リモートワークでがんのリスクが上昇?長時間座ったままの仕事にご用心!

公開日:2020年06月30日

喫煙や過度な飲酒、塩分摂取などの生活習慣が、がんの発症リスクを高めることは一般的にも知られており、注意している人も多いのではないでしょうか。加えて、今年1月、国立がん研究センターから、「長時間座ったまま仕事をすること」ががんリスクを上昇させる、という研究結果が報告されました。日頃からデスクワーク中心のビジネスパーソンはもちろん、昨今は新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークとなり、座っている時間が増えたという人も多いはずです。こうした状況も、がん発症のリスクを高める可能性があるといいます。ここでは研究の内容お伝えするとともに、予防策について考えてみたいと思います。

目次

新型コロナウイルス感染症によるリモートワークで、運動不足の人が増加

2020年4月に発令された緊急事態宣言は解除され、一時に比べると状況が落ち着きつつある、新型コロナウイルスの感染拡大。4月~5月は国や自治体の外出自粛要請で出社を控え、自宅などでのテレワーク・リモートワークとなったビジネスパーソンが急増しました。

一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)が、同会の会員(純資産額(単体または連結)が1億円以上)を対象として4月に実施した調査結果によると、回答があった会員企業の97.8%は、テレワーク・在宅勤務を導入したそうです。また、感染者数の多かった東京では、都内企業のテレワーク導入率が4月で62.7%と、3月の24.0%に比べて約2.6倍に増えました(東京都調べ)。

貴社では緊急事態宣言発令後の新型コロナウイルス感染症への対応として、テレワークや在宅勤務を導入していますか。

出典:日本経済団体連合会 「緊急事態宣言の発令に伴う新型コロナウイルス感染症拡大防止策 各社の対応に関するフォローアップ調査(2020年4月14日~17日実施)」

都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は、3月時点と比較して大幅に増加

出典:東京都「テレワーク導入率緊急調査結果(令和2年5月11日)」
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1007261/1007864.html

政府は、感染拡大防止のために、6月以降も引き続き在宅勤務に協力するよう求めており、テレワーク・リモートワークを継続している企業も少なくありません。昨今は働き方改革の推進に伴い、国をあげて柔軟で多様な勤務形態の実現を推進していたところでもあり、今回の新型コロナウイルス感染症対策を機に、こうしたワークスタイルが急速に進むかもしれません。

在宅勤務をはじめとするテレワークは、通勤や移動の手間・コストが減るなど、従業員、企業双方にメリットがあります。緊急事態宣言で在宅勤務となったビジネスパーソンにとっては、毎日の満員電車利用といった精神的・肉体的な負担が軽減したという方も多いでしょう。しかしその一方で、運動不足になる人も多かったようです。

ヘルステック企業の株式会社リンクアンドコミュニケーションが、自社が提供する健康アプリのユーザーを対象に調べたところ※1、1日に歩く歩数は、2020年1月に比べると緊急事態宣言後の3月29日以降では大きく減少し、4月以降は体脂肪率も上昇傾向にあることがわかりました。

※1 株式会社リンクアンドコミュニケーション「新型コロナウイルス流行下での生活習慣の変化」第2弾調査

長く座ったままで仕事をすることが、がんリスクを高める

新型コロナウイルス感染症拡大による在宅勤務の増加と前後して、2020年1月に、長時間座ったまま仕事をするとがんの発症リスクが上昇する、という研究結果が報告されました※2

国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループが中心となって実施し、医学誌『Cancer Science』に掲載・発表されたこの研究では、職業性座位時間(仕事中に座っている時間)の長さは男性のすい臓がん、女性の肺がんの発症リスクと関連が深いことが示されました。

長く座ったままで仕事をすることが、がんリスクを高める

同グループは、さまざまな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防・健康寿命の延伸に役立つ多目的コホート研究※3(JPHC Study)を進めています。

近年、日常生活のなかで長時間座っていることが健康に与える影響について関心が高まっているものの、日本人の仕事中の座位時間とがん発症リスクを調べた研究結果はなかったそうです。

そこで今回、2000〜2003年に国内10の保健所(岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田)管内に住む、がんや循環器疾患にかかってない市民を対象に、仕事中の座位時間に関してアンケートを実施。回答した50~74歳の男女約33,000人を対象に、2013年まで追跡調査を行われました。

約10年の追跡調査期間中に、新たに3,807例ががんと診断されており、仕事中の座位時間を「1時間未満」「1~3時間未満(基準)」「3~5時間未満」「5~7時間未満」「7時間以上」の5グループに分類して、男女別、部位別(胃、食道、大腸、結腸、直腸、肝臓、すい臓、肺、腎臓、膀胱、前立腺、乳房、子宮体部)にがんの発症との関連が調べられました。

※2 国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループ多目的コホート研究(JOHC Study)職業性座位時間とがん罹患リスクとの関連 https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8485.html

※3 ある時点で研究対象の病気にかかっていない人を大勢集め、長期間観察・追跡することで、ある要因の有無が病気の発生や予防に関係しているか調査すること)

男性はすい臓がん、女性は肺がんの発症リスクが上昇

研究の結果からわかったことは、仕事において座っている時間が長いほど、男性はすい臓がん、女性は肺がんの発症リスクが高まるということです。また、統計学的な有意差はやや弱いものの、職業性座位時間が長いほど、男性のがん全体の罹患(りかん)リスクが高くなる傾向や、結腸がんのリスクが高まる傾向もみられました。

男性はすい臓がん、女性は肺がんの発症リスクが上昇

欧米の研究では、職業性座位時間が長いと肥満を介して結腸がんのリスクが高まることが報告されており、今回の研究では欧米の研究ほど明確な関連はみられませんでしたが、日本人男性も長時間の座位は結腸がんのリスクを高める可能性があることを示唆した内容です。

今回の結果の理由として研究グループは、身体活動の低下によるインスリン抵抗性の促進(血糖値を下げるホルモンであるインスリンが働きにくくなった状態)、がん細胞を増やしやすくする慢性炎症などを挙げました。運動不足や内臓脂肪型の肥満はこれらの進行を早めることがわかっており、がん全体の共通したリスクとしてすでに報告されています。特にインスリン抵抗性と関連のあるすい臓がんでリスクが高まった可能性が考えられますが、現時点でははっきりとしたメカニズムはわかっていません。

頻繁に体を動かすと、がんリスクは低減する

ご紹介した研究の結果を踏まえ、がん発症のリスクを減らすために私たちにできることは、長時間の座位を避け、適度に体を動かす習慣を生活に取り入れることです。

同じく国立がん研究センターの多目的コホート研究※4によると、男女ともに身体活動量(生活活動:日常生活における労働、家事、通勤・通学などの身体活動、および運動:スポーツなど特に体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し、継続性のある身体活動)が高いほど、何らかのがんになるリスクは低下することが明らかになっています。部位別では、男性は結腸がん、肺がん、すい臓がん、女性は胃がんのリスクが下がったとのことです。

最近はスマートウォッチをつける人が増えていますが、一定時間座っているとアラートで知らせる機能があるものもあるので、こうしたツールを活用するのもいいでしょう。

では、具体的には、どのくらいの運動を取り入れればいいのでしょうか。
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動基準2013」では、健康診断で血糖・血圧・脂質の数値が基準以内の18~64歳の人であれば、「歩行またはそれと同等以上の身体活動を毎日60分」と「息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分」を推奨。65歳以上の人に対しては「強度を問わず40分の身体活動」が推奨されています。

頻繁に体を動かすと、がんリスクは低減する

ちなみに、米国国立がん研究所の研究※5でも、余暇における運動(ウォーキング、ランニング、スイミング、その他中~高強度の運動)は、大腸がん、乳がん、子宮体がんの発症リスクを低下させ、なかでも食道がん、肝臓がん、胃噴門部がん、骨髄性白血病においては大きく低下、骨髄腫、頭頸部がん、直腸がん、膀胱がんにおいても有意なリスク低下がみられたと報告されています。

身体活動が活発だと、がんだけではなく心疾患のリスクなども低くなり、健康寿命の延伸につながることも分かっています。移動手段が公共交通機関中心という首都圏のビジネスパーソンであれば、通勤を含めると1日1万歩近く歩いているという人もめずらしくないと思いますが、在宅勤務やテレワークで通勤時の歩行がなくなると、かなりの運動量の低下になってしまいます。運動不足を補うために、時間を見つけて家の近くでジョギングしたりウォーキングしたりすれば、健康増進を図ることができるとともに、仕事の効率アップにも一役買うことでしょう。

在宅勤務、テレワークがあたりまえの世の中が来るかもしれません。さっそく、日常に運動習慣を取り入れてはいかがでしょうか。

※4 国立がん研究センター 社会と健康研究センター予防研究グループ 多目的コホート研究(JPHC Study)身体活動量とがん罹患との関連について

※5 NCI Press Release 「Increased Physical Activity Associated with Lower Risk of 13 Types of Cancer」May 16, 2016
  https://www.cancer.gov/news-events/press-releases/2016/physical-activity-lowers-cancer-risk

ポイントまとめ

  • 新型コロナ感染症の影響で、リモートワーク・テレワークの導入企業が大きく増えている
  • リモートワークの結果、運動不足となっている人が増加した
  • 国立がん研究センターによる、日本人33,000人を対象にした研究で、座ったままで仕事をする時間が長いと、がん発症リスクが高まることが判明
  • 特に男性はすい臓がん、女性は肺がん発症のリスクが高まることが指摘された。ただし、明確なメカニズムは分かっていない
  • 長時間の座位を避けて運動習慣を取り入れることで、がんのリスクを軽減できることが、国内外の研究結果から明らかになっている
  • 18~64歳は歩行またはそれと同等以上の身体活動を毎日60分、息が弾み汗をかく程度の運動毎週60分行うことが推奨されている

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