子宮頸がん予防に欠かせないHPVワクチン [Part-1]
正しく知って効果的ながん予防を。

公開日:2020年12月30日
正しく知って効果的ながん予防を。
関東中央病院 産婦人科
みんパピ!(みんなで知ろうHPVプロジェクト)代表理事

稲葉 可奈子(いなば かなこ)先生

原因の約9割が、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染である子宮頸がん。そのため、ほかのがんとは異なり、ワクチンで予防ができる“珍しいがん”です。しかし、副反応についての誤解や不安から、日本のHPVワクチン接種率は世界各国に比べ非常に低く、このままだと救えるはずの多くの命が失われてしまうという予測も出ています。今回は、子宮頸がん・HPVに関する情報発信や、HPVワクチンの普及活動に尽力する「みんパピ!(みんなで知ろうHPVプロジェクト)」代表理事で、関東中央病院の産婦人科医・稲葉 可奈子(いなば かなこ)先生に、HPVワクチンの正しい知識を教えていただきました。

目次

子宮頸がんのリスクはHPVワクチンで予防できる

子宮頸がんのリスクはHPVワクチンで予防できる

子宮頸がんは、95%以上が「ヒトパピロ―マウイルス」(HPV)というウイルスの感染によるものです。

HPVは200以上もの種類があり、そのすべてが身体に悪影響を及ぼすものではない、ごくありふれたウイルスです。約8割の人が一生に一度はHPVに感染するともいわれ、感染したとしても、そのほとんどが一過性で自覚症状もありません。

一般的に、ウイルスの主な感染経路は皮膚の接触です。なかでも、子宮頸がんの原因となるHPVは粘膜の接触、すなわち性交渉で感染します。オーラルセックスなどでも感染し、中咽頭がんや肛門がんの原因にもなります。

子宮頸がんの原因となるHPVは200種類ほどのうち、約13種類(ハイリスクHPV)です。その中でウイルス16型と18型が子宮頸がんの原因の約7割を占めるといわれ、この2種が引き起こす子宮頸がんのリスクをHPVワクチン(2・4価)で予防することができます。

とはいえ、ワクチンを接種していれば、子宮頸がん検診はしなくてもよいというわけではありません。子宮頸がんの原因となる感染のうち、16型・18型については上述のようにワクチンで予防できますが、ほかのハイリスクHPVによるリスクは残るためです。

また、子宮頸がんの好発年齢は他のがんに比べて若年で、20代後半から患者数が増加することもあり、ワクチンを接種した人も20歳を過ぎたら必ず検診に行くことが大切です。

HPVワクチンにはどんな種類がある?

HPVワクチンには、予防できるHPV型の数が異なる2価、4価、9価の3種類があります。
2価は、子宮頸がんの主な原因になる16型と18型のHPVが予防できるものです。4価はそれに加えて、尖圭(せんけい)コンジローマという性感染症の原因になる6型・11型のウイルスも予防できます。現在、日本ではこの2価と4価のワクチンが定期予防接種に使われています。

特に4価ワクチンにおいては、世界で最も信頼性のある医学ジャーナル「NEJM(The New England Journal of Medicine)」で、17歳以下で接種すれば子宮頸がんリスクを88%下げるというデータも発表されています。

2020年7月に日本でも承認された9価ワクチンは、上記に加えてさらに5つのウイルスの予防が可能で、子宮頸がんの原因となるHPVの約9割の感染を防げると発表されています。

しかし、2020年12月現在、国内ではまだ一般には流通していません。接種できる病院もありますが、個別に海外から輸入して提供しているものになり、全額自己負担となります。

子宮頸がんの原因HPV型

※「みんパピ!」提供

子宮頸がんの予防にはワクチン接種と定期検診の併用が有効

「ワクチンを打たなくても、子宮頸がんの定期検診さえしていれば、がんを早期発見できるので問題ないのでは?」という声も聞きますが、実はそんなことはないのです。

子宮頸がんには、がんになる前の「前がん病変」として「異形成」という段階があります。数年単位の異形成の期間を経て、一部ががんに進行していくため、1~2年ごとに検診を続けていれば、がん化する前に発見可能です。

しかし、前がん病変が見つかると、3カ月ごとに婦人科へ通院し、毎回、内診台での検査や出血を伴う生検(=組織診:病変の一部を採り、顕微鏡で詳しく調べる検査)が必要になるため、時間的にも身体的にも非常に大きな負担がかかります。通院のたびに感じる、がんに進行しているのではないかという不安も心理的ストレスにつながります。

ワクチン接種に適した年齢は?

子宮頸がんの予防のためのHPVワクチン接種が推奨される年齢は、小学校6年生~高校1年生の女子です。

予防接種によって作られた抗体は20年ほど維持されると推定されており、性交渉を経験する直前の年齢に打ち、性的に最もアクティブになる年代をカバーするのが有効だと考えられているためです。

日本では上記5年間の対象年齢のみ、HPVワクチンを「定期予防接種」として、自治体からの補助で、無料接種できます。接種回数は全部で3回。2価ワクチンは、1回目の接種から1カ月以上期間を置いて2回目の接種、1回目から半年以上の期間を置いて3回目の接種を行います。4価ワクチンは、1回目と2回目の期間を2カ月以上空けるのが一般的です。

一般的な摂取間隔とやむを得ず間隔を短くした場合

※「みんパピ!」提供

推奨年齢から外れてもあきらめないで

3回の接種を無料で済ませたい場合には、高校1年生の9月までには少なくとも1回目の接種をしておきましょう。現在高校1年生でこの時期を過ぎてしまった人でも、接種スケジュールを短縮することも可能なので、お近くの医療機関に相談してください。

しかし、定期予防接種の年齢を過ぎてしまうと、3回接種で5~6万円(1回あたり1万5000円~)と全額自費負担になってしまいます。

居住している区域の自治体からの通知が来なかった、あるいは副反応疑いの報道の影響を受けて、接種を控えてしまった高校2年生~20歳前後の人が多く見られます。また、「すでに性交渉を経験済みだけれど、HPVワクチンを打った方が良いのか」という相談もよく受けます。どちらの場合も対象年齢を過ぎている場合は自費にはなりますが、「ワクチンを打つ意味は十分にあります」と伝えています。

性交渉経験者からは、HPV感染有無の検査をワクチン接種の前にするべきかという質問もよく受けます。これについては、性交渉の経験があっても4種類のHPV全部に感染している可能性はかなり低く、ワクチンでその後の感染を予防できるので、費用面を考えても検査をせずにワクチンの接種を優先することをおすすめしています。

ポイントまとめ

  • 子宮頸がんの95%以上が性交渉で感染するHPVによるもので、約6~7割がHPVワクチンで予防できる
  • HPVワクチン接種と定期検診の併用が子宮頸がんの予防に最も効果的
  • HPVワクチン接種に適した年齢は小6~高1の5年間で、その間は無料で接種できる。無料で接種できる期間を過ぎてもワクチンの接種は有効

取材にご協力いただいたドクター

稲葉 可奈子先生

稲葉 可奈子 (いなば かなこ) 先生

医師・医学博士・産婦人科専門医。「みんパピ!(みんなで知ろうHPVプロジェクト)」代表理事。予防医療普及協会顧問。京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得。現在は関東中央病院産婦人科に産婦人科医として勤務。
HPVワクチンの情報を対象者に届ける運動や子宮頸がん予防の啓発活動にも広く携わる。また、経済メディアNews Picksのプロピッカーとして、一般向けの正確な医学情報の発信にも努めている。

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