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【トピックス】大腸がんの発症に関わる腸内細菌を特定。早期診断の新検査法として期待
大阪大学などの共同研究チームは、大腸がんの発症に関連する複数種の腸内細菌を特定し、米医学誌「ネイチャーメディシン」に研究論文を発表しました。大腸がんの早期診断や予防への活用など、期待がふくらみます。
目次
腸内フローラの乱れがさまざまな疾患と関係
国立がん研究センターのがん統計(2014年)によると、大腸がんは胃がんを抜き、日本では一番多いがんとなっています。食事など生活習慣の欧米化などが原因と考えられていますが、そのメカニズムは明らかになっていません。
ヒト一人の細胞数は約37兆個とあるといわれていますが、腸内細菌の数はそれを上回ります。研究チームによると、腸内細菌の総数は約40兆個で、重さにして約1~1.5kgもあるといわれており、最近になって、腸内フローラの乱れが炎症性腸疾患などさまざまな疾患と関係することがわかってきました。
腸内フローラは、正式には「腸内細菌叢」といいます。腸内に棲む細菌は、大きく善玉菌、悪玉菌、状況によって善玉菌の味方をしたり悪玉菌の味方をしたりする日和見菌の3つに分けられます。菌種ごとに塊になって腸壁に張り付いていて、ちょうど品種ごとに並んで咲くお花畑(フローラ)にみえることから「腸内フローラ」と呼ばれています。
たとえば、口腔内で歯周病の原因菌として知られるフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)は、大腸がんの患者さんの便中に多く存在することが報告されています。
大腸がんは、大腸ポリープ(腺腫)、粘膜内がん※1を経て進行がんへと進展します(これを「多段階発がん」といいます)。大腸腺腫とは、大腸にできる良性ポリープの一種で、腺腫は正常粘膜とがんの中間の状態と考えられています。一般的には正常粘膜から腺腫ができて、その腺腫が大腸がんになっていきます。これまで、進行した大腸がんに関連する細菌はいくつか特定されてきましたが、大腸ポリープ(腺腫)や粘膜内がんと関連する細菌や代謝物質は知られていませんでした。
※1粘膜内がん
大腸がんは大腸の粘膜から発生し、初期の段階では粘膜内にとどまっていますが、大きくなるにしたがって次第に粘膜下層、筋層、漿膜下層(しょうまくかそう)へと達します。早期大腸がんは、がんの広がりが粘膜下層までにとどまっているがんで、粘膜内がんと粘膜下層がんに分けられます。粘膜内がんは粘膜にとどまっているごく早期のがんで、転移の報告はありません。粘膜内がんの場合、大きな手術の必要はなく大腸内視鏡(大腸カメラ)での治療が可能です。
大腸がんの発症初期に関連する細菌を特定
今回の研究では、国立がん研究センター中央病院を受診し、大腸検査を受けた616人を対象に行われました。研究チームは、便の分析のほか、大腸内視鏡検査データの解析、さらに食生活に関するアンケート調査などを行いました。
その結果、がんの発症から進行がんに至る過程によって増減する腸内細菌の種類が大きく異なることが判明しました。
大腸がんの多段階発がんの過程で関連する細菌は大きく下記の2つのパターンに分けることができるとのことです。
- ①粘膜内がんのステージから増加し、がんの進行とともに増える細菌
- 多くはフソバクテリウム・ヌクレアタムやペプトストレプトコッカス・ストマティス(Peptostreptococcus stomatis)など、すでに進行大腸がんで増えていることが報告されている細菌です。
- ②多発ポリープ(腺腫)や粘膜内がんのステージでだけ増える細菌
- アトポビウム・パルブルム(Atopobium parvulum)やアクチノマイセス・オドントリティカス(Actinomyces odontolyticus)が特定され、これらの細菌が大腸がんの発症初期に関連することが強く示唆されるとしています。
ほかにも、一般にもよく知られているビフィズス菌は粘膜内がんの段階で減少していることがわかりました。がんの進行に従って増えていくアミノ酸があるなど、がんの進行度と、腸内細菌や細菌がつくる代謝物質の種類や量との間にさまざまな関連性があることも指摘されました。
腸内環境を改善することでがんの予防も
がん検診は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることを目的として、厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」に従って、ほとんどの市区町村が実施しています。
大腸がん検診は、問診(自覚症状や既往歴、家族の病歴などの確認)と便潜血検査(大腸がんやポリープなどによる出血の有無)によって行われます。検査結果が「要精密検査」となった場合、通常は大腸内視鏡検査が行われます。
研究チームは、今回の研究結果から、患者さんの便に含まれる腸内細菌を詳しく調べることにより、粘膜内がんのような初期段階の大腸がんを見つけることが可能であり、がん検診に活用することで、大腸がんの早期発見が期待できるとしています。
また、がんを発症しやすい腸内環境を改善することにより、がん予防の先制医療※2にも応用できるとしています。
※2 先制医療 個人のゲノム(遺伝情報)、タンパク質、代謝物質などを用いて、将来起こりやすい病気を発症前に診断・予測し、介入するという予防医療のこと。
ポイントまとめ
- 大腸がんの発がんに関連する細菌を発見した
- がんの発症から進行がんに至る過程によって増減する腸内細菌の種類が大きく異なることが分かった
- 便の解析により、健常者と比較してがんの進行段階で増減している細菌や代謝物質が確認された
- 大腸がんの早期診断や予防のほか、大腸がんになる前に治療を行うことも可能になる
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