患者さんが安心して働ける社会を目指す「がん対策推進企業アクション」。令和元年度の表彰とがん早期発見をテーマに講演を実施

公開日:2020年04月30日

女性の社会進出や定年延長の流れの中で現役世代のがん患者が増加しており、職場におけるがん対策や啓発の重要性がますます高まっています。
2009年よりスタートした国家プロジェクト「がん対策推進企業アクション」は、啓発ツールの作成・配布や、がん対策に取り組む企業・団体を推進パートナーとして募集するなど、職場におけるがん検診受診率の向上と、がんになっても働き続けられる社会の構築に取り組んでいます。
2020年3月18日に東京・時事通信ホールで開催された1、同アクションの「令和元年度統括セミナー」での、積極的な取り組みを行った企業の表彰、2名の医師による、仕事と治療の両立に有用な治療・検査についての講演内容をご紹介します。

※1 新型コロナウイルス感染予防のため、ネットでのライブ配信のみでの開催。

目次

職場でのがん対策に積極的に取り組む5社を表彰

がんの治療技術が日々進歩する一方で、日本のがん患者数は増加傾向のまま、減少には転じていません。がんが日本人の死因の第1位となったのは1981年のことですが、40年近く経っても依然がんは死因のトップ※2です。

※2厚生労働省「2018年人口動態統計(確定数)」参照

こうしたなか、2006年、厚生労働省はがん対策基本法を成立させて本格的ながん対策に乗り出しました。「がん対策推進企業アクション」もその一環で、2009年に厚生労働省の委託事業としてスタートしました。

職場でのがん検診受診率50%への引き上げ(現在、日本における胃がん・大腸・がん肺・子宮頸がん・乳がん各検診の平均値は約40%)と、がんになっても働き続けることができる社会の構築を目指した同アクションの、11年に及ぶ取り組みは徐々に浸透しつつあります。

2020年3月現在、「推進パートナー」として同アクションに登録した企業・団体は3,315に達し、そこで働く従業員数は780万人を超えています。

がん検診の受診率

厚生労働省 令和元年度がん検診受診率50%達成に向けた集中キャンペーンサイトより https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/campaign_2019/index.html

今回の統括セミナーでは、推進パートナーの中から令和元年度、積極的にがん対策に取り組んだ5社の表彰が行われました。

○「厚生労働大臣賞」
野村証券株式会社
○がん対策推進パートナー賞「検診部門」
テルモ株式会社
○がん対策推進パートナー賞「治療と仕事の両立部門」
田辺三菱製薬株式会社、長野朝日放送株市区会社
○がん対策推進パートナー賞「情報提供部門」
富士通株式会社
令和元年度 がん対策推進企業表彰 表彰式

「厚生労働大臣賞」を獲得した野村證券は、治療と仕事の両立支援ガイドブックを作成するほか、人間ドック休暇や二次検査休暇などが取れるようにして検診を徹底。法定健診の受診項目にがん検診を組み込んで受けやすくしているテルモ株式会社など、各社、工夫を凝らした取り組みが行われています。

長野朝日放送株式会社は、地域全体の健康長寿を目指して情報発信を行うといった放送局ならではの活動も展開。また情報提供部門で受賞した富士通株式会社は、セミナーやeラーニングによるがん教育を推進するなど、企業規模や業種に応じた柔軟な取り組みが高く評価されました。

厚生労働省 健康局がん・疾病対策課 課長の江浪 武志(えなみ たけし)氏は、表彰後の講演で「生涯で2人に1人が罹患し、3人に1人は命落とすというがんは非常に手強い病気です」として、今後のよりいっそうの企業・団体におけるがん対策の必要性を呼びかけました。

短時間、通院治療が可能な放射線治療は仕事と治療の両立に有用

東京大学医学部附属病院の中川 恵一(なかがわ けいいち)先生

続いて、「がん対策推進企業アクション」のアドバイザリーボート議長として発足当時から活動を支えてきた東京大学医学部附属病院の中川 恵一(なかがわ けいいち)先生により、「早期発見と治療法の選択が両立支援のカギ」と題した講演が行われました。

中川先生は、「在職中に従業員が命を落とす疾患の9割ががんです。職場でのがん教育やがんになっても働きやすいように環境整備することは必須です」と言います。

「近年は、女性の社会進出が著しいため、若い世代から罹患する可能性の高い乳がんや30代がピークの子宮頸がんに対する教育や対策も欠かせません。さらに、定年の延長により従業員の高齢化が進み、在職中にがんに罹患する従業員が大きく増えることが予測されるため、企業におけるがん対策が今以上に必要になるでしょう」(中川先生:以下同)

中川先生自身も2018年に膀胱がんを患ったがんサバイバーであり、早期発見できたことにより、短期間の入院で仕事もほとんど休まずに済んだことから、がん検診の重要性を痛感したそうです。

「検診が重要な理由としては、早期のがんにはほとんど症状がないことが挙げられます。また検診で、早期にがんが見つかった人の生存率は、症状が出てからがんと診断された人を大きく上回るというデータもあります。私自身もそうでしたが、多くの人は、自分ががんになることを想定していないと思います。しかし、危機感をもって毎年必ず検診を受け、女性の場合は乳がんのセルフチェックなども心掛けてほしいと思います」

中川先生はまた、「治療と仕事の両立には、どのような治療を選ぶかも重要」としたうえで、放射線治療の特長について解説しました。

「放射線治療については、『費用が高いのでは』『進行を抑えるだけでがんを根絶できないのでは』と誤解している人も少なくありませんが、99%の治療が保険適用になっていますし、多くのがんで手術と同等の効果が期待できます」

「放射線治療では、よく『がんを焼く』という表現をしますが、実際には患部の温度は2千分の1度しか上がりません。放射線照射でがん細胞が変化を起こすことで体内の免疫細胞の攻撃を受けやすくなり、その結果がんの治療につながるのです」

短期間の通院による放射線治療でがんが寛解(画像上がんが消失すること)し、その後も再発なく暮らしている肺がんの患者さんの事例などから、仕事と治療の両立における放射線治療の有用性を紹介。2020年から少数の転移がんに対する定位放射線治療※3が保険適用になり、薬物療法に加えて放射線治療という選択肢が増えることで、「放射線治療がさらに広がっていくでしょう」と締めくくりました。

※3 CT・MRIなどの画像情報をもとに病変の位置・形状・大きさを正確に決定した上で、さまざまな方向から放射線をがんに対してピンポイントで照射する放射線治療。

負担の少ない「リキッド・バイオプシー」で、がん検診受診率向上に期待

続いて登壇した東京医科大学医学総合研究所の落谷孝広先生は、「血液マイクロRNAによるがん早期発見の実用化と課題」と題した講演の冒頭で、日本人のがんの罹患率や死亡率が減らない理由として、国際的にも日本のがん検診受診率が低いことを指摘。

現に欧米で大腸がんの罹患率と死亡率が減少した要因として、検診受診率が60%を超えたことが大きいと考えられると述べました。

女性の子宮頸がん検診受診割合(20-69歳) 女性の子宮頸がん検診受診割合(50-69歳)

厚生労働省 令和元年度がん検診受診率50%達成に向けた集中キャンペーンサイトより
https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/campaign_2019/index.html

日本においてもがん検診受診率を上げるためにさまざまな取組みがなされていますが、検診時における受診者の肉体的・精神的負担がさまたげになっている側面があります。そこで落谷先生らのグループは、できるだけ痛みや不安の少ない簡便な検査として、血液1滴でがんを診断する「リキッド・バイオプシー※4の研究を進めています。

「リキッド・バイオプシーで調べるのは、血液中の『マイクロRNA※5と呼ばれる物質です。がん細胞が生き延びるために、自ら分泌しているのがマイクロRNAです。これを調べれば、体内にがんが潜んでいるかどうかがわかります。」(落谷先生:以下同)

※4 血液、尿などの体液サンプルを用いて、がんの早期発見やがんの詳細な遺伝子情報の入手が可能となる診断技術。内視鏡や針を用いた従来の組織の生検(biopsy)に比べて、簡便で受診者の負担が少ない。

※5 体の中で遺伝子やタンパク質を制御しているDNAの仲間で、細胞や器官、臓器の分化に関わっているとされる。近年、細胞のがん化にも深く関わる可能性のあることが分かり、研究が進められている。

負担の少ない「リキッド・バイオプシー」で、がん検診受診率向上に期待

がんの発生によって血中に増える物質を調べる、従来の腫瘍マーカーを用いた検査が、感度や特異度が低いためにがんの早期診断に向かないのに対し、「マイクロRNAを調べるリキッド・バイオプシーは、がんを早期に発見できる」と落谷先生は言います。

落谷先生が開発に取り組んだリキッド・バイオプシーの診断薬は、肺がん、乳がん、すい臓がんなど13種類のがんを高精度で検出することができ、先駆け審査指定制度※6の対象品目に指定されていることから、1日も早い承認に期待がかかるところです。

※6 最先端の治療をいち早く日本の患者に届けることを目的に、厚生労働省の承認審査の手続きで優先的な扱いを受けられる制度

「マイクロRNAがんマーカーの実用化によって、たとえば、乳がん検査の流れなどは変化していくことでしょう。現状では、マンモグラフィーなどの画像診断の結果でがんの疑いがある場合には細胞診(針生検)を行っていますが、その前にリキッド・バイオプシーを行ってハイリスクと判定された場合にのみ組織の生検をするようにすれば、受診者の負担は大きく軽減されるはずです」

このように患者さんごとに状態を見分けて、要観察か組織診かを決定することは、最新医療の「個別化医療」にもつながるというのが落谷先生の見解です。

日本企業の大半を占める中小企業での取り組みが今後のカギ

本イベントの閉会に当たり、中川先生は「いろいろな講演会や勉強会に協力させていただくなかで、がんについて、まだまだみなさんに正しく理解されていない点、知られていない事柄があると気づかされます。わずかな知識が運命を変えたり、不幸を避けられたりする要因にもなりますから、これからも積極的な活動を続けてください」と呼び掛けました。

さらに日本企業の大半が中小企業であることから、働く患者さんを本当の意味でサポートするためには、中小企業における取り組みが欠かせないと今後の課題についても明確にしました。

ポイントまとめ

  • 在職中に命を落とす疾患の9割ががんで、女性の社会進出や定年延長により働くがん患者は大きく増えていくことが確実視されている
  • 2009年より始まった「がん対策推進企業アクション」では、職場でのがん検診受診率を50%に引き上げ、がんになっても働き続けられる社会の構築を目指して活動を行っている
  • 「がん対策推進企業アクション」推進パートナー(登録企業・団体)は、2020年3月時点で3,315社・団体。大企業におけるがん対策が進展を見せはじめるなか、今後は、中小企業における環境整備が課題
  • 早期がんの場合、ほとんどが無症状のため、早期発見・早期治療にはがん検診が欠かせない
  • 放射線治療は99%以上が保険適用であり、多くのがんで手術と同等の効果も期待できる。治療時間が短く、通院治療も可能なことから、仕事と治療の両立に適した治療法ともいえる
  • これからのがん検診には、1滴の血液でがんの診断ができる「リキッド・バイオプシー」のようには体にやさしくて不安の少ないものが求められる
○講演者

厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 課長
江浪 武志(えなみ たけし)

東京大学医学部附属病院 放射線治療部門長 准教授
中川 恵一(なかがわ けいいち)先生

東京医科大学医学総合研究所 分子細胞治療研究部門 教授
落谷 孝広(おちや たかひろ)先生

○表彰企業 事例発表者

野村証券株式会社
人事部人事厚生課ヘルスサポート長 課長兼グループ長
水野 晶子 氏

テルモ株式会社
執行役員 人事部長 健康管理担当
竹田 敬冶 氏

田辺三菱製薬株式会社
人事部健康推進グループ 総括産業看護師
黒田 和美 氏

長野朝日放送株式会社
役員待遇「信州元気プロジェクト」本部長
五十嵐 洋人 氏

富士通株式会社
健康推進本部事業推進統括部 統括部長
東 泰弘 氏

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