになっています。

発見契機と腫瘤の大きさ MMG検診により乳癌死は減少する

ただし、乳腺組織が多い「高濃度乳房」の方では、がん検出力が悪くなってしまいマンモグラフィでは発見しにくい場合があります。高濃度乳房は日本人を含むアジア人に多いのですが、乳腺組織が多いと乳房全体が白く映り、がんがあっても背景に埋もれてしまって画像上見つけにくくなってしまいます。

この問題は、高濃度乳房でもがんを検出しやすい超音波検査(エコー検査)でカバーすることができます。ただし、脂肪が多い乳房では逆に超音波検査の検出力は低いことがあるため、マンモグラフィ検査と超音波検査の併用がポイントといえます。

2007年から2011年まで、7万人超の40代日本人女性が参加した臨床試験では、両方の検査を併用した場合はマンモグラフィ検査単独に比べて、1.5倍多くの乳がんを検出できたというデータもあります。

乳癌検診における問題点2 -高濃度乳房-

定期的な検診に加えて、月に一度のセルフチェックを

自己検診も大切です。乳がんは基本的におとなしく、急激に大きくなることは稀ですから、検診は年1回で十分です。ただし、なかには悪性度が高く増殖スピードが速いものもありますから、月に1回、閉経前なら乳房の張りが少ない生理開始後10日目ごろ、閉経後なら日を決めてセルフチェックをすることをおすすめします。

セルフチェックのやり方は、石鹸ですべりやすくして、あおむけに寝た状態で、しこりなどをさわって確かめます。

がん検診には被ばくのデメリットなどもありますが、40歳を過ぎるとデメリットよりメリットが大きくなるといわれています。ご家族の中で若くして乳がんを発症された方がいる場合は、30〜35歳から検診を受けたほうが良いでしょう。

進化する乳がん治療
手術や治療薬の開発が進んでいる

万が一乳がんと診断された場合でも、乳がん治療は日々進化しています。かつては、乳房の全摘出しか選択肢はありませんでしたが、今は乳房温存術や乳房再建術といった、乳房を残す手段が確立されています。

乳がんはステージⅠなら5年生存率が9割と早期発見・治療をすれば治りやすい病気です。ただし、再発して他の臓器に転移すると完治させることは困難になります。進行すればするほど生存率が下がり、再発転移のリスクは高まりますから、やはり定期的な検診がもっとも効果的です。

一方、1970年代以降、乳がん治療薬の開発は盛んで、生存率は向上しています。遺伝性乳がんに効果的な薬も昨年保険適用になりました。さらに生存率は改善されていくに違いありません。

乳がんの罹患数は増えていますが、運動や閉経後の肥満予防、禁煙などでリスクを抑えられます。40歳以降は定期的に検診を受けていただくことで早期発見が可能ですし、たとえ乳がんと診断されても治療法は進化しており、早期で治療を行うことができれば、多くの場合治癒も可能です。恐れずに向き合ってください。

ポイントまとめ

  • 日本人の乳がん患者は増え続けており、欧米型の生活習慣への変化が影響している
  • リスク要因としては喫煙、閉経後の肥満、運動不足、アルコールの過剰摂取などが確実視されており、生活習慣を変えることで発病リスクを抑えられる
  • 女性ホルモンを栄養として増えるタイプの乳がんが全体の8割を占めており、早い初潮、遅い閉経、出産経験がないことや高齢初産が増えていることが乳がん増加の要因の一つ
  • 若年発症の乳がん、トリプルネガティブ乳がん、乳がんと卵巣がん両方を発症、男性乳がんなどでは遺伝性乳がんを疑い、専門家に相談を
  • 乳がん検診は早期発見・治療につながり、死亡率も大きく下げる
  • アジア人に多い高濃度乳房では、マンモグラフィ検査での検出力が悪くなるため、超音波検査との併用が望ましい
  • 万が一がんと診断されても、乳がんは治りやすく、乳房を残す技術や治療方法も進歩している

取材にご協力いただいたドクター

明石定子先生

明石 定子 (あかし さだこ) 先生

日本外科学会 外科指導医・専門医/日本乳癌学会 乳腺専門医・指導医/昭和大学医学部 乳腺外科 教授/グランドハイメディック倶楽部 ハイメディック・ミッドタウンコース 非常勤医


【略歴】
1990年 東京大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三外科に入局。
1992年 国立がん研究センター中央病院外科入局。
2010年 同センター乳腺科・腫瘍内科外来病棟医長に就任。
2011年 昭和大学病院 乳腺外科准教授に就任。
2019年より現職。
現在は、グランドハイメディック倶楽部 ハイメディック・ミッドタウンコースの非常勤医として検診に携わる他、東京ミッドタウンクリニックの乳腺外科にてセカンドオピニオンも行っている。

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