【特集記事】口腔がんは早期発見・早期治療で治せる
口腔がん検診の普及で撲滅を目指す
「レッド&ホワイトリボンキャンペーン2019」

公開日:2019年11月29日
東京歯科大学口腔がんセンター センター長
柴原 孝彦(しばはら たかひこ)先生

2019年は著名人の口腔がんの公表などもあり、これまで胃がんや肺がん、大腸がんなどと比べてあまりよく知られていなかった口腔がんについて興味を持たれた方も多いのではないでしょうか。口腔がんは早期に発見して治療すれば治る可能性の高いがんです。そのためにはセルフチェックや口腔がん検診が有効です。

今回は、東京歯科大学口腔がんセンター センター長、柴原孝彦(しばはら たかひこ)先生に、口腔がんの早期発見と検診の重要性についてお話を伺いました。

目次

口腔がんの約6割は舌がん。その約8割は舌の縁にできる

口腔がんとは口の中にできるがんの総称です。できる場所によって口蓋(こうがい)がん、頬粘膜(きょうねんまく)がん、舌(ぜつ)がんなどと名前がついています。

■口腔がんの種類

出典:レッド&ホワイトリボンキャンペーン2019 ホームページ
(https://redandwhiteribbon.jp/)

口腔がんの中で一番多いのは舌がんで、全体の約6割を占めます。舌がんのできる場所は舌の横の縁の部分(舌縁:ぜつえん)が最も多く、約8割がここにできます。

「日本では口腔がんが増え続けていて、患者数は咽頭がんとの合計で30年前に比べて約3倍に増えています。この背景には、みなさんが口腔がんのことをよく知らないことが関係しています。

例えば、口内炎だと思って放っておいたら痛くなってしゃべれない、飲み込めないなどの症状が出て、慌てて病院へ行ってみたら、実は口腔がんだったといったケースが少なくありません」(柴原先生、以下同)

■口腔がん・咽頭がん患者数の増加

口腔がん・咽頭がん患者数の増加

日本では、口腔がん(咽頭がんを含む)が増え続け、30年前の約3倍に。

出典:レッド&ホワイトリボンキャンペーン2019 ホームページ
(https://redandwhiteribbon.jp/about/oralcancer-increase/)

「また、口腔がんは高齢者に多く、高齢化の進展が増加の一因であるとも考えられています。実際に、従前の男女比は3:1でしたが、男性に比べて長寿な女性の口腔がん患者さんが増えたことで現在は3:2となっています。さらに60代がピークであることに変わりはありませんが、10代、20代の若い患者さんが増えているのも最近の特徴です」

■口腔がんにかかる人の年代別・男女別の割合

口腔がんにかかる人の年代別・男女別の割合

かつては男性と高齢者のがんといわれた口腔がんも、近年では女性と若年層で増えています。

出典:レッド&ホワイトリボンキャンペーン2019 ホームページ
(https://redandwhiteribbon.jp/about/oralcancer-increase/)

口腔がんの原因は飲酒や喫煙、食生活の偏り、慢性的な刺激など

「口腔がんには、酒、たばこといった生活習慣や食生活の乱れに加えて、数は少ないですがウイルス、それともう一つ慢性的な刺激の関与などが原因として挙げられます。

慢性的な刺激には物理的刺激と化学的刺激があり、前者はたとえば歯や入れ歯が合わなくていつも舌に当たって傷がつくこと、後者は歯周病や虫歯などで口の中が細菌に感染した状態が続くことなどを指します。

また、お酒やたばこをのむ人の舌は、口腔粘膜は、膜が劣化して縮み白っぽくなっています。こうなった状態の粘膜に傷がつくと、それが引き金になってがんになりやすいといわれています。

食生活に関しては、偏食の人が口腔がんになりやすいと考えられています。鉄分やビタミンB、C、Eの不足、口腔粘膜の代謝に関与する亜鉛などの微量金属の不足などが口腔粘膜を劣化させる原因となり、最終的には口腔がんへ移行することもあります」

■口腔がんの原因と考えられるもの

口腔がんの原因と考えられるもの

青枠は「生活習慣」、赤枠は「口の状態」が原因となるものを示しています。
口腔がんの原因には生活習慣(酒、たばこ)、食生活、ウイルスなどのほか、慢性的な刺激も。「口の中の小さなトラブルからがんが始まる」とも言えます。

出典:レッド&ホワイトリボンキャンペーン2019 ホームページ
(https://redandwhiteribbon.jp/about/mouthrisk/)

早期発見で90%は治るはずが、日本の死亡率は米国の1.7倍

「ほほの内側や舌などは粘膜でおおわれていますが、この粘膜は8層のバームクーヘンのようになっている、厚さ約0.4㎜の上皮(重層扁平上皮:じゅうそうへんぺいじょうひ)細胞と、その下にある結合組織という細胞の集まりからできています。

口腔がんは、上皮の一番下層で結合組織に接している基底細胞層が分裂するときに発生するといわれています。上皮には血管も神経もないので、初期の段階では痛くもないし、出血もありません。ただし、よく見ると粘膜が赤または白い色になっているのがわかります。早期発見はこれを見抜けるかどうかが大きなポイントとなります。」

口腔・咽頭がんは、2016年の国立がん研究センターのデータでは死亡率が35.5%で、全25部位中12位。米国の19.8%に比べると約1.7倍も高い死亡率です。

一方、同じ重層扁平上皮がんでも、皮膚がんは6.2%と最下位。皮膚がんの死亡率が低いのは、目に見えるし触れることもできるので、早く発見されて早く治療を開始できるためです。

「口腔がんも本当は目に見え、触れることができるがんなのです。しかし、初期には痛みも出血もないこと、一般の人はもちろん歯医者さんにもよく知られていないことなどから発見や治療開始が遅れがちで、治りが悪く、死亡率が高くなっているのだと思います。

また、日本が先進国で唯一、口腔がんの死亡者数が増え続けているのは、口腔がん検診が普及していないことに多くの原因があると考えています。」

■海外諸国との口腔がん死亡者数の比較

海外諸国との口腔がん死亡者数の比較

先進諸国のうち日本のみ、口腔がんの死亡者数が増加し続けており、
国家的な課題になっています。

出典:レッド&ホワイトリボンキャンペーン2019 ホームページ
(https://redandwhiteribbon.jp/about/oralcancer-increase/)

「口腔がん検診による早期発見の意義は5年後に生存している患者さんの割合、5年生存率の確保です。全国がんセンター協議会の調査では、舌がんの5年生存率は早期がんでも86.9%、進行がんでは42.2%という結果が出ています。

これは全国のあらゆる施設を対象としていますので、このような数字になっていますが、本来、早期に発見すれば口腔がんは90%以上が治るがんだと思っています。

ただし、口腔がんは年単位で進行しますので、少なくとも1年に1回は口腔がん検診を受けていただきたいと思います。」

※全国がんセンター協議会の生存率共同調査(2019年4月集計)による

日本初の口腔がん撲滅キャンペーンで、歯科医と一般の人へ周知

2019年11月から1カ月、日本初の口腔がん撲滅キャンペーンとして「レッド&ホワイトリボンキャンペーン2019」(主催:一般社団法人口腔がん撲滅委員会)が行われました。キャンペーンの名前は、口腔がんの初期にみられる粘膜の変化が「赤と白」であることに由来します。今後は毎年11月に行う予定です。

口腔がん撲滅委員会は、キャンペーンを通じて歯科医と一般の人に口腔がんをもっと知ってもらいたいと、次のように話しています。

「いま日本には6万8,000軒の歯科医院があります。その先生方お一人おひとりに『口腔がんは早期に発見すれば治療できる』という自覚をもって検診を行っていただきたい、これがキャンペーンの主旨の一つです。

もう一つは一般の方々に口腔がんを知ってもらうことです。『1年に1度受けましょう 口腔がん検診』と印刷したポスターや紙コップを作り、歯科を受診した患者さんにも口腔がんのことを知ってもらって意識の向上を図ろうという取り組みなどを行っています。」

柴原先生は、口腔がん患者さんの生活の質を守ることが最重要課題だと指摘しています。

「口腔がんが進行してからの手術は、患者さんの生活の質(QOL)に大きく影響します。食べる、話す、味わうという人生の大切な部分を失いかねないのです。がんが広がると、顔の一部を大きく切除して顔の形が変わってしまう場合もあります。

このように術後の生活の質の著しい低下から、自殺率の非常に高いがんでもあり、WHO(世界保健機関)は『早期発見・早期治療』を勧告しています。」

「口腔がんは30年前に比べて約3倍にも増えていて、決して珍しい病気ではなくなったという現状を知っていただき、ぜひ早期発見のために、定期的に口腔がん検診を受けていただきたいと思います。」

ポイントまとめ

  • 口腔がんの患者さんは30年前に比べて約3倍で、最近は女性と若い人に増えている
  • 日本は、口腔がんによる死亡者数が先進国で唯一増加し続けており、その原因は認知度の低さと検診が普及していないため
  • 口腔がんは早期発見すれば90%以上治るので、1年に一度は口腔がん検診を受けてほしい

取材にご協力いただいたドクター

柴原 孝彦 (しばはら たかひこ) 先生

東京歯科大学口腔がんセンター センター長

コラム:口腔がん「セルフチェックの方法」

口の中に光が十分当たるようにして、鏡を使い舌の裏側、歯茎、ほほの内側、上あご、唇などをまんべんなく見て、触りながらセルフチェックを行ってください。

粘膜はよく見ると赤くなっていたり、白くなっていたりすることがあるので、その場合は要注意です。色の変化に気づくコツは、反対側の正常なところの色味と比べてみることです。

日常的に口の中をチェックする習慣をつけ、チェックリストで3つ以上当てはまる場合は、歯医者に行って検査をしてもらいましょう。

できれば1年に1回の口腔がん検診とは別に、3ヵ月か半年に一度くらいのペースで、口腔内の検査をお勧めします。

■:チェックリスト

チェックリスト

出典:「レッド&ホワイトリボンキャンペーン2019」ホームページ
(https://redandwhiteribbon.jp/)

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