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20~30代のがん患者は女性が約8割!今から取り組みたい予防と早期発見

2019年10月、国立がん研究センターと国立成育医療研究センターは、全国のがん診療連携拠点病院などのがん治療専門施設において実施されている、院内がん登録の2016年〜17年のデータを集計し、小児がん及びAYA世代(若年成人)のがんをまとめた「院内がん登録 小児・AYA世代がん集計」を公表しました。そこから読み取れるのは、AYA世代では女性のがん患者の割合が高いということです。ここでは報告書の内容に触れるとともに、AYA世代のがんとその予防・早期発見の重要性を考えてみます。
目次
20代、30代のがん患者は女性が8割を占めている
AYA(アヤ)世代という言葉は聞き慣れない人も多いかもしれません。
AYAとは「Adolescent&Young Adult(思春期・若年成人)」のことを指します。学業や仕事、育児などに忙しい、学び盛り、働き盛りの年代です。今回の報告でも、0~14歳を小児、15~39歳をAYA世代として集計しています。
集計結果によると、2016年と2017年の2年間に、初めて治療を開始したAYA世代のがん患者は5万8,837名(16年は2万9,544名、17年は2万9,293名)でした。さらに本集計では、卵巣境界悪性腫瘍※1を除くAYA世代のがん5万7,788例を解析しています。
※1 卵巣にできる腫瘍は良性のものと悪性のものがあり、良性と悪性の中間的なものを卵巣境界悪性腫瘍という。
ここからわかったのは、AYA世代のがんは25歳を過ぎると急速に増えるということ。年齢別の割合を見ると、AYA世代(15〜39歳)のがん患者は15~19歳では3%、20~24歳は6%ですが、25~29歳になると14%、30~34歳は27%、35~39歳は43%と大きく増加しています。30代での発症が40代未満のがん患者全体の約7割を占め、AYA世代のがんに限ると約75%が30〜39歳でした。
「院内がん登録小児・AYA世代がん集計について(国立研究開発法人国立がん研究センター/国立研究開発法人国立成育医療研究センター)2019年10月18日」より作成
さらに男女別で見てみると、20歳〜39歳までのがん患者の約80%は女性で、年齢に伴い増えていくこともわかっています。小児から19歳にかけて男女の割合はほぼ同じですが、20歳を超えると女性の割合が増えはじめ、25~39歳に至っては圧倒的に女性の罹患数が多くなっているのです。
国立がん研究センターホームページ「院内がん登録小児・AYA世代がん集計について(2019年10月18日)より」
では、AYA世代にはどういったがん疾患が多いのでしょうか。詳細な解析結果によると、子宮頸部上皮内がんが最多で、次に乳房上皮内がんの順でした。つまり、25歳以降のがん患者の急増は、女性における子宮頸がんと乳がんの増加によるものだと、今回の発表では結論づけています。
子宮頸がんと乳がんは、若いうちからの予防・早期発見が大切
一般的にがんは高齢者に多い病気です。「地域がん登録全国合計がん罹患データ(2014~15年)」によると、男女ともにがんの罹患率は50代から増加し、高齢になるほど高くなっていきます。
一方、女性のがんを年代別・部位別で見てみると高齢になるほど消化器系と肺がんの割合が増加しますが、40歳代までは子宮頸がんや乳がんの割合が多数を占めており、女性特有のがんでは若い世代でも注意を払う必要があるということを示しています。
国立がん研究センターがん情報サービス 小児・AYA世代のがん罹患より
ただし、これらのがんは早期に発見すれば、比較的治りやすいことも分かっています。あるいは、予防を心掛けた生活を送ることで、発症リスクも抑えられるはずです。では、具体的にどうすればいいのでしょうか。
乳がんの原因は女性ホルモン。喫煙や閉経後の肥満もリスク要因に

日本人の乳がんは女性ホルモンを栄養として増えるタイプが全体の8割を占めており、若い年代で乳がんが多い理由の一つとなっています。初潮が速い方(11歳以下)と閉経が遅い方(55歳以上)など、生理の回数が多いほど乳がんになりやすいのです。出産経験がない方や、35歳以上での高齢出産も乳がんの発症リスクを高めるといわれています。
なお、閉経後には女性ホルモンの分泌は減りますが、これに代わり脂肪細胞の中にある酵素が、ステロイドホルモンを女性ホルモンに変換することが分かっています。そのため、閉経後の肥満は乳がんリスクを高める可能性があります。
また、乳がんでは遺伝的な要素も確認されています。人にはがんを修復する機能を持つ「BRCA1/2」という2つの遺伝子がありますが、片方もしくは両方に変異があると、遺伝性の乳がんや卵巣がんにかかりやすくなるといわれています。
BRCA1、BRCA2のどちらかに変異がある場合、80歳までに乳がんを発症する累積リスクは約70%と言われています※2。若くして発症した乳がんには、遺伝性乳がんが多く見られるため、身内にそうしたがんの経験者がいる方などは注意が必要です。
さらに喫煙が罹患リスクを高めることも指摘されています。現在、または過去に喫煙歴がある女性は、ない方に比べて、乳がんにかかる割合は3.9倍、喫煙はしていなくても受動喫煙があると2.6倍※3と、たばこは重大なリスクファクターといえるでしょう。

※2 日本HBOCコンソーシアム HBOCについてのQ&A参照
http://hboc.jp/about_hboc/qa/
※3 国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループ 多目的コホート研究「喫煙・受動喫煙と乳がん発生率との関係について」
死亡率を下げることが証明されている「マンモグラフィ検査」
乳がんの代表的な症状は、「乳房のしこり」「乳頭からの分泌液(主に血液)」「くぼみなど乳房の変化」「わきの下のリンパ節の腫れ」ですが、痛みはほとんどなく無自覚に進行が進みがちです。
一方、乳がんは早期の状態で見つかると治せる可能性が高いがんの一つでもあります。そこで重要なのが、定期的に乳がん検診を受けることです。
乳がん検診は国が推奨するがん検診のひとつで、市区町村などの自治体から委託を受けた医療機関等で受けることができます。対象年齢や実施時期、検査場所、費用負担は自治体により異なりますが、居住する自治体のがん検診担当窓口で確認できます。
厚生労働省は40歳以上の女性に対して、2年に1度の定期受診を推奨していますが、親族に若くして乳がんになった方がいる場合などは、より早い年代から検診を受けるなど、注意しておく必要があるかもしれません。
国が主導して行われている乳がん検診の方法は、死亡率を下げることが証明されている「乳房エックス線検査(マンモグラフィ)単独法」です。
「超音波検査(エコー検査)」などの方法もありますが、死亡減少効果を判断するエビデンスが不十分なため、対策型検診(国が主導して行う住民検診)としては行われていません。
ただし、2007~11年まで、7万人超の40代日本人女性が参加した臨床試験では、マンモグラフィとエコー両方の検査を併用した場合は、マンモグラフィ検査単独に比べて、1.5倍の乳がんを検出したという報告もあり※4、より精度の高い検診を希望する場合には、人間ドックなどの任意型検診(各医療機関などが任意で提供する医療サービス)を活用する方法もあります。
※4 「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験(Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial:J-START)」
https://www.amed.go.jp/news/release_20151105.html
子宮頸がんの原因はウイルスへの感染
子宮頸がんもAYA世代の女性に多く見られるがんで、乳がんより低い年代で注意が必要ながんです。発症の原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルス への持続的な感染だと考えられていて、性交渉による感染がほとんどです。
HPVは多くの女性が一度は感染するといわれるありふれたウイルスで、通常は自分自身の免疫機能により排除されますが、なかにはそうならず長期間感染が続いた結果、一部の人において細胞ががん化することで発症するといわれています。
また、乳がん同様、喫煙は子宮頸がんのリスクを高めることが知られています。
ワクチン接種と定期検診で子宮頸がんの予防・早期発見が可能に

子宮頸がんの予防に効果的なのは、HPV感染を予防するワクチンの接種です。日本でも、国が定める定期接種ワクチンの一つとなっています(2020年2月現在)※5。
※5 厚生労働省子宮頸がん予防ワクチンQ&Aより
ワクチン接種はウイルスに感染する前が効果的なため、標準的な接種は、中学1年生となる年度から無料で行えます。詳細は居住する市区町村の予防接種担当課に問い合わせて確認することができます。
また、予防ワクチンは原因となるHPVへの感染率を大きく下げますが、100%感染しないわけではないため、早期発見も重要です。早期の子宮頸がんは自覚症状がなく、生理以外に出血がある、閉経後の不正出血、不規則な生理などの症状がある場合は、すぐに医療機関を受診することが大切です。
また、乳がんと同じく子宮頸がん検診も国が推奨するがん検診に含まれていますから、積極的に検診を受けることも大切といえます。20歳以上の女性は、2年に1度の定期検診が推奨されています。
自分自身、そして家族のためにも日常生活での予防と適切な検診受診を
AYA世代に多く見られる乳がんと子宮頸がんは、生活習慣など日常生活での予防と、定期的にがん検診を受けることで発症リスクを抑えられる可能性があります。
ところが、日本人女性においては乳がん、子宮頸がん検診を含めた5大がん検診(胃がん・肺がん・大腸がん・乳がん・子宮頸がん)の受診率は30~40%代と低いのが実情です。※6
20~30代は公私ともに忙しい時期でもあり 、検診に行く時間が惜しいという人も中にはいるかもしれません。しかしながら、こうした若い年齢でがんによって命を落とすことになれば、自分はもちろんのこと、家族や同僚など、周囲の人も悲しませ、苦しめることにもつながります。
まずは、個人ががんに対する意識・知識を高め、がん検診などを活用しながら健康的な暮らしを心がけることが大切かもしれません。
※6 国立がん研究センターがん情報サービス がん登録・統計 がん検診受診率
ポイントまとめ
- AYA世代(15〜39歳)のがんは、25歳を過ぎると大きく増加し、30代が75%を占める
- 20~39歳のがん患者は女性が圧倒的に多く、全体の約80%を占めている
- 25歳以降のがんの急増は、女性の乳がんと子宮頸がんの増加が影響しており、こうしたがんは若い世代でも注意が必要
- 乳がん予防には喫煙や肥満を避け、定期的な乳がん検診の受診で早期発見・早期治療が可能
- 子宮頸がんには予防ワクチンの接種と20歳からの定期的な検診でリスクを大きく下げられる
- 参考文献
国立がん研究センター「院内がん登録 小児・AYA世代がん集計について」
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/1018/index.html国立がん研究センターがん情報サービス 最新のがん統計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html国立がん研究センターがん情報サービス 乳がん健診について
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/breast.html日本医師会ホームページ 子宮頸がん検診
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/cervix/cause/厚生労働省 子宮頸がんワクチンQ&A
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/qa_shikyukeigan_vaccine.html
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