酒は百毒の長!?
飲酒で高まるがん罹患リスク、節度ある飲酒を

公開日:2020年04月30日

日本人の2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで亡くなる現代。日頃からがんを意識して、睡眠や食事などの生活習慣に気を配っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。がんはさまざまな要因によって発症すると考えられていますが、生活習慣の改善などで予防できるものもあります。「飲酒」もその一つ。日常的にお酒を飲むことでがんリスクにどう影響するのか、最新研究も交えてお伝えします。

目次

日本人は飲酒で「肝臓」「大腸」「食道」の発がんリスクが上昇

WHO(世界保健機関)は2007年に「飲酒は口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸と、女性の乳房のがんの原因となる」と指摘しています。

さらに、国立がん研究センターのがん予防・検診研究センターの「日本人のためのがん予防法」によると、日本人男性を対象とした研究の結果、1日あたりの平均アルコール摂取量(純エタノール量)が46g以上の飲酒で40%程度、69g以上で60%程度、がん全体のリスクが上昇することが示されました。

日本酒なら2合、ビールなら大瓶2本、焼酎・泡盛なら1合と1/3、ウイスキーならダブル2杯、ワインならボトル2/3を超えると、がんリスクが高まることになります。

部位別では、肝臓・大腸・食道のがんにおいて飲酒の影響が「確実である」とされています。例えば大腸がんでは、1日あたりの平均アルコール摂取量が23~45.9g、46~68.9g、69~91.9gと増すにつれて、リスクも1.4、2.0、2.2倍と上昇しています。※1

アルコール摂取と大腸がんリスク(男性)

※1 アルコール摂取と大腸がんリスク(男性)

出典:国立がん研究センター 社会と研究研究センター 予防研究グループより作図
https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/793.html

喫煙者が飲酒をした場合はさらに、食道がんやがん全体の発症リスクが特に高くなることもわかっています。

そもそも、なぜ飲酒ががんの原因になるのでしょうか。アルコールが体内で分解される流れを見てみましょう。

アルコールは体内に取り込まれると、二日酔いの原因物質となる「アセトアルデヒド」に代謝されますが、アルコールそのものに加えて、このアセトアルデヒドにも発がん性があると考えられています。

また、アセトアルデヒドは肝臓の分解酵素などによって「酢酸」に分解され、最終的に炭酸ガスや水になって体外に排出されますが、日本人の約40%はこの分解スピードが遅く、少量の飲酒でも顔が赤くなったり吐き気がしたりする“お酒に弱い”体質です。これに該当する分解酵素の働きが弱い人は、アセトアルデヒドが食道がんの原因となるとされています。

図:アルコールの分解

図:アルコールの分解

e-ヘルスネット「アルコールの吸収と分解」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-002.html

1日当たりの飲酒量は日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本まで

1日当たりの飲酒量は日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本まで

「日本人のためのがん予防法」では「節度のある飲酒が大切」としたうえで、「飲む場合は1日あたりアルコール量に換算して約23g程度」と以下の通り提示しています。

■1日あたりのアルコール量約23gの目安

日本酒 1合
ビール 大瓶1本
焼酎、泡盛 1合の2/3
ウイスキー、ブランデー ダブル1杯
ワイン ボトル1/3程度

実際の生活では、飲む日と飲まない日がある人も少なくないと思いますので、「週150g」を目安に考えるとよいでしょう。

また「飲まない人、飲めない人は無理に飲まないようにしましょう」とも呼び掛けています。

1日1杯だけでも、がん罹患リスクは上昇する

1日1杯だけでも、がん罹患リスクは上昇する

飲酒ががんのリスク因子となることは以前から知られていましたが、東京大学らの研究グループが2019年12月に、少量の飲酒であってもがんの罹患リスクが高まることを発表しました。

東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学教室の財津 將嘉(ざいつ まさよし)助教らは、全国 33 カ所の労災病院の入院患者さんを対象とした調査を実施。新たにがんと診断された 6万3,232 症例と、同数のがんでない患者さんの飲酒習慣などを聞き取り、日本人に関する研究が少ない「低~中程度の飲酒ががん罹患に与える影響」を調べました。

その結果、がん全体の罹患リスクがもっとも低いのは飲酒をしない人でした。一方、飲酒量が多いほどリスクが高く、たとえ少量の飲酒であってもリスク上昇に影響を与えることも分かりました。

例えば1日1杯のお酒※2を飲む生活を10年続けると、がん全体の罹患リスクは5%上昇します。部位別でみると、最も上昇率が高いのは食道で45%、続いて喉頭が22%です。日本人に多いがんの部位では、大腸・乳房が8%、胃が6%となっています。

これまでは多量の飲酒に関する研究が主でしたが、今回の研究で、たとえ少量の飲酒であっても発がん率に影響することが示されました。論文は「がんを予防するため、飲酒によるがん罹患リスクの啓発活動をさらに強化する必要があると考えられます」と締めくくっています。

※2 ここでいう「1杯」とは、日本酒1合(180 ml)、ビール中瓶1本(500 ml)、ワイン1杯(180ml)、ウイスキー1杯(60ml)

今からでも遅くない。
早期発見のために、がん検診の活用を

今からでも遅くない。早期発見のために、がん検診の活用を

日本において最も罹患数が多く、死亡数も肺がんに次ぐ第2位を占める大腸がんは、飲酒によって罹患リスクが高まるがんです。初期段階では自覚症状がほとんどないため、早期発見のためには定期的ながん検診の受診がとても大切です。

部位別がん罹患数

出典:国立がん研究センター がん情報サービス 最新がん統計より作図
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

がん検診には、市町村が提供する「住民検診」などで国が推奨する検診を受ける「対策型検診」と、 医療機関や検査機関などが提供するサービス(人間ドックなど)を個人が任意で受診する「任意型検診」があります。

どちらの検診でも、大腸がんでは「便潜血検査(免疫法)」が強く推奨されています。がんやポリープなどがあると大腸内で出血し、便の中に血液が混じる場合があることから、事前に採取した2日分の便から目に見えない微量の血液を検出します。

対策型検診での対象者は40歳以上で、受診間隔は年1回。この検査を毎年受けることで、大腸がんによる死亡が60%減ると報告されています。便を検査するため副作用や事故もなく、安全に受けられる点がメリットで、検査前の食事や内服薬の制限もないため、普段通りの生活の中で受診することができます。

なお、飲酒で最も罹患リスクが上昇する食道がんは、対策型検診ではありません。日頃から飲酒量が多いなど気になる人は、ぜひ任意型検診の人間ドックなどを検討してみてはいかがでしょうか。

ポイントまとめ

  • 飲酒によって、肝臓がんや大腸がんなどさまざまながんの罹患リスクが上昇する
  • アルコールやその代謝物であるアセトアルデヒドに発がん性があると考えられている
  • 2019年12月に発表された研究によると、1日1杯程度の少量の飲酒でも発がんリスクが高まる
  • がんの予防・早期発見のため、日ごろから節度ある飲酒を心掛け、定期的にがん検診を受診することが大切
【当記事の参考】

国立がん研究センターがん情報サービス がんの発生要因
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/factor.html

e-ヘルスネット アルコールと癌(がん)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-008.html

https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20191209.pdf

国立がん研究センター 最新がん統計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

東京大学大学院医学系研究科 医科学専攻 低~中等度の飲酒もがん罹患のリスクを高める
https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20191209.pdf

国立がん研究センターがん情報サービス 大腸がん検診について
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/colon.html

コラム:熱い食事でがん!? 飲酒以外のがんリスク

がんの原因といえば、「タバコ」を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。喫煙者は肺がんをはじめ、胃がん、肝臓がん、すい臓がんなど、さまざまながんになりやすいことがわかっています。受動喫煙でも、肺がんのリスクが高まってしまいます。
意外なところだと、「熱い飲食物」で食道がんのリスクが上がることが「ほぼ確実」といわれており、口の中や食道の粘膜が傷ついてしまうことが原因です。食事をする前に一呼吸置いてなるべく冷ます、そのちょっとした日常の心がけでもがんを予防できます。

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