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がん早期発見のために。それぞれの「画像診断」の特徴を知り、効果的ながん検診を。
グランドハイメディック倶楽部 理事長
慶應義塾大学名誉教授
栗林 幸夫(くりばやし さちお)先生
日本人の死因トップである、がん。その対策として、がん検診の重要性が説かれ、日本では自治体が主導して広く国民に提供されている「対策型検診」と、人間ドックなどで提供されている、より高度な機器等を使用した「任意型検診」が実施されています。特に任意型検診ではさまざまな検査方法があり、目的や好みに応じて内容を選択できます。
では、こうした検診で導入されているPETやCTによる画像診断はどのようながんの発見に向いているのでしょうか。1994年に日本で初めて、がん検診にPETを取り入れた、医療法人社団山中湖クリニックの理事長で、慶應義塾大学名誉教授の栗林幸夫先生に、それぞれの画像診断の特徴や選び方についてお話を伺いました。
目次
それぞれに特徴があるがんの画像診断
山中湖クリニックは会員制総合メディカル倶楽部「グランドハイメディック倶楽部」の第一の拠点で、1994年に世界に先駆けてPETによる画像診断を検診に取り入れた施設です。
常に先進的な医療機器を導入し、がんや心臓・脳血管疾患という3大疾病の予防・早期発見に努めています。PETをはじめ多様な画像診断を駆使し、複数の医師がトリプルチェックをする検診システムは「山中湖方式」と呼ばれ、今では、東大病院や京大病院などの医療機関とも提携しています。
お聞きになったことがあると思いますが、画像診断によるがん検診には、PETやCT、MRI、超音波などいくつもの方法があります。なぜこのように異なる機器を使ったがん検診があるかというと答えはシンプルで、それぞれの機器で仕組みが違い、がんの早期発見についても、得手・不得手な部位や分野があるからです。
ですので、全身をもれなく調べるためには、複数の方法を組み合わせて行う必要があります。効果的な検診を受けていただくためにも、代表的な画像診断について、その仕組みや特徴を解説したいと思います。
PET―がん細胞が糖を取り込みやすい性質を利用してがんを発見
PETとは「Positron Emission Tomography(ポジトロン・エミッション・トモグラフィ/陽電子放射断層撮影)」の略です。
がん細胞は、活発な細胞分裂を行うため多くのエネルギーを必要とし、正常細胞に比べると3~8倍もブドウ糖を取り込んで、糖代謝を盛んに行う特徴があります。この性質を利用したのが「PET検査」です。微量のFDG(ブドウ糖に近い成分の検査薬)を注射して1時間ほど時間を置くことでがん細胞にFDGを取り込ませ、その後FDGが集まっている場所を撮影できるPETカメラで撮り、がんの位置を特定するのです。
脳や心臓、肝臓、腎臓、膀胱(ぼうこう)などには、がん細胞がなくともFDGが集まりやすい性質がありますが、医師はこのことも考慮した上でFDGの集積具合からがんの可能性を判断します。今でこそがん検診のひとつとして広く普及しているPET検査ですが、検診では世界で初めて当院が導入した画像診断法で、今もグランドハイメディック倶楽部の検診の基軸の検診方法のひとつです。
PET検査に用いるFDGからは放射線(γ線)が放出されますが、その量はごく微量で、検査による被ばくは人体にほとんど影響がないと言われています。FDG自体による副作用も少なく、検査に痛みも伴いません。受ける人に優しく、全身を一度に調べることができることも特長です。
ただし、ある程度腫瘍が大きくならないと発見が難しく、胃や大腸の粘膜にできた小さながんは見つけにくいとされています。腎臓、尿道、膀胱などの泌尿器系の臓器もFDGが集まり、尿として体外に排出される経路であることから発見するのは苦手です。
※PET検査画像についてはPET/CT写真をご参照ください
CT―人体の輪切り画像でがんの有無を診断
CTとは「Computed Tomography(コンピューテッド・トモグラフィ/コンピュータ断層撮影)」の略で、コンピュータにより人体の輪切り画像を作り出す機器です。体の周り360度方向から円周状にX線を照射し、その吸収の度合いをもとにコンピュータが映像化します。
近年は技術の進歩により、0.5ミリ以下の間隔で断層画像を作成できる機器もあり、ごく小さい腫瘍を見つけることが可能になっています。ごく少量の被ばくはありますが、PETと同じく体に負担の少ない画像診断方法として、広く普及しています。
開発したのはイギリスのレコード会社EMIの社員で、後にノーベル賞を受賞したハンスフィールド氏です。1972年に頭部用として開発されました。当時、EMIはビートルズの世界的大ヒットで潤沢な資金があり、その資金を使って開発に注力できたそうです。
ビートルズが医療の発展に寄与したとは驚きのエピソードですね。最初のモデルは1枚の画像の撮影に数分かかり画像処理するのに一晩を要しましたが、今では全身を数秒で撮影し画像化できるようになっています。
CTは全身の細かい部分までみることができる、形態診断に優れた機器です。例えば、腺(せん)がんという種類の肺がんには「すりガラス結節」という小さな病変を呈するものがありますが、胸部X線のような単純写真では、おおよそ見つけることはできません。ところがCTだと小さな淡い白い影として現れるので、早期がんの発見につながります。
CTは肝臓や腎臓、膵臓などの実質臓器の腫瘍を見つけるのに適していますが、食道や胃、大腸といった壁の薄い管腔臓器(筒状で中が空洞の臓器のこと)の早期がんの発見はやや苦手です。こうした部位には内視鏡検査をお勧めしています。
■腹部CT検査画像
MRI―磁力と電磁波の力で精度の高い検診を実現
MRIは「Magnetic Resonance Imaging(マグネティック・レゾナンス・イメージング/磁気共鳴画像診断)」の略です。私たちの体には多くの水分が含まれています。MRIは、水を構成する水素原子に磁気と電磁波を使って水素原子の位置を解析し、微弱な体からの信号をとらえて人体のあらゆる部分の断層像を撮影します。CTとMRIはどちらも体の断面画像を得るためのものですが、MRIのほうが縦・横・斜め方向など、自由に3次元画像を作りだすことができます。
CTよりも多くの情報が得られ、これらの変化をとらえて画像化し、病変を抽出したり、その広がりや形状の判断をしたりすることが可能です。検査にはX線を使用しないので被ばくの心配がありません。ただし、狭い機器の中に30分~1時間ほど入り、大きな音も聞こえるので、苦手な人もいらっしゃいます。磁場の中で検査するので金属類を取り外す必要があります。
MRIの長所は、多くの情報を収集できることです。現在は磁場の強さが1.5テスラ※の機器と3.0テスラの機器が臨床用として認められていますが、磁力の強い3.0テスラMRIのほうがよりクリアな画像が得られます。
※テスラ…磁場の密度を表す単位の一つ
グランドハイメディック倶楽部の施設では全ての施設で3.0テスラMRIを導入しており、腹部や骨盤内の様々な臓器のがんの早期発見につながります。脳梗塞や脳腫瘍といった脳疾患を見つけるのも得意で、脳の画像診断はMRIの独壇場です。
■頭部MRI検査画像
2つの画像診断の良いとこ取りをしたPET/CT、PET/MRI
ここまでで、PET、CT、MRIという、がんの早期発見に効果的な3つの画像診断に触れましたが、現在はPETとCT、MRIを組み合わせた装置も登場しています。
PET/CTは、早期がんの発見に効果的なPETと、がんの正確な位置や形を描写できるCTを一体化した機器です。同時に撮った2つの画像を合わせて診断することで、PETだけでは難しい、がんのある臓器の特定に効果を発揮します。
PETにCT画像を加えることで、病変の位置とその範囲を正確に知ることができます。PET/MRIも同様に、PETとMRIの2つの画像診断を組み合わせたものです。
PET/MRIは、PET/CTと同様のメリットが得られ、MRIは放射線を使わないため被ばくがより少ないです。得られる画像の種類も多いため、病気の存在や性質を詳しくみることができます。
■PET/CT検査画像
画像診断は、これらにとどまりません。他にも、脳の血管や血流の状態を細かく画像化して、脳腫瘍や脳梗塞、脳動脈瘤などの早期発見に適した「MRA(MR血管撮影)」、早期発見が難しいとされる膵臓がんや胆管がんを、膵管や胆管の様子を描画して見つける「MRCP(MR胆管膵管撮影)」といった検査もあります。
画像診断技術は日進月歩で向上しており、これらを活用することで、がんの早期発見がますます可能な時代になっています。
新たな診断方法は患者さんへのメリットを確認しながら導入
AI(人工知能)の医療への応用が最近注目されています。AIを使った画像診断も、大手機器メーカーやベンチャーが参入している近年のトレンドです。関連学会でAIに関する講演があると、立ち見が出るほど、多くの医療関係者は関心を持っています。しかしながら、臨床レベルで使うことができる手法はまだまだ少ないのが実情です。
がんの検診は過剰診断の問題もあり、適切なバランスが大切です。最新の技術は取り入れながらも、それらが受診者の方へメリットをもたらすことを確認しながら進めていかなければなりません。
グランドハイメディック倶楽部では、AIに代表される新しい診断技術や診断方法に常に関心を持ち、より正確な診断に結びつく価値のあるものであれば、積極的に取り入れていく方針です。
最新機器を活かすには、画像チェック体制や読影する医師の経験・スキルが大切
がんは最悪の場合、人を死に至らしめる恐ろしい病気ですが、早期に発見すれば治癒を目指せる病気でもあります。
グランドハイメディック倶楽部では、放射線診断を専門とする医師による画像のダブルチェック、トリプルチェックの確立などプロフェッショナルなチェック体制の確立と、綿密な読影プロセスなど、経験に裏打ちされた独自のメソッドがあります。
先端機器も大事ですが、それを使う技師や医師のスキルも、がん検診の施設選びでは気を付けるべき点でしょう。
また、年に1回ほど定期的に検診を受けていただき、経年データを基に変化を観察することが大切です。グランドハイメディック倶楽部では、これらの画像データをデジタル情報として画像サーバーに保管していますので、必ず前回画像と比べて診断するようにしています。
我が国では、こうした最新の画像診断をはじめ、多様な検査が受けられる一方で、がん検診の受診率は世界の先進国中でも低いという実情があります。せっかくの恵まれた環境を生かして、ぜひ定期的な検診に足を運んでいただきたいと思います。
がん検診における各画像診断の特徴まとめ
| PET | CT | MRI | |
|---|---|---|---|
| 使用する線種 | γ(ガンマ)線 | X線 | 磁気・電磁波 |
| 得られる画像 | 断層像 | 断層像 | 断層像 |
| 主な対象疾患 | 呼吸器がん、消化器がん、婦人科系がん、甲状腺がん、乳がん、頭頸部がん、悪性黒色腫など | 肺がん、肝臓がん、腎臓がん、膵臓がん、泌尿器がんなど | 脳腫瘍、前立腺がん、子宮がん、卵巣がん、肝臓がん、すい臓がん、腎臓がんなど |
| 長所 | 全身を一度に検査できる。 がんの活動具合や悪性度が判別しやすい。 | 短時間で広範囲の撮影ができる。 骨の病変や石灰化が判別しやすい。 | 組織コントラストが高く鮮明。 得られる情報量が多い。 放射線被ばくがない。 |
| 短所 | 炎症を起こしている部位があると、がんと判別がまぎらわしい場合がある。 若干だが放射線被ばくがある。 | 若干だが放射線被ばくがある。 | 検査時間が長い。 体内に金属を埋め込んでいる方は使用できない場合がある。 |
ポイントまとめ
- PET、CT、MRIは代表的ながんの画像診断。それぞれで得手・不得手があるため、特徴に合わせて利用するのが効果的
- PET/CT、PET/MRIはそれぞれの画像診断の良いところを組み合わせた診断方法。より精度の高い画像を得ることが可能
- AIを利用した画像診断など新たな診断技術も登場。但し、それらの導入には受診者の方にとってメリットになるというエビデンスの確認が大切
- 最新機器の能力を活かし、がんの早期発見につなげるためには、検診施設の画像チェック体制や医師の経験・スキルも重要
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